お断りします
桐生が桜木の話をしていたところに、特任業務の報告のため笠原が来た。
一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに無表情になる。
いつもの無表情だ。
「申し訳ございません。後程、参ります」
立ち去ろうとした笠原を桐生が呼び止めた。
「お前も明日、神矢のところに戻るんだったよな?
強鷲号に乗せてもらったらどうだ?」
神矢船のいるところに行くのは、予定の航路から少し外れる程度で、気を使うレベルではなかった。
しかし
「お断りします」
と無表情のまま笠原は答えた。
「同じ船の配属ならともかく、業務以外であの人と一緒に居たく有りません。
酒を一杯飲む程度ならわかりますが、何時間もプライベートで一緒にいる人間は更に理解できません」
笠原は植村を見ていた。
植村は“私か?”という表情だったが、みんなが“あんたしかいないよ”と心の中で突っ込みを入れた。
「意外だな。
もう少し桜木のことを慕っていると思っていた」
甲上もそう思っていた。
「あの人と長い時間一緒にいると疲れます」
桐生や植村が納得した顔をする。
「ただ、尊敬はしていますし、何度一緒に仕事をしてもあの人の才能には驚かされます。
あの人の仕事のためなら、この命を捨てても構わないとも思っています」
笠原はそこまでを言うと、「失礼します」と出ていった。
「私的には、桜木より笠原の方が謎だな」
桐生の呟きには甲上も同意見だったが、それでも桜木の方が興味は有る。
少しして、今度は桜木がやっときた。
茶色のショートパンツに白の半袖、その上に黒のケープを羽織っていた。
前にもこの服装は特任業務に行くときに見たことがある。
そして、桐生もその服で察したのだろう。
「何か有ったのか?」
「べ・つ・に。
暇だから、裏町に行ってただけ」
おどけたような口調。
仕方なく、桐生はそれで納得し、しばらくまだ強鷲号での任務を続けるよう伝える。
「…それだけなら、もういいですか?」
「待て。
そんな話だけで、お前を呼び出すか?」
桐生の低い声が響いた。




