死んだらそれだけのこと
初めて見る桜木の軍服姿に甲上は正直、かっこいいと思った。
「やっぱり、この服嫌いだ」
桜木が呟く。
ちょうどそのタイミングで、高速艇の準備ができたことを待機兵指揮官が報告し、藍沢が天気図を持って走ってきた。
天気図を一通り眺める桜木。
「…天気も大丈夫そうだし、最短距離で向かおう」
「あっ…はい」
待機兵指揮官は普段のふざけた桜木は知っているが、真面目な桜木は知らないのだろう。
反応が明らかに遅れていた。
「今吉を応援に行かせることも可能だ。
決して無茶はするな」
桐生の言葉に桜木は凛とした表情で頷いた。
去っていく桜木の走る後ろ姿を見て、確かに中将なんだと甲上は思った。
「桜木って、“行ってきます”とか言わないよな?
“ただいま”は言うし、“行ってらっしゃい”とかも言ってくれるのに…」
藍沢が不思議そうにする。
「帰ってこれないかも知れないし、必ず帰りたいとも思ってない。
死んだらそれだけのこと。
そういう考え方だからでしょう…」
桐生の言葉に笠原が反応したが、それがどういう意味合いなのかはわからないほど、一瞬で僅かな反応だった。
死んだらそれだけのこと。
桜木らしいとも思うけど、本当にそんな考え方ができるのか、甲上には謎だった。
この事案は、桜木たちが応援に入ってすぐに終息したが、事件発生から見ると何時間にも及ぶ抗争だった。
ただ、敵は王を狙うやからではなかったため、桜木のこの任はすぐに解かれ、翌日出航した強鷲号と王都の隣、キゼン島で落ち合うことになった。




