渦中の人物
元帥室を出た一同は、異様な緊張感からようやく解放された。
「植村さん、桜木さんと元帥はどういう関係なのですか?」
「知りません」
植村は機嫌が悪い様子だった。
植村が去ったあとで、伊竜がため息をつく。
「何でもかんでも、船長に聞かないで下さいよ。
朝も朝食のあとも聞いてたみたいですけど、あの人だって、渦中の人物の一人なんだ」
見張っていたのは伊竜だった。
そして、甲上は思い出した。伊竜は最初から桜木に名前で呼ばれていたことを。
伊竜曰く、宗谷が生きていた時、宗谷派と桐生派に分かれていたらしい。宗谷と桐生は同い年だが、宗谷は小卒入軍。桐生は高卒入軍で3年の差がある。元から知り合いでもなかった二人ははじめは互いを意識することは無かった。しかし、互いの階級が近づくに連れ、意識するようになり、両者が大将になった時から派閥ができたのだ。とはいっても2人の仲はいがみ合っているとかではなく、互いの理想を語り合い、酒を酌み交わす間柄だったという。
植村は桜木とは友人のため仲がいいが、海兵としての植村は、本部に来て最初に配属された船も副船長を経験した船もも桐生の船で、桐生のことを恩師と思っている。そして、桜木は宗谷派。先の桜木の桐生に対しての言葉は、植村を苛立たせるには十分だった。しかし、だからと言って桜木を嫌いになったりはしないだろうとも伊竜は語った。植村は、桜木と桐生の関係の全てを知っているわけではない。そして、何かなければあんな態度はとらない。だから、桐生に対しての態度で苛立っても、それを本人にぶつけることはないだろうとのこと。
「植村さんも渦中の人物。
その人に話を聞き出そうなんて、あなたは本当に勇気のある方なんですね」
皮肉を言い捨て、去っていく伊竜に甲上は何も言うことはできなかった。
その関係性を甲上は考えようともしなかったから…
「あの人も渦中の人物なのに、よく言うよ…」
指宿が呟く。
「どういう意味ですか?」
「頭いい人って他人の話、聞かないって聞いたこと有るけど、本当なんですね?」
悪気はない様子だった。
「元帥が言ってたじゃないですか?
強鷲号のトップ3の人事を提案したのは桜木中将だって…。
つまり、桜木中将は伊竜さんのこと、以前から知ってたってことになりませんか?」
確かにそうだが、伊竜が過去に大きく桜木と関わった経歴はない。今吉の船に長いこといて、桜木と今吉は仲がいいという話は聞いたことが有り、そこで出会っているとは思われるが、だからと言って、深い関わりが有るとは思えなかった。
「監査官。
あなたも仕事なんでしょうから、色々調べなければいけないのかも知れませんが、仕事以上のことはしない方がいいですよ。
何年居たって上の人たちの関係性は把握仕切れない。
来て半年のあなたにわかるわけがない。
それに、あなた方が追い出したがたってる桜木中将ですが、あの人の仕事に対する姿勢が兵士に影響が有ると感じたため、兵士指導官という立場として意見致しましたが、解答の事件を解決するだけの頭脳、他の上層部の方々に信頼されているのを見た今、噂も信用できませんし、これ以上自分の身分で逆らうことは許されないので、その事、ご理解下さい」
指宿は消して自分の保身のためという感じではなかった。
海軍は階級社会。
上の人間、ましてや中将という誰もが憧れる地位にいる人間に理由なく逆うなんてことはしない。そう、勝手に身に付いていくものなのだろう。
甲上もそれについては理解をしていた。だから、指宿に何かを求めることはしなかった。




