7. 道化師
「どうも初めまして勇者様、私公爵家のライガン ロット H E エルリスと申します」
まるで見世物でも見せられているような何処か掴めない、というか胡散臭すぎる演技がかった挨拶をライガンが終える。
見た目はとても若々しく10代後半と言われても納得できるほどだった。
髪の色は深い藍色で身長は180は越えているだろうか、顔も非常に整っており優男のような雰囲気を纏っている。
ただし全く開いていない眼はまるですべてを見透かしているかのようで、どちらかと言うと胡散臭いや気味が悪いといったような印象を与えている。
「えーとまぁ、少し変わっていますが女癖が悪いこと以外は悪い人ではないので」
「酷いねぇリエルちゃん、一用お兄さんそれなりに凄い人なんだよ。ほら、何て言ったてあの北端の領地を納めてるんだよ、全大陸で8000年間で34人しか成れなかったSSランク冒険者だよ、もうすぐSSSランクの昇級審査があるんだよ」
「ハイハイ、凄いのは分かりましたから、ですが格としてはアロスさんの方が上なのは忘れないでくださいね」
「分かってる分かってる、さすがに神様敵に回して生きていられる自信がないからねぇ。と言うわけでよろしくねぇアロスくん」
「エルリスさんッ!いくらあなたでも敬称は忘れてもらっては困ります」
「別にいい、こちらこそよろしく頼むライガン」
そういって差し出された手を握る。
ふと浮かんだ疑問を投げつける。
「ところでライガンはどうしてこんなに早く会い来れた。流石に国を名乗っているからには北端からここまで1日そこらでは来れないだろう」
「あぁそれはねぇ、他の勇者に会いに来たんだけどこっちの方が面白そうじゃん。それに期待してた子達の殆どがダンジョンに潜っちゃうわ実力を隠してるわで面倒だから辞めにした」
「それでいいのか?」
「それでいいんです」
この数分の会話で大体の性格がわかったような気がする。
と言うか絶対コイツ気分屋だろ等と思ってしまっている。
「で、リエルちゃん僕は何を話せばいいのかな?」
「基本くだらないこと以外なら何でもいいのですが、あまり変なことを口走らないでくださいね」
「はいはい分かってるよ。それじゃあ一つ質問してもいいかな」
「なんだ」
「どこから来たの君」
「天界アルデシア」
「へぇー、アルデシアねぇ、ありがとう聞きたいことは聞くことが出来た」
「どこか分かるのか」
「いいや全然」
まるで心当たりがないとばかりに首を振る。
だがアルデシアと聞いた瞬間一瞬雰囲気が変わったような気がしたが・・・気のせいか。
だが反応からして全く知らないというわけでもなさそうだ。
下界ではせいぜい古い神話に出て来る程度の情報しか流れていないはずなんだが、知っている情報次第では消さねばならないかもしれないな。
「あ、あと王都のギルドマスター僕の義妹だから一様Aランク冒険者として始められるように言っといてあげるね。流石にSランク冒険者には自分でなってもらうよ、まぁ君ならSSSランク冒険者の上を目指せるかもね」
「いいのかそんなにしても、昨日聞いた限りではAランク冒険者はそこそこすごいんだろ」
「そこそこじゃなくて大分なんだけどね。普通冒険者のほとんどが生涯をDからB辺りで終えるんだけどね」
そういって紙とペンを取り出し何かを書き始める。
そして書き終えた紙を俺に差し出してくる。
「はいこれ、義妹に渡してくれればAランク冒険者にしてくれると思うから。あと喧嘩売ってくる馬鹿がいたら封に使ってる印を見せたら面白い事が起こるよ」
「面白い事?」
「そそ、面白い事。何が起こるかはお楽しみって事で、そろそろ時間じゃないかなリエルちゃん」
「・・・えッ、あ、いえ別にこれといった予定は――――」
「――――時間、じゃないかな?」
「・・・そうですね、それでは今日の顔合わせはここまでという事で」
「いいのかリエル」
「はい問題はありません」
そういってリエルは部屋な外へ出て行ってしまった。
先ほどのやり取りに思うところがないわけではないがほんにんたちの仲も別段悪かったというわけでもなかったので放っておくことにした。
「それじゃ、俺もここで」
そう言ってドアノブに手をかけ――――
――――キンッ
首筋に軽い衝撃と金属がぶつかり合う音がした。
「さすがに安物の剣じゃかすり傷が限界かな」
「どういうつもりだ」
「勇者の強度確認」
一瞬にして召喚時をはるかに超える圧がライガンを襲う。
だが彼は怯む事無く、むしろそれに対抗するかのように彼も圧を放っている。
折れたはずの剣はすでに握っておらず自然体を保っている。
「・・・貴様、人間なのか?」
「それ悪役の使う言葉だよ、まぁしいて言うなら俺はまだ人間かな。それにもう用事が済んだからこれ以上僕から何かすることはないかな」
「・・・次は潰すぞ」
そう言って部屋を出ていく。
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「彼も災難ですよねぇ、よりによって今、この時期に飛ばされてくるだなんて」
「そんなことはどうでもよい、奴が脅威になりえるのかどうかを聞いておる」
アロスとライガン、先ほどまでは確かにその二人しかいなかった部屋に一人の少女が腰かけていた。
少女は140cmにも届かないほど小柄な体躯をしており、服装は深い藍色のローブを羽織っている。
「今までの奴らとは格が違いますよ彼は、少なくとも俺以上シオン並でしょうかね。多分本気のシオンや師匠とも勝負くらいにはなると思いますよ」
「ほぅ、儂の相手が務まると、明喜賭よ、おぬしはそう感じたのじゃな」
彼女は楽しそうにそう話す。
「そうかそうか、秋ノ瀬に伝えておけ『特級が来た』と」
「了解しました。彼はどのように」
「当分は放置しておけ、たまには成長を見守ってもよかろうて」
そう言って少女は部屋の窓から飛び降りてしまった。
「ほんと災難だねぇアロスくん」