5. 邪神様説明を受ける
「それでは今から何故我々が《勇者召喚》を行なったのか説明させていただきます」
たった一人で部屋を訪ねて来たリエルが机を挟んでそう宣言する。
あれから考えること30分、結局考えがまとまらないままにリエルが部屋を訪れたことにより、結論が出ることはなかった。
それからほどなくしてからリエルが一人で部屋を訪れ今に至る。
「その前に一ついいか?」
「はい、なんでしょうか」
「仮にも王族のお前がなぜ護衛も付けず、たった一人でここに来た」
「それはですねぇ......」
少し躊躇う素ぶりを見せながら困ったように話し始める
「あまり人に話すようなことではないんですが、今この城にいる人たちの中で最も強いのって私なんですよね。それに邪神様が本気になると護衛なんて邪魔でしかありませんしね」
「そうか。他にもお前の態度の変化や先祖について聞きたいが......まぁいい、それよりも邪神様てっいう呼び方はやめてくれ。お前らの一族にだけは言われたくない」
「しかし、それではどのようにお呼びすればよろしいでしょうか」
「アロス.フリアロード、アロスでもフリアでも呼びやすいようすればいい」
「それではアロス様でもよろしいでしょうか」
「......いや、様付けはやめてくれ。知り合いに聞かれると面倒だ」
「しかし」
「本当にやめてくれ、少なくともお前が生きている間はからかわれる」
「そこまで言われるのでしたら、アロスさ、さ、えぇー、アロスさ、んとお呼びします。ですがその代わりに私のことをリエルとお呼びください」
「分かった」
《鑑定:Lv10》
リエル.ロット.A.H.アストレア
Lv9682
種族:人族
称号:赤の賢者 豪炎 魔導を歩む者
HP4580 MP13450062400
筋力1400 耐久620 俊敏80 器用687420 回復870 運34000
興味本位のつもりだったが、確かに後衛特化タイプだろうとこれだけの高ステイタスなら先ほどの話も頷ける。
魔力だけで言ってしまうと既に高位神クラスに食い込んでいるだろうか。
これなら運次第では俺の召喚も行えるかもしれない。
ただ、それ以上にムカつく。
リエルのステイタスを見ていると何故かあいつの影がちらついてくる。
特に人族ではあり得ない高い回復力なんかは完全に奴の血を引いていることがわかる。
少し興奮してしまった頭を落ち着かせる為、机の上に置いてあるリエルが持ってきた紅茶に手をつける。
甘い匂いが手に取る前から香る。
この世界での紅茶は相当高価な嗜好品だったはずだがこれはそんな紅茶のなかでも高級品だとわかる。
紅茶の味も砂糖で味付けされたものではなくどちらかといえばハチミツが使われているように思える。
少し頬が緩んでしまった。
「これ、私の秘蔵の品なんですよ。たまに王都で宿屋を営んでいる女性の主人から頂いているものなんですよ。なんでも知り合いに趣味で一から作っている人がいるらしく、店にも置いていない物なんです」
どうやら見られていた様で、優しく微笑みながらこちらを見ていた。
その姿には召喚時のような情け無い姿はもうない。
一体ここに来るまでに何があったのだろうか。
「自分から話をそらしておいてなんだが、そろそろ本題に入らないか」
「そうですね、たしかに少々話を楽しみすぎましたね。それでは改めましてこれより我が国がなぜ《勇者召喚》を行ったかについてご説明致します。まずアロスさん、《勇者召喚》についてどこまで知っといますか」
「全て。過去には俺が担当していた頃があったからな。そこらの神々よりかは知っているつもりだ」
「でしたら《勇者召喚》については説明は省かせて頂きます。ではまず目的から、端的に言うと魔王の撃退及び、災害、天災指定の魔物の討伐になります。ここまでで何か質問は」
さすが王女というべきか、先程までとはまるで人が変わったように場の空気を切り替えた。
「魔王は討伐しなくてもいいのか?それと、ついてくるメンバーは」
「魔王に関しましては古神期と我々が呼んでいる時代から生きており、過去には最低でも4柱以上の高位神を討伐しておりますのであくまでも撃退の方針で、仲間につきましては異例中の異例ですので私と場合によっては元高ランク冒険者がお伴します。そして最後に一つ、アロスさん以外にもあと38名《勇者召喚》で呼び出した方々がいらっしゃいますが実際に最前線に立たれるのは9名程かと」
なれているのか淡々と説明を続ける。
勇者が後38人いるのは予想外だがあとは許容範囲内に収まっている。
個人的には古神期を生き延びいまだに存命だという魔王についても興味があるが勇者をやっていればそのうち会うこともあるだろう。
「分かった、大体は把握した。それで、これからどうする」
「明日からほかの勇者や貴族との簡単な顔合わせが終わりましたら王都に出て冒険者登録の後、王都にある真紅の大迷宮に挑む予定です」
「そうか、明日まではどう過ごせばいい」
「特には決まっていませんので城から出なければ好きなように過ごしていただいて構いません。あ、でも今から1時間ほど後に夕食をお持ちしますのでその時には部屋にいてください」
部屋の窓から外を見ると既に日は傾き月が出ていた。