裏切り者
神矢船・相馬船が強鷲号に集結した翌日、笠原は海軍本部内だが、監査主任の命令で勾留された。
「何で笠原さんが捕らえられるですか?」
そう甲上に食って掛かったのは指宿だった。
指宿は去年まで神矢船の船員だった。そこで笠原とも一緒だったからというのも有るのだろう。
深い関係はなくても、笠原がどんな人間かぐらい、少しはわかっていた。
指宿曰く、神矢とはタイプが違うが、厳しい人。無口なせいで、更に怖く感じることもあったけど、神矢に叱られた兵士に声をかけたり、悩み事を相談すれば真剣に聞いて考えてくれる人だという。
別にそれが、事件の犯人ではないという証明にはならないことぐらい指宿にもわかっている。
それでも、彼が犯人だと思いたくない気持ちは他の者たちにも有った。
ただでさえ、今回の事件に既に2人の海兵が関わっている。
2人と共に過ごした時間が有った者もいただろう。
彼らにいろいろ教えた者もいただろう。
そもそも、同じ海兵になった人間がこんな悲しい事件を起こした。
みんな平気なふりをしていたけど、平気ではなかったのだ。
「我々にもちゃんと理由を説明して…うっ…」
桜木が指宿の後台襟を掴んで後ろへ引っ張った。
桜木の目は据わっていた。
「こいつの分も含めて、文句でも処分でも受け付けますから、笠原少将を疑う理由を話して下さい」
「それを、話せないことぐらいあなたもわかってるでしょう?」
と言った瞬間、甲上の首筋に冷たいものがあたる。
桜木の短剣だ。
「だから…
処分でも受け付けるって、言いましたよね?」
唾も飲み込めないくらいの殺気が甲上を襲う。
そして、その甲上を誰も助けようとはしなかった。
そりゃ、そうだ。
甲上はそもそも部外者で有り、桜木が聞き出そうとしていることはみんなも知りたいことなのだから…
「わかりました…」
なんとか声を出す。
やっと短剣が首筋を離れた。
「笠原少将はずっと裏切り者だったんです」
みんなが驚くなか、桜木は驚いていなかった。
というより、反応すらしなかった。
甲上は不思議に思ったが、話を続けた。
「入軍して間もない頃から、彼は海軍が担当している事案の情報を流し、反対に陸軍からも受け取っていました。
彼が早いスピードで昇進してきた理由となった案件の中に、陸軍からもらった情報も含まれています。
キャリア体制が進むにあたり、こういうことも徹底的調べられる。そうすれば、彼の進退に影響します。
また、解答の事件の他にも事件を起こし、成功させれば、キャリア体制反対派を増やすことができかもしれない。
そうすれば、キャリア体制推進をストップさせられる。
それらが、彼の目的、事件の真実だと我々は考えています」
「我々?」
やっと、桜木が反応した。
「それは、監査主任が考えた真実じゃないの?」
確かにそうだった。
決して甲上の考えた真実ではない。
だが、事件の全体を見てきた監査主任が考え導き出した答えを、疑う理由が無かった。
「あなたには、本当の真実を見つめる気がないのですか?」
桜木がまっすぐ、甲上を見つめる。
「それは有ります」
見下された気がして少し苛立つ。
「それがどんな真実でも?」
「もちろん」
桜木が2枚の紙を甲上に渡した。
甲上はこの後、驚愕することになった。




