出ていけ
「彼女は、あなた方がキャリア体制を唱える前から、ずっと同じような改革を提言してきました。
“みんなが羨ましいっていう才能が有っても、年々経験を積んできても、長年働いてきた人とは経験値に差が有り、じっくり学んできた人の知識量には敵わない。
海軍内で知識を身に付けられる場を。
知識溢れる者たちが活躍できる海軍に。
そして皆が一様に経験を積めるように”
と前元帥の弓長さんや、宗谷に話していたそうです。
しかし、すぐにその全てを身につけた海兵を育てられるわけじゃないことも彼女はわかっていた。
だから4年前、神楽を中将に推薦した」
神楽中将。現在の中将以上の中で唯一のキャリア組。
「そして、今回の各船の人事もそれぞれを備えた人材を揃えることを提案した。
特に強鷲号は植村・伊竜・薪、それぞれ才能・知識・経験を持った人間がトップに居ることで、若者が揃った船でも安定感の有る体制にした。第一支部の件が有ったとき、彼女は自分が支部に行くと言い出した。様々な状況を鑑みて、薪少将に行ってもらいましたが、彼女は最後までその体制を崩したくはないと私に言ってきました。
それぞれの能力を持った者が、協力し合うことで、それぞれの欠点を補う。
それが彼女の進めてきたキャリア体制で有り、今回のキャリア体制に意見は有っても、決して反対はしていないんです。
だから、あなたを犯人にでっち上げる必要も彼女には有りません」
「そんなのわからないじゃないか。
私を恨んでるとか…」
まだ、監査主任は諦めていなかった。
「いい加減にしてください!」
甲上の目には涙が浮かんでいた。
「恨んでるよ」
人々の間から静かに声が響いた。
「でも、恨み始めたのは、りょうちゃんを犯人に仕立て上げた時からで、最初からじゃない」
そう話しながら歩きだした桜木に、自然とみんなが道を開けた。
そして、監査官の目の前に立った。
桜木は恐ろしいほど無表情だった。
「出ていけ。
ここは国や海軍のために必死になってる人たちが働いてる場所で、夢半ばで命を落とした人が眠ってる場所。
裏切り者がいるべき場所じゃないし、裏切り者を作り出した人間がこれ以上汚していい場所じゃない。
私に殺されたくなかったら、さっさと出ていけ」
監査主任が桜木を鼻で笑う。
「私を殺せば、お前は海兵でいられなくなるぞ」
「別にいいよ。
元々、海を守りたくて海兵になっただけ。
私には何でこんな国のためにみんなが必死になれるのか理解できない。
でも、必死な人たちがバカにされたり、死んでいくのは見たくない。
だから、その人たちを守るために海兵でいる。
あんたを排除してみんながまた仕事に集中できるなら、私はどんなことだってするよ」
桜木のまっすぐな言葉に監査主任は落胆した。
陸軍にも監査本部にも夢や理想を持って入った。
それが今、監査主任には理解できない理由で海兵をやっている桜木の方が正しいことをしている。
監査主任は力を失くしたように座り込んだ。
そこに一人の男が入ってきた。




