ドーナツエンドの事件の概略
桜木との日々はまた苛立ちの連続だった。
毎日注意しているにも関わらず、上はタンクトップ、下は短パンと、非常に露出度の高い服装をした時には、言葉が出なかった。
相変わらず、訓練にも戦闘にも参加せず。
返答も、何も考えてないような様子で、明るくあっさり。
「あなたに、中将としての自覚はないんですか?」
「うん、ない」
ただ一方で、船内の雰囲気は少し変わっていた。
一つは、指宿が階級ではなく、尊敬の気持ちで桜木を見るようになっていたということ。指宿が兵士指導官であることが、周りへの影響ももたらしていた。
もう一つは、雨宮に航海のことを教えるようになったということ。とはいっても、教え方は雑で、雨宮が混乱するほどだった。ただ、知識の豊富さには周りも驚かされた。
そんな中、再出航から3日が過ぎた時、本部から連絡が有った。
「どうせ、私なんかみんながやりたがらない仕事をやればいいんでしょ。
わかってますよ!」
電話を切った後で植村は怒っていた。
「大丈夫ですか、船長?
何が有ったんです?」
そう、優しく声をかける伊竜の正面で桜木はニヤニヤしていた。
「ドーナツエンドの担当にでもなっちゃった?」
図星だったらしく、植村は桜木の顔を見ながらうなだれた。
ドーナツエンドとは島の名前。リアン王国最南端の島だ。ドーナツのような形をし、島の外側は断崖絶壁。島の入り口は一つしかない挙げ句に、島の中心の海の部分が波の影響を受けないよう、普段は閉門されている。開門されるのは1日4回のみ。それも、悪天候だったりすると中止されることから閉ざされた島と言われることもしばしば。
そんなドーナツエンド島で一隻の海賊船が忽然と姿を消したと通報が入った。どうやって島から消えたのか?どこにいるのか?それが今回強鷲号に与えられた任務だった。
どこまで信憑性のある通報かわからない。
明らかに、雑務。植村はそれに対して怒っているのだ。
「まあ、いろいろ思いはあるのでしょうが、仕事ですから頑張りましょう」
甲上は、今自分ができることは植村を励ますことだと思った。
「呑気な…」
その気持ちを踏みいじったのは、もちろん桜木だった。




