2.邪神召喚(賢者サイド)
アルヴァントリア王国 王都アスロア エルヴェネシア王城 謁見の間
部屋には目には見えないが押しつぶされるような緊張が漂っている。
部屋には30人が緊張や期待や警戒等の感情の籠った複雑な眼差しを一点に注いでいる。
集まった30人の内17人は鎧を身に纏って、剣や槍を携えており如何にも「騎士」といった風貌をしてる。
他の13人の内10人はそれぞれ身に付けているものこそ違うものの、金や銀の刺繍が施されているものを身に付けており、上流階級の、それもかなり高位の者たちだと一目でわかる格好をしている。
「それでは、いきます」
「ああ、頼むぞ賢者よ」
そんな緊張を破るように二人の声が響く。
片方は、その顔にいくつものシワを刻みながらも、その瞳はまるで歴戦の戦士のように淀みがなく、静かに、それでも確かな威厳を持ち合わせており「王」と言う言葉をその身で表している。
もう片方は、特徴的なピンクの髪をしており白い服の上から赤いローブを羽織っい、自身の身長はある杖を構えている。
彼女の瞳は強い決心をともし眼前にある魔法陣に目を向ける。
やがて彼女は片手で持った杖を突きだし、空いた片手を突き出した杖の先にかざし、詠唱が開始される。
「はぁふぅ・・・今の昔、太古の秘術、失われた英知、廻る廻る時を経て、得るは未来」
周囲から音が消え、彼女のみに視線が注がれる。
「消えぬ炎、濁らぬ清水、堪えぬ豪風、照らす光、覆う暗黒、神をも凌ぐ力、終わりのない盟約、われらが始祖の身加護を」
白かった魔法陣が赤く発光し、さらに時間が経つと黒く発光し始め、更には魔法陣から黒雷があふれ始めた。
それに伴い彼女の額にもいくつもの汗が滴り始める。
「束縛を嫌い、自由を求めた英雄、英雄に恋焦がれ、道化を演じた導師、その身をとした、姫の騎士、虚空をさまよう、哀れな人形、われらが英雄我らが盟友の名のもとに、今一度この身に奇跡を・・・『勇者召喚』ッ」
最後の言葉をきっかけに魔法陣が光を増し始め部屋を覆いつくした。
数秒から数十秒で光が収まり、魔法陣も元の状態に戻っている。
そして元に戻った魔法陣の上には召喚が成功した証の勇者となる人が立っているはずだった。
「さて、我を召還したのは誰だ?名乗り出よ」
「ようこそ勇・・しゃ・・・・さ・・・いえ、そんな・・まさか、いえでも・・・あの、もしやと思いますが・・・ふぅ・・はぁ、じゃ、邪神・・様、でしょうか?」
目の前にいる勇者に対し、やっとの思いで存在確認をする。
良く周りを見ると、王と私、そして教皇を除く全ての重鎮たちとその護衛が胸を押さえ地面にはいつくばっている。
王はその顔にしわを増やしているものの未だに勇者から目を離していない。
教皇もその膝を屈しかけているものの踏みとどまっている。
私も私で賢者としての意地を見せ立っている・・・とは言い難い。
実際には立っているのではなく、動けずにいる。
他の二人は自力に踏みとどまっているのに対し私は勇者を目の前にし動けずにいる。
ただ目の前にいるだけならまだ動けたかもしれない。
しかし今彼は何故か自分のことを見つめている。
まだ彼が邪神と決まったわけではない。
そう自分に言い聞かせ、残っている勇気を総動員し、彼を見つめ返す。
歳は16,7程だろうか。
身長は私が163cmなので彼は175cm程だろうか。
髪の色はとてもきれいな黒で、顔つきは邪神と言うよりもどこかの王子様と言われれば信じてしまいそうなほど整っており、服装もツヤのある黒い生地で作られているもので揃えられ、ほかの服な装飾は銀のを使用しているのに対し、コートには程よく金も使われている。
腰には刀身は蒼い宝石をつばから持ち手までは漆黒の宝石を使っており、つばには紅い宝石がはめ込まれた直剣を帯剣している。
見ていたら思った事だけど、もしかしたら思っていたより優しいひ―
「その通りだ」
肯定の一言。
たった一言、それだけのはずなのにまた思うように体が動かなくなる。
それだけじゃない、先程までと比べ物にならないほどのプレッシャーが襲ってくる。
余りの恐怖に15にもなるのにお漏らしをしてしまうが、そんな事すら気にならないほどに恐ろしい。
「ははっ、そうですかさようですか」
余りの恐怖に自然と発してしまった言葉。
それを最後にまるで体が限界を迎えたかのように腰が砕け床にヘタレ混んでしまう。
神暦の8243年黒の月8日に史上最高位の神兼勇者が召喚された。