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増えるレベ上げ仲間と情けない男、まあ俺

「おおぉうりゃ!!」


 と、熱い一撃を繰り出したのは剛田一心(ごうだいっしん)さん。俺と話してたおじさんね。


 あの後ネクさんに相談してハンマー使いの重戦士として戦うことにしたらしい。両手持ちのでっかいハンマーと黄色いヘルメットがすっげぇ似合ってる。

 暫くはうちのダンジョン周りの雑魚敵を狩って、一度進化してから町に向かい家族の行方を追うことにしたようだ。


 ゴーさんは元々大工をしていてガタイがいい。ゴブリンもデカイトカゲも木の棒みたいな人形も、全部一撃で倒していく。マジ半端ない。


「ゴーさんどう? やれそう?」


「おう、騎士殿。生きてた頃よりパワーがあるぜ、このデカイハンマーを振り回せるぐらいだからな!」


 ゴーさんがちゃんとやれるか見ていてやれと言われて付いてきたけど、この調子なら大丈夫なんじゃないかな。なんなら俺より強そう。


「俺たちはそうそう死な無いけど、首を撥ねられたり、胸のとこにある結晶を砕かれたりしたらアウトらしいから、気をつけてね。」


「ああ、分かってる。出来ることから、少しずつやっていくさ。まずはレベルを上げて進化、だろう?」


「そゆこと、ゴーさんのやりたい事をやる為にも、絶対に死んじゃためだよ?」


「…だな、もうあんな思いはしたくねえ。」


「じゃあ、ダンジョン周りは任せるよ。俺は二人を連れてゴブリンのダンジョンに行ってくるから。」


「任せときな、そっちもしっかりな、色男。」


 ゴーさんとハイタッチをして別れる。そんな俺達を笑顔で見つめる二人。

 そう更にレベ上げ要員に二人志願したのだ。まあ、ちくびちゃんとゾンちゃんなんだけどね。何でも、ネクさんがズルをして、二人が進化する時は体を弄ってやると言ったらしいんだよね。


 それを聞いた二人がすっごいやる気になってて、俺も手伝うって言ったんだし、じゃあ三人で行こうってことになった。


 さあさあ、お二人さん、ゴブリン狩りに出発しますよ。







 ゴブリンダンジョンは昨日と変わらずの様子で、ライトで照らした小部屋は、またゴブリンがたむろしていた。


「じゃあ、引っ張って来るから、心構えはしといてね? 初見はちょっとビビるかもしれないし。」


 ニコニコしてるちくびちゃんと、緊張してるゾンちゃんに言っておく。吹っ切れてる俺と違って、二人は訳わかんないうちに殺されたらしいから。


「大丈夫よ、ナイトちゃんが居てくれるだけで、落ち着いて戦えるから。」


 長めの杖を持ったちくびちゃんは、力コブを見せつけるように腕を曲げる。結構いい筋肉してるね。


「わ、私もやれます、その、恥ずかしくない姿を見せたいので…」


 刃の大きいナイフをグッと握って、ゾンちゃんも答える。刃物は怖いって言ってたんだけど、ゾンちゃんの力じゃゴブリンを殴り倒せないと思うから、ちょっと頑張って貰った。


「まずは一体流すから、二人で戦ってみて。殴られても痛くないから、攻め気味で良いかもしれない。」


 言い残して、俺はダンジョンに入る。今日はバルサンは使わない。在庫限りだし、二階より下で使いたいからね。

 変わりに、ホイッスルを持ってきている。これがあれば注意を引けるでしょ。


 小部屋の外に立つと、中にいたゴブリンが俺に気づく。耳を塞いでホイッスルを鳴らすと、ゴブリンは驚いたのか、向こうに行くやつとこっちに来るやつに別れた。

 都合が良いのでそこで二体倒し、残りの二体を連れてダンジョンを出ることにした。


「二人とも、任せたよ!」


 ダンジョンの外で、一体を転がして盾で押さえ、もう一体を二人の方へ誘導する。


 ゴブリンは多分すごく馬鹿なので、俺より弱そうな二人に目をつけたらしい。後ろに俺が居るにも関わらず、ゾンちゃんに向かって走って行った。


 ゾンちゃんは覚悟が出来てたみたいで、向かって来るゴブリンに向けて、ナイフを構えて走り寄る。

 ゴブリンも流石に慌てたのか、ゾンちゃんの腕を抑えて、拮抗状態になる。そこに杖がポカン、頭を殴られたゴブリンは腕の力が緩み、ナイフで胸を突かれて絶命した。


「はーい、もう一体。」


 俺がゴブリンを放つと、力加減を理解したのか、ちくびちゃんが杖をフルスイング。ゴブリンは頭を陥没させて生き絶えた。


「二人ともお疲れ。どう? やれそう?」


 肩で息をするゾンちゃんに、杖を素振りするちくびちゃん。いくら相手がモンスターとは言え、命を奪うって感覚、俺は特に何も思わなかったけど、二人はどうだろう? もしかしたら、もう辞めたいって思うかもしれない。


「力が強くて、驚きましたけど、大丈夫です。」


「思ってたより硬かったわね。ま、次も一発で逝かせてあげるわぁ。」


 二人の返事にホッとする。良かった、俺を異常者みたいに言われんじゃないかって、少し怖かったんだよね。


「それなら安心だね。ここからは乱戦だから、二人も頑張って。」


 そう、下に行ったゴブリンが、仲間を呼んで来たのだ。見えてるだけでも十以上。それがギャアギャア言いながらダンジョンを出てくる。取り敢えず、首を飛ばした。


「沢山倒せばそれだけレベルアップに近づくから、俺は気にせずどんどん倒して。」


 言いながら、ホイッスルを吹いてゴブリンの注意を俺に向ける。二人が背後を取れる形だ。


「じゃ、俺の経験値になってくれ。」


 正面のゴブリンに剣を突き立てて、俺達は乱戦を開始した。








「たっだいまー。」


「ただいまぁ。」


「も、戻りました…」


 あれから暫く、ゴブリンはゾロゾロと這い出てきて、結局三十以上のゴブリンを倒す事になった。

 お陰で何となく、レベルが上がった気がする。


『おお、丁度良く戻ったな。今し方、風呂が完成した所だ。』


「え、風呂? マジで?」


 ネクさんは相変わらず住環境の品質向上に努めているみたいだ、今回は誰のお願いか、お風呂を作っていたらしい。


 因みにここまでお願いをした事があるのは俺だけだった。これ以外はちくびちゃんのバーだけだもん。


「やった、最高。ネクさん超愛してる。」


「良いわねぇ、アタシも入りたいわぁ。ゾンちゃんも行きましょ?」


「そ、そうですね、土まみれですし。あ、あれ? ちくびちゃんと…?」


「アタシ取っちゃってるから平気よぉ。」


 あ、俺より先に行こうとしてる! 許すものか、一番風呂は俺だ!


「ネクさんも行こう! 背中…背骨? とか流すよ、俺。」


『うむ、偶には配下の者と親睦を深めるのも良いな。』


 俺達は挨拶もそこそこに一路風呂へ。湯船が一個だったので混浴になっちゃったんだけど、みんなタオル巻いてるし、良いよね?


 ゾンちゃんが一人だけ女の子だから嫌かなって思ってたんだけど、ネクさんが実は女の子だったり、ちくびちゃんは取っちゃってたりしたから、実質俺が一人だけ男だった。

 ちょっとマウンテンがボルケーノしてたけど、気付かれてないと思いたい。


「アタシ以外には、ね。」


 ちくびちゃんマジちくびちゃん。







 風呂から出て会議室に戻る、今日は流石に全員に見られる事無く、普通に過ごしてた。


「ナイトにいちゃん!」


 と思ったらこの中で唯一のお子様、律葉(りつは)君十一歳が俺に声を掛けてくれた。


「今日もカッコ良かったです!」


「うわあ、マジで? ありがとリッくん。」


「僕もナイトにいちゃんみたいな騎士さんになりたいんだ、でも、お父さんが無理だって言うんだ。」


 そう、この子はお父さんの桐崎太郎(きりさきたろう)さんと一緒にここに居る。他のみんなが無くしちゃった親子の会話とかで、場を和ませてくれるスーパースター。


「ナイトさん、お疲れ様でした。律、ナイトさんにご迷惑かけちゃダメだよ?」


 この優しそうなお兄さんが太郎さん。専業主夫ながら、趣味のレザーワークでちょいちょい小遣い稼ぎをしていたって言う職人さんでもある。


「迷惑なんて無いですよ、リッくんの本気具合によりますけど、騎士になるのも無理じゃ無いですから。てか、こんな世界なんだから、どんどん夢叶えてかないと。」


 そうは言ったけど、太郎さんも不安なんだろうな。リッくんまだ小さいし、でも、これから成長するかって聞かれると、答えに詰まるから。


「本気なら、応援してはやりたいんですけど、怖いんです、律まで失う事になったらと。」


 そっか、奥さんは。


「だったら、太郎さんが守ってやれば良いんじゃ無いですか?」


「僕が…? でも、僕に戦いなんて…」


「レザーワークですよ、太郎さん。ファンタジー小説なんかじゃ、みんな皮の鎧とか着てるんですから。」


「は、はぁ…?」


 ありゃ、あんまり伝わってないかんじ? えーと。


「リッくんが攻撃されても、びくともしない防具を作るんですよ、貴方が。子供を守りたいって、それが太郎さんのやりたい事なら、叶えるために頑張って下さいよ。みんなが羨ましがるくらいのカッコいい防具、作っちゃいましょう?」


「! お父さんが作った防具! 着てみたい!」


「ほら、リッくんもこう言ってますよ? もしも出来たらみんなの分もお願いしたいんです。信頼出来る人の作品ですから。ダメですかね?」


「ナイトさん…。はあ、あなたがこんな人たらしだとは思わなかったな。」


 太郎さんは苦笑いして、額に手をやった。


「律、騎士になるなら、体を鍛えなきゃダメだ。刃物の扱いも覚えなきゃいけない。訓練は厳しいだろうし、泣いて済むような話じゃ無くなる。それでも、お前は頑張れるかい?」


 父親の雰囲気が変わったのが、子供ながらに分かるんだろう。リッくんは気をつけをして、しっかりと太郎さんの目を見返した。


「僕、お母さんの事、本当は守りたかったんだ。お父さんも、お母さんも、僕を守って、あいつにやられて、僕も。」


 思い出して極まったのか、しゃくり上げながらだけど、しっかりと言う。リッくんの心は、とっくに覚悟が決まってたみたいだ。


「だから、ナイトにいちゃんみたいに強くなりたいんだ。あいつを倒せるかわからないけど、お母さんみたいな人が少なくなるようにしたいんだ!」


 あー、やべぇ、こっちが泣きそうになってきた。


 てか、みんな貰い泣きしてんじゃん。太郎さんなんてもうボロボロだよ。


 もうダメ、自分が情けない。俺は楽しそうだから騎士になったんだ。それを、俺の半分も生きてないリッくんが、あそこまでの覚悟を持って騎士になると言ってんだもん。


 俺は騎士になってみたかっただけで、なんの目標もない男だったけど。

 リッくんと二人っきりのすげえ小さな騎士団で、誰かを守れるくらいに強くなりたいって、そう思ったんだ。



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