初めて向き合う
夜、みんなで酒を飲んだ。監査本部しか知らない甲上には見慣れない光景だったが、海軍では昔から大きな事件が解決するとみんなで飲むのが伝統らしい。複雑な想いから変なテンションの人間もいたが、楽しげな雰囲気だった。
そこに桜木の姿が見当たらないことに甲上は気づいた。
「桜木なら慰霊碑を掃除していると思うよ。
毎回、帰ってくるとやってることだし、今回は裏切り者を入れたことを謝ってるだろうしね」
藍沢の言う通り、桜木が涙を流しながら丁寧に慰霊碑を掃除していた。
「泣いてる姿わざわざ見に来るの、あなたの趣味ですか?」
「別にそういうわけじゃ…」
間違えなく桜木が言った理由ではなかったが、かといって、明確な理由が有ったわけでもなかったので、それ以上言葉が続かなかった。
なんとか言葉を探そうとするも出てこない。
そこに、桜木のため息が響く。
「安心して。
出ていけ、なんて言わないから。
少なくとも甲上さんが海を大切にしなかったり、海軍を裏切らない限りは…。
あと…りょうちゃんを裏切り者って言ったことを撤回してくれるなら」
桜木は背中を向けたままだった。
でも、優しい顔をしているように甲上は感じていた。
そう言えば昨日から桜木のあの嘘っぽい笑顔見ていない。
「撤回させて下さい」
甲上はゆっくり桜木に近づいた。
涙を拭う時間が必要だと思ったから。
「どうして、今回の事件の真相に気づいたんですか?
たぶん…あなたは、かなり早い段階から監査主任が主犯だと気づいてましたよね?」
「確証はなかったですよ。
ただ、りょうちゃんが容疑者になった時から、おかしいなって…
アリバイが多少でもあるりょうちゃんより、アリバイの全くない塩谷の方が疑われるべきだ。
もし、捜査の主導権を握ってる人間が主犯なら、犯人をでっち上げることぐらい、いくらでもできるんじゃないか。
そう思っただけです」
桜木は疲れているのか、言葉に覇気が無かった。
「ところで、私の処分は?
あなたに剣を向けた…」
「そんなこと有りましたっけ?」
甲上は精一杯とぼけた。
でも、桜木が思いの外、真面目な顔をしていたので、やめた。
「まあ、どうしても処分をご所望されると言うのであれば、これからもあなたを調べさせて頂きます」
「…面倒くさ…」
本当にそう思っているのだろう。
桜木は嫌そうな顔をした。
だが、その表情はすぐに変わった。
「まあでも、私の側にはいていいですよ」
「えっ?」
桜木の真剣な目を見て、甲上は思った。
初めて、この人と向き合えたような気がする、と。
ただ、桜木というまだまだ謎だらけの人間のこの言葉を理解することは、甲上にはできなかった。




