うまく逃げろ
キゼン島に着いた強鷲号一行は、桜木と落ち合う前に一つの事件に巻き込まれた。
桜木が来るのを船の上で待っていたところ、まだ10才にも満たないと思われる少年が、いい感じの雰囲気ではない大人たちに追われているのが見えたのだ。
助けに入る強鷲号のメンバーたち。
軍服を見た大人たちには逃げられてしまったが、少年を保護した。ただ、なぜか逃げようとして船に連れてくるの時間がかかった。
軽傷だったが傷を負っていた少年の治療を医務官が終えると、植村たちは彼から話を聞き始めた。
少年曰く、大人たちは、裏町で賊相手に店屋を営んでいる人たちだという。
少年は家族がおらず、裏町で過ごしており、お店から食べ物を盗もうとしたところを見つかり、追いかけられた言う。
「何で盗すもうとしたの?」
甲上の平和ボケした質問に少年は怒り出した。
「食べるもんがねぇからに決まってんだろ!」
植村と指宿が少年をなだめる。
「捕まえろよ。
あんたら、海兵だろ?
食べ物泥棒なんか、さっさと捕まえろよ!」
怯えながらも恐い顔をする少年。
ちょうどそこに桜木が帰ってきた。
「渚ねぇちゃん!」
「りょうた?」
互いに驚く2人。
2人の関係について桜木は『ただの知り合い』とだけ答えた。
事情聞いた桜木は大きなため息をついた。
「だから、うまく逃げろっていったじゃん?
店屋のおやじからも、兵士からも…」
海兵としてはあるまじき発言だが、そこは裏町育ちらしい発言でもあった。
りょうたは桜木に自分を捕まえるのか聞いた。
「いいよ、行きな」
大真面目な甲上や伊竜たちが躊躇いの表情を見せるなか、桜木は睨み付け、あっさりりょうたを解放した。
裏町に戻っていくりょうたを船の上から見送った。
指宿は複雑な顔をしていた。
その顔を見て、甲上が急に心配し始めた。
「保護とかしないんですか?」
「何で?」
桜木があっけらかんとした様子で返す。
「何で、って…
このままじゃ、彼はろくな人生を送れない」
「そういう運命もあるんじゃない?」
桜木の酷な台詞に、言葉を失う。
しかし、指宿だけは違った。
「助けて彼は本当にまともな人生送れますか?」
まっすぐ、甲上を見る。
「少なくとも裏町よりは…」
徐々に強く握られていく拳を、みんなが気づいていた。
「あなたに裏町で育つことの何がわかるんですか?」
「わからないです。
でも、助けられるなら、助けるべきだ!」
甲上は、対抗してしまう自分が本当は嫌だった。
「助けられたって、途中で捨てられたり、まともに育てちゃくれない人たちに育てられるなら、もっと辛い思いするだけ。
責任持てないなら助けられない方がいい!」
甲上めがけて振り上げられた拳に、目を瞑ることしかできない。




