6. 公爵家
眠い
あの後なぜかリエルが自分の分の夕食まで持ってきてそのまま日が昇るまで話に付き合わされたため8時まで寝たはずなのに全く眠気がとれなかったのだ。
このままもう一度ベッドに潜りたい衝動に駆られるが、一度寝てしまえば8時半の朝食に間に合う自信がないのだ。
別に朝食が運ばれてくるのはその15分後とリエルが言っていたので仮眠程度なら取れなくはないのだが、今日からは貴族と他の勇者との顔合わせなので出来るだけ早く朝食を済ましておきたい。
「......行くか」
ベッドの微かな温もりを感じながらもベッドから降りる。
昨日きていた服に着替え、鏡の前で身だしなみを整えたらそそくさと部屋を出る。
王城には5つ食堂があるが今向かっているのはそこではない。
昨日の夜にリエルに教えられた部屋へ向かう。
既に連絡が行き届いているのか途中メイドとすれ違うが、昨日召喚されたばかりの俺に向かい深々と頭を下げている。
この王城は全27階層でできており、俺が召喚された謁見の間は20階層を丸々使った作りになっていた。
ちなみに1階層から5階層までが王城勤めの騎士たちや魔術師、そして武官や士官たちが住んでおり、6階層から8階層までが使用人たちの移住スペースいなっているそうだ。
8階層から19階層までは基本的に客室になっており、例の勇者たちもここの12階層に住んでいるそうだ。
今俺が使っている部屋が26階層にあり、王族のリエルたちが住んでいるのが27階層になっている。
この26階層は王族の生活スペースに最も近く、他国の王族すらめったに立ち入ることのできないところらしく多くの貴族の反対があったそうで中には勇者たちの中の姿があったそうなのだがリエルの強い要望によって押し切られたそうだ。
その影響か今日の顔合わせでいい顔はされないだろうと部屋の様子を聞きに来たメイドから聞いている。
だがそんな事にはお構いなく27階層への階段を躊躇することなく登りきる。
26階層から27階層には近衛兵と思われる兵が2人ずつ計4人が立っていたが止められる事無く27階層に入る。
100m感覚で両開き扉が設置されており、今回呼ばれたのは4つ目の部屋になる。
扉の前まで来ると2回ノックすると
「はい、どなたでしょうか」
中から聞こえて来る声に対しアロスだ。そう答えると、カチャッとカギが開く音がすると中からピンク色の髪の少女がひょっこりと顔をのぞかせる。
「おはようございますアロスさん、随分と早いんですねまだ15分ですよ」
「十分遅いだろ」
「朝の4時まで話に付き合ってもらいましたからね、まだ起きていないと思っていたんですが」
朝まで話に付き合っていたおかげか態度が軟化しているような気がする。
中へどうぞ、そい言われ部屋の中に入る。
部屋の中は客室と違いウサギの絵が壁に描かれており広さも俺がいた部屋が五つくらい入るのではないかと思えるくらい広く、部屋はタンスなどが置かれていた。
扉から比較的近いところに既に料理が乗せられた机が置かれていた。
「どれも美味しそうだが・・・多くないか、それにあれなんて朝から食べるようなものじゃないぞ」
「その、なんと言いますか、昨日アロスさんを見かけたメイドたちがまるで光の国から来た王子様のような勇者様が召喚されたと噂していまして、料理長も美人な人なのですが役職柄出会いがなく、皆さん玉の輿を狙っていまして、結果こうなりました」
それはいいんだ、ただ朝から俺は自分より大きな肉は食べきれないぞ。
「拷問か何かかこれは」
あれから朝食を始めた俺たちだったが、途中からあの巨大な肉のゆうに三倍くらいはありそうな肉が運ばれて来たときは、自分の腹を切り裂こうか迷ったくらいだった。
リエルに至っては途中「用事を忘れていました」とだけ言って逃げるように部屋から出て行ってしまった。
結局後から運ばれて来た料理のほとんどを俺1人で食べきることになった。
「あれ、もしかしてアロスさん1人で食べきっちゃいましたか」
机に突っ伏し死に体になっていると本人曰く忘れていた用事を済ませたリエルが戻って来た。
「一用聞いておくが、用事は済んだのか」
「はい、今日の予定の調整を。あ、それと昼の2時から最北端の領地を治めているエルリス公爵がいらっしゃるそうなのでそちらを優先させていただきますね」
「本当に用事があったんだな」
「一用わ、それより大丈夫ですか、さっきから一度も顔をあげませんけど」
「大丈夫なはずだ、ちょっと拷問を受けた程度で済んだ」
リエルは知らないだろうが、あれから運ばれでくる料理はどれも大きく脂がのっていてお腹にたまるようなものばかりだった。
デザートにウェディングケーキが運ばれて来た時には物理的に胃を切り裂こうとすら思えた。
「と、とにかく公爵家の者が来るまで休みましょう」
「………昼はいらないと伝えておいてくれ」
「次からは量も減らしてもらいますね」
「頼む」
あれから結局リエルにエルリス公爵到着の知らせを受けるまで動くことはなかった。
体は人なんかとは比べ物にならないほど丈夫なはずなんだが、流石に体の何倍もあるようなのはキツすぎる。
今は15階層にある客室の一つに向かっているのだが、歩く振動ですらお腹のあたりに響いてしまって仕方がない。
それでも見た目はスリムなままなのは自分でも反則なような気がする。
「アロスさん、大丈夫ですか」
「何がだ?」
「いえ、目が死んでいたので」
「あぁ、そうか。朝の拷問もとい食事のことを思い出してしまってな」
「・・・休みますか」
「大丈夫な・・・はず・・・だ。それよりついたようだな」
「本当に___」
「___大丈夫だ、だからあまり思い出させてくれるな」
「そうですか、あ、作法については気にしないでください。基本この国では勇者は王族と同等かそれ以上の権威を持っているとされていますから。それにエルリス公爵は少し変わっていますから」
「?変わってるって」
「会えば分かりますよ」
「おいッちょっとま___」
「リエルです、入りますね」
「どぉぞー」
俺の話も聞かずにノックしたリエルの声に若い男性の能天気な声が返ってくる。
リエルがドアを開けると男性にしては長髪な藍色の髪の若い男性がいた。
開いているのか分からない程の薄眼に優しげな笑みを浮かべている、『聖剣』曰く胡散臭すぎる風貌なのに何故か立場と実力は一流な胡散臭すぎる美男子風といえば分かりやすいだろうか。
とにかくリエルに案内された席に座る。
それを確認しエルリス公爵は自己紹介を始める。
「どうも初めまして勇者様、私公爵家のライガン ロット H E エルリスと申します」