中将は中将
「シンさん!」
「元気そうだな、嬢ちゃん」
「元気じゃないわけないじゃないですか~」
この二人の関係性を理解するのに周りは必死だったが、桜木は気にも止めず、自分の席に荷物を置くと、調理台の隣の戸棚を開け、お酒の準備を始めた。
すると、薪は桜木に深々と頭を下げた。
「この度は、第一支部の一件でご迷惑をおかけすることになり、申し訳ございませんでした」
桜木はコルクを開ける手を一瞬止めた。
「…別にシンさんのせいじゃないでしょ」
「それでも、去年まで第一支部を統括していた人間として、後進の育成が不十分だったということです。
どんな事態にも対応できる、私はそんな人間を育てることができなかった」
これが地位の差なんだと、誰もが思った。
どんなに相手が年下でも
どんなに相手が周りからバカにされている上司でも
それでもこれが海軍社会の礼儀なんだ…と。
甲上は正直、理不尽だと思った。
「相変わらずですね、シンさん。
20年前もあなたはそうだった」
20年前。まだ桜木は幼い子どもで雑用だった頃だ。
「あの時、シンさんは部下のミスを自分の責任だと言い続けた。
シンさんを右腕としてそばに置き続けたかった本宮(前々元帥)さんは、シンさんの責任ではないと庇ったのに、シンさん自身が自分の責任だと言い続けたことにより、支部へ左遷させられた。
他の人のミスは笑い飛ばすのに、自分と自分が天塩にかけて育てた人間のミスには誰よりも真面目になる。
面倒なくらいに…」
「すいませんね、面倒で」
「それで?」
グラスに少しだけ注がれたお酒を桜木が薪に手渡した。
「すいません。まさか、シンさんが来ると思ってなかったんで、シンさんの好きなお酒用意してなくて…」
桜木が飲んだ後で薪も飲み始めた。
「充分美味しいよ」
薪のその言葉に少し恥ずかしそうにする桜木。
しかし、自分のグラスの中がなくなると表情が一変した。
「それで?
謝りに来た訳じゃないですよね?」
薪が“さすが”と呟くかのように笑った。
「一応、半年近く一緒に過ごした仲間として、どうしてるのか気になったのと…」
そこから先は周りには聞き取れなかった。
桜木の耳元で告げられている言葉を甲上は読唇しようとしたが、すぐに話が終わってしまい、ほとんど読み取ることができなかった。




