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03

酒場ギルドの隅の方のテーブルに全員が腰掛け、ひとまず自己紹介をしようという流れになっている。


「そういう訳で、ユレイクスの国王陛下から勅命を賜って魔王討伐の旅に出ることになった。俺の名前はルイス。与えられた肩書きは勇者。冒険者としてはまだまだ初心者だから、みんなにはいろいろ助けてもらうことの方が多いと思う。頼りないとは思うが、よろしくな!」


改めて顔ぶれを確認してみると、斡旋された3人のうち、女がひとり、男がふたり。女はこの辺ではあまり見ない顔立ちをしていた。


だが所作も大人しそうでおよそ冒険者とはいい難い穏やかそうな少女だ。もしかしたら彼女も冒険初心者かも、そんな淡い期待を寄せてルイスは彼女に声をかけた。


「よ!今日からよろしくな!君も冒険初心者?一緒にがんばろうな!」


「はじめまして。よろしくお願いしますね、ルイス。私はアキラと言います。漢字ではアキラは瑛と書ききまして…」


「カンジ?」


「あ、私の国の言葉です。東の大陸の倭国という国の生まれで…」


「ワノクニ?」


残念なことにまだ知識が豊かではないルイスには、アキラの言うことが全く理解できない。

倭国ワノクニという国の生まれらしく、濡れたような艶やかな黒い髪と黒い目、薄桃色の頬と白い肌のコントラストがまぶしく見えた。


「ええと…うーん、海の向こうの国の生まれです」


困ったように首を傾げたアキラはちらりと隣の男を見上げた。男は仏頂面でアキラを見やってからルイスを睨みつけた。いや、もしかしたらにこれが素の表情なのかもしれない。


「バージルだ」


「よ、よろしく」


ルイスよりも長身のバージルはやけに威圧的な自己紹介とも言えないような自己紹介をするなりふいっと顔をそらしてしまった。


「……?お、俺なんかしたか…?」


バージルという名の青年はやたら不機嫌そうにしているので、ニートで人付き合いをすることがほぼなかったルイスは困ったようにアキラに目をやった。彼女が口を開こうとした瞬間ーー


「んじゃ!お兄さんが自己紹介してもいいかな?」


「お呼びじゃねえ帰れ」


斡旋された3人の最後の1人が陽気に声をかけてきたので、ルイスは思わず冷たく返してしまう。


「ちょっ、それ酷い!俺一応初対面だよ?君と初対面!ねえ!」


「いや…それはわかるんだが、なんだかアンタにはそういうアタリをしなきゃいけない使命感にかられて…」


「なんだいそれは!」


ルイスにはなんとなく、なんとなくだがこいつが遊び人だろうという予測はできた。


「僕はアレン。世界を股にかける遊び人さ!」


「うん、そんな気はしてた」


「お兄さんいくつに見えると思う!?25歳!社会になんて出たことないよ!働いたら負けだよね!」


「ぐっ…一概にアンタのセリフを否定できねけ自分が情けねえ…」


となると、冒険の経験者は仏頂面のバージルということになる。

ひとりで騒いでいるアレンを無視してルイスはバージルに向かって手を差し出した。


「ねえ聴いてる!?ルイス君!」


「バージル?経験者のアンタにしてみれば、俺は初心者だからなにかと迷惑かけるかもしれないけどよろしく」


「経験者は私だけではない。アキラ!」


「はーい。私も経験者ですよ」


「えええ!?こっちも!?」


「はい、ルイス。私とバージルは前も同じパーティで魔王討伐の旅に出たことがあります。因みに私今僧侶ですけど転職して間もないので呪文は初歩的な体力回復しかできません」


「私も今は魔道士だが転職したばかりだ。以前のパーティでは騎士をしていた。呪文より剣が好きだ」


なんだかいろいろ大事なことをいっぺんにカミングアウトされた気がする。


転職とは、まさに読んで字の通りである。ただ、いつでもどこでも転職ができるわけではない。大陸に数箇所存在する神殿で、神の祝福を授けてもらうことで転職が可能となる。

なにせ、転職することで体力や自身の魔力、筋力など全てが変容してしまうのだ。生半可な気持ちで出来るものでもない。


呪文を使える職業から使えない職業に転職してしまえば呪文は一切使えなくなる。バージルとアキラの場合、その逆であるので冒険中困ることはないだろうが、それはつまり全くの初心者パーティということになる。


「ぜ、前途多難すぎんだろ・・・」


ルイスのつぶやきは酒場の喧騒にかき消された。

2019/10/21 転載

2019/10/21 加筆修正

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