ざっつらいと、これは現代ファンタジーです。
ここは現実に現れてしまったダンジョンの一室、一応会議室なんて銘打たれてはいるものの、みんなが雑談したりゴロゴロする為の部屋。
突然の振動と共に地表に文字通り生えてきて、いきなりモンスター放出。からの都市機能の麻痺、モラル低下、世はまさに世紀末! ってか。
リアルにダンジョンが出来たら面白いよなー。
なんて言ってた奴、大体死んでるだろ。楽しかった? この世界。
んで、俺達がいるダンジョンのマスターは骸骨さん。話せないんで筆談なんだけど、どうやらネクロマンサーってやつ。俺達はネクさんって呼んでる。分かりやすいからね。
ネクさんは他のダンジョンマスターとは違い、ダンジョン機能を重視して、モンスターを作らなかったらしく、俺達以外は何も居ない。
現地調達上等のつもりで、本当は犬とか猫とか、そこら辺にいる動物をアンデット化させて戦力にする予定だったんだけど、あれ? 人間めっちゃ死んでね? と思って、何となく気に入った死体を集めてアンデットにしたらしい。
お陰で毎日楽しいと笑っていたので、俺も嬉しいよ。
さて、俺が目覚めてから一週間の間に、他のアンデット仲間もどんどん起き始めた。
俺は損傷が少なかったから起きるのが早かったらしく、ぶっちゃけ俺以外はほとんど肉塊だった。
死ぬ時の記憶が鮮明なのか、大体の人は怯えて部屋の隅とかでじっとしてる。
俺と楽しくお喋りしてるのは、ネクさんを除いて女性二人だけだ。
「てな感じで俺はここにいる訳。あ、名前言って無かったね、俺、鹿羽騎士。まあ、キラキラネームだけど気にせずナイトって呼んでよ。」
対する二人は正反対の態度、ニコニコしながら聞いてくれてる綺麗系のお姉さんと、前髪で目を隠しておどおどしてるちょいブサ系のじょしこーせー。
「んじゃ、アタシも自己紹介ね。アタシは遠椛苓州よ。仲間からは、ちくびちゃんなんて言われてたわぁ。
お店の帰りに何かに襲われてねぇ、気が付いたらここにいたってわけ。参っちゃうわよねぇ?」
わお、ちくびちゃん男の人だったのか。これはあれだ、オネエってやつだ。まさかの綺麗系のお兄さんだったよ。
「わ、私は、古飛田尊美、です。こんな見た目ですから、ぞ、ゾンビとか言われて…」
わお、こっちはこっちで暗いなあ。これからはそういう人の柵とか無いんだから、もっと楽しく生きられるさ。
「てか、屍騎士にレイスにゾンビ。俺達ってここのモンスターになる為に生まれてきた系?」
「ポジティブねぇ。ゾンちゃんも見習いなさいな。」
「ご、ごめんなさい…」
そう言って縮こまるゾンちゃん。うーん、俺としてはそこまで悪い見た目じゃ無いと思うんだけど、本人は気になるのかね。
「ネクさんが言ってたんだけど、別に無理に戦わなくて良いんだってさ。何かしたい事があるなら好きにして良いって。死体だけに?」
たったこれだけの事を伝えるのにどんだけ脇道に逸れたんだよって感じだけど、二人にもネクさんの言葉を伝えておく。
マジでネクさんいい人、じゃないや、いい骨なんだよね。
「俺は名前の事もあってさ、なんか騎士っぽい事したいって言ったのよ。そしたらさ、剣と盾くれてさ。今度なんか鎧も見繕ってくれるんだって。」
そう言って、貰った剣と盾を机に載せる。剣は鞘も豪華な感じだし、盾の模様も綺麗。
ちくびちゃんは剣を鞘から抜いて眺めた後、いいわねえ、と呟いた。
「アタシはね? 自分の店を持ちたかったのよ。志し半ばでこうなっちゃったし、いっそここでバーでもやらせて貰おうかしら?」
「あー、良いんじゃない? ダンジョンを良くするための意見はバンバン言って欲しいってさ。ゾンちゃんは?」
話を振ると、こちらを上目遣いで見ていたゾンちゃんはビクッとした。ゾンちゃん普通に可愛くない?
「わ、たしは別に何も。」
「ほんと? 何でも良いんだよ?」
「あの人達に会わないだけでも、十分ですし。」
こりゃ根深いね、俺には荷が重いです。
「まあ思い付いたらその時でいいや、じゃあ、同じダンジョンモンスターとしてみんな今日も頑張りましょう! はい解散。」
手をパンパンと叩くと、みんなもたもたと移動していく。まあここと寝室ぐらいしか行くとこないんだけどね!
てな訳で、みんなと別れた俺はネクさんの部屋に行くことにした。
「ネクさーん、今日も剣教えてー。」
『おお、我が騎士よ、良くきたな。』
真っ黒なローブに金の首飾り、捻れた禍々しい杖を持つ骸骨は、ホワイトボードを向けながら手招きした。
『今日もご苦労だった、皆の様子はどうだ?』
「まだまだみんな怯えてて話になんないね。あ、でもちくびちゃん、ああ、俺と良く話してる綺麗な人ね、あの人がバーやりたいんだって。」
『ふむ、酒場は良いな。皆の息抜きにもなる。よし、今度そのチクビとやらを連れて参れ、ポイントも余っているし、すぐに作れるぞ。』
「流石ネクさん、話が早い。じゃあ、今日も剣の指導をお願いしたいんだけど。」
剣を構えようとすると、ネクさんは手を前に出して、まあ待て、という。
『我が騎士も随分と様になって来たからな、今日からは実戦を積んでもらおうと思うのだ。』
「実戦? 誰かと戦うの? 俺ゴブリンより弱いんだけど。」
普通に一撃死したし。
『それなんだがな? 我にはどうしても我が騎士がゴブリンより弱いなどとは思えないのだ。もしかして、我が騎士が戦ったのはゴブリンの上位種では無いかと思うのだ。』
「上位種?」
なにそれ、めっちゃファンタジーチックでいいじゃん。
『左様。モンスターは戦い、勝利を続けると進化してより強き種族になる事があるのだ。ほら、我もスケルトンでは無く、ハイリッチロードだし。』
マジか、スケルトンだと思ってた。
「じゃあ俺、ゴブリンなら勝てる感じ? そんでレベ上げして進化?」
俺の質問にコックリと肯く。
『そこで行ってもらいたいのはここだ。このダンジョンの丁度裏手にある。』
そう言って遠見の水晶を浮かべる。水晶には地面にポッカリと穴が開いている光景が浮かんでいる。
「なんかきたない。」
見た目が土。真っ暗。多分中も似たようなもんなんだろうなあ。
『それは当然だ。我がダンジョンは大量のポイントを使って整備したからな。故にモンスターは現地調達になったのだが。』
そう、ここのダンジョンはちゃんと石のレンガで出来ている。壁床天井、更には灯のついたランタンがあちこちの壁に掛かっていて明るい。
居住空間は広く、ダンジョン内に森や川もある。それが使い放題なんだから、ネクさんマジ良い社長だよね。
「それで、そこのダンジョンにはどんなモンスターが出るの?」
ネクさんはたっぷりとタメを作った後、両手を広げて言った。
『ゴブリンだ!』