事件は昨日、終わっていた
会議室に一人の男が入ってきた。
短髪の白髪が似合うおじ様系。
新たに海軍に監査主任として配属が決まった志摩監査官だ。
志摩は一直線に桜木の目の前に来て、握手を求めた。
「お久しぶりです。
4年前、私の取り調べ中に逃げ出された以来ですね」
「そうですね」
桜木は笑顔で握手に答えた。
志摩は桐生の方を向き、互いに挨拶を交わすと
「では約束通り、彼はこちらで引き取らせて頂きます」
と言い、監査主任は“約束通り”という言葉に引っ掛かった。
「実は、事件は昨日終わっていました」
昨日、甲上が事件の真相を知った直後、強鷲号に塩谷と相馬が来た。塩谷は桜木に話が有り、その様子が心配になった相馬が着いてきたのだという。
そして、塩谷はいきなり、桜木に土下座した。
真剣な塩谷とは反対に、桜木は冷めた目で塩谷を見ようともしなかった。
「桜木、お前に頼みが有る。
今回の事件の犯人は俺だ。
俺はどうなっても構わない。
ただ、実行犯の2人をお前の力でどうにか助けて欲しい。
あいつらはただ俺が使っただけなんだ。
ただ昇進したかった。
それだけの理由で俺に協力してくれた」
「お前、桜木が裏切り者をとことん嫌うこと知ってるだろ?」
相馬は驚きを隠せないながらも、必死で状況を飲み込んでいた。
「わかってる。
だから俺は出ていく。
それでも気がおさまらないなら、殴るなり、殺すなりしろ!
覚悟はできてる」
その言葉に答えるように桜木は太ももの短剣を握りしめた。
慌てて止めに入る相馬。
「そこまでする必要ないだろ?」
「海軍ってそんなにあまかったっけ?」
そう冷めた目で言った桜木の剣を握る手が震えていることは、みんなが気づいた。
相馬は桜木の前から動こうとはしなかった。
大きくため息をつくと、桜木は剣から手を離し、本部に連絡を入れ始めた。
そこで、本来なら海軍でも取り調べられるべき監査主任を監査本部に引き渡すかわりに、海兵3名の処分は海軍が決定する約束をするよう桐生に提案したのだった。
塩谷は出ていくことになったが、実行犯の2名は軽い処分だけで、海軍に残れることになった。
「どこまでも、すごいやつなんだな」
去り際、監査主任は桜木にそういい放った。
「本当に優秀な人間は、こんな事件なんかに首を突っ込むことなく、他の仕事をしてますよ」
桜木は目を合わせることなく、無表情のまま答えた。




