駒
甲上が思いを新たにした後の夕食時、事件が起こった。
中将以上席には桐生と藍沢しかおらず、本部内にはいるはずの桜木の姿は見当たらなかった。
「元帥、応援要請です!」
食事をしていた桐生の元に、慌てた兵士が来る。
王都近くで海賊が暴れ、近くの船が対応しているが、難しい状況に有ると応援要請が入ったのだ。
「第26支部に応援要請!待機兵指揮官、小型高速艇の準備と人選!26支部だけで、鎮圧は可能だろう。ただ、万一を考え、バックアップ体制をとる。笠原、桜木を探してこい!」
桐生の冷静な指示が食堂に響き渡る。
5分もしないうちに寝癖で、乱れたワイシャツ姿の桜木が現れた。
「寝てたのか?」
桐生は注意するどころか申し訳なさそうな口調だった。
「りょうちゃんから内容は聞いた」
「行けるか?」
「もちろん。
何を躊躇ってるの?」
桜木の口調は優しく、桐生を心配しているようだった。
「王都に近いってことは、王を狙ってるやつらかも知れない。
そういう一件に私を巻き込みたくない?」
4年前の大事件。あの時、主要人物となった桜木に、王が狙われている類いの事件を任せれば、また、勝手なことをしかねない。
「でも、私しかいないから呼んだんでしょ?
私はきーきの駒だ。
もう、元帥はきーきなんだから。
あとは、命令さえしてくれれば、それでいいんだよ」
ついさっきまで、元帥と認めていないと言った同じ人間とは思えない発言。
二人の間を流れる無音の時間の中に笠原が桜木の軍服を持ってきたが、その空気を邪魔することはしなかった。
桜木と桐生の謎な関係。
自分を“駒だ”とあっさり言った桜木の思い。
桐生が悩んでいた時間は
数秒だったが、その間に甲上はいろいろ考えてしまった。
「桜木、頼んだ」
「了解」
と同時に桜木は乱れたワイシャツを直し、笠原から受け取ったネクタイを締め、中将色である臙脂の軍服を着始める。
桐生が話し始め、桜木は軍服を着ながら、耳を傾けた。
「強鷲号は明日出航だが、とりあえず、気にしなくていい。
まずはこっちに集中しろ。
逐一報告をすることを忘れるな。
お前の報告次第で、次の対応を考える」
普段は下ろしていることが多い髪を器用にまとめ、シニヨンにすると、臙脂の軍服のオフィサーコートを羽織った。
初めて見る軍服姿に、甲上は目を奪われた。




