仲間じゃない
次の日の早朝、塩谷は裏門から静かに出て行こうとした。
しかし、塩谷の船のメンバーや世話になった人間で裏門は賑わった。もちろん、実行犯の2人の姿も有った。
「塩谷さんありがとうございました」
2人は深々と頭を下げた。
「いいんだ。
頑張れよ」
そんなやり取りの中、遠くから声が聞こえた。
「いいから、自分で渡せよ!」
相馬が桜木を無理矢理連れて来る。
桜木は渋々持っていた酒瓶を塩谷に渡した。
「桜木からの餞別だってさ~」
相馬はニヤニヤしていた。
「この酒、昔、俺と桜木を酔わせるためにたくさん用意したのに、結局桜木が一番強かった…。
懐かしいな」
と、一枚の紙がラベルに貼ってあることに気づいた。
その紙を開くと、塩谷は驚いた顔を桜木に向けた。
「そこに知り合いがいる。
あんたの話をしたら、そんな実力者なら、雇ってやるって言ってた。
興味が有るならそこで働けばいい」
桜木は無表情だった。
でも、口調はちょっと恥ずかしそうだった。
「ありがとう。
もう仲間でも何でもない俺に…」
それに対して桜木は何のリアクションもしなかった。
そのまま後ろを向き、歩き出す。
塩谷が息を吐きながら肩を落とした、そのわずかな音を拾ったのか、桜木は数歩で足を止めた。
「もう、仲間じゃない。
でも、仲間だったあんたの名前を慰霊碑に刻まずにすんで良かったよ。
どんな最低なやつでも、仲間の名前を刻む方がもっと嫌だからね」
桜木は最後まで無表情を貫いた。
でも、その言葉に秘めた思いは、『無』なんかでは無かった。
朝日が優しく海軍本部の外壁を照らす中、甲上は、深呼吸をした。
桜木は毎日船の上でこうしていた。
同じ風でも、海と陸では違いがある。
甲上は陸、もっと言えば林の中とかの風が好きだ。
でも、きっと桜木は海上の風のほうが好きなのだろう。
「思ったより、すっきりした顔をされてるんですね?」
そう、話しかけてきたのは植村だった。
「もちろん、ショックでしたよ。
でも、私は私の道を進むしかない。
やりたいことも有りますしね」
「渚のことを知りたい?」
植村の回答に甲上驚いた。
「じゃあこれからは、ライバルですね」
植村はにこっと笑った。
甲上も思わず、笑みを浮かべる。
「じゃあ、そのライバルに4年前のこと教えて頂けませんか?」




