3話 約束された 勝利の 腕輪
「宴の時間だ……!!」
数日後の夜。
ジェノサイドハンターにログインすると、ブラドさんのテンションがマックスになっていた。
画面上でブラドさんのキャラクターであるバンパイアが前後左右に高速微細動している。
ぶっちゃけるとマジキモい。
「なんかあったんすか? いつにも増してワケわかんないっすけど」
「ああイベントだよイベント。三人パーティーで三匹のボスを倒すってミッションが始まったんだ」
土下座衛門さんが説明してくれる。
このゲームには期間限定イベントというのがあるらしく、それをクリアすると期間限定で配布されるアイテムや、各キャラ固有の必殺技を入手することができるらしい。
「面白そうっすね、参加するんですか?」
「……そのために汝を待ち続けていたのだ。よもや怖気づいたなどとは言わせぬぞ?」
ブラドさん、カクカク動きながらどうやって文字チャットしてるんだ。手が三本以上あるのか。
そんな経緯で僕たちは「ジェノハン夏のボス祭り」と題したイベントに挑むことになった。
今は問題集をがっつり進めようと思って、やっぱり集中できなくて放り投げた夜。
そんなくさくさした気分がこのイベントである程度晴れればそれでいいと思った。
複数の強い敵と同時に戦うという経験は、初心者の僕にはほとんどない。
だからいつも以上にチームワークが、自分に与えられた役割をこなすことが大事なミッションだというのは、二人のアドバイスを貰うまでもなくわかった。
「かかってこいやおらぁー! うちの若いモンのワンワンバズーカが火を吹くぜぇーーーーッ!!」
土下座衛門さんもミッションが始まって敵を視認するなり、テンション上げてきた。
あんたたちこのゲーム楽しみすぎだろ。
土下座衛門さんの言葉通り、僕は以前の翼竜退治で手に入れた遠距離武器を装備している。
たまたま二人のログイン時間とかぶってないときに、一人プレイで弱い敵を倒しながら多少の扱い方を練習したので、操作自体に問題はないはずだ。
「こっちの敵、斬撃無効かよ! 俺じゃダメージ通んねー!!」
土下座衛門さんが相手をしている敵は、刀剣による攻撃が効かないらしい。
そんなときこそワンワンバズーカの出番だ。確かバズーカの属性は火炎と衝撃のはず。
僕は狼の敏捷さを活かし、敵の攻撃範囲外に位置取りしてバズーカの一撃をお見舞いした。
ちゅどーん。見事に命中!
しかし巻き添えの爆風で、ブラドさんも吹っ飛んでいた。
「撃つなら撃つと言わんかぁーーーーーっ!?」
「ご、ごめんっす! 次からは撃つ前に声かけますね」
そんなドタバタ展開を続けるうち、僕らの中にもある種のチームプレイが成立していった。
僕が声をかければ、爆風の範囲外に二人は素早く離れ、射撃コースを空けてくれる。
反対に僕が位置取りに手間取っていると、彼らが敵を引きつけながら移動して、バズーカを撃つための空間を作ってくれる。
僕が敵に狙われたときは、壁になって僕を再びフリーにしてくれて。
フリーになったらシュートだ。
敵から離れて、振り向いたらすぐに撃つ。
安全な場所に切り込んで、撃つ。
シューティングガード、いわゆる3ポイントシューターだった僕にとって、小さいころから反復練習してきたタイミングに似ていた。
「ははは、なんか3on3みたいだ。少しわかってきたっす」
僕は思わず口走り、そして、操作の手を止めてしまった。
「ん? どうしたよY平くん。敵は総崩れだ。一気に畳み掛けるぞ」
土下座衛門さんの指示が、空しく耳と頭を素通りする。
「……三対三を意味する、人の子が相争う籠球の形式か」
ブラドさんの言うとおり、僕は今現在、僕たちがオンラインゲーム上で遊んでいる状況を、バスケの3on3に見立ててしまった。
「……あー、くそっ」
画面がかすむ。
「おい、マジどうしたY平くん。なにかリアルでトラブルか?」
ぐすっ。
「……いやいや、なんでもないっす。窓に鳥がフン落としてっただけで」
土下座衛門さんの気遣いに、鼻声で誤魔化しの言葉を返す僕。
ちょっと泣けてきた。バスケのことを思い出したせいで。
「……よほど大切な窓だったと見える。声が震えるくらいにな」
ブラドさんが余計なことに勘付いているようだけど、僕はスルーした。
「さあ、ちゃっちゃと倒しちゃいましょう。なんか気に入ったっすよ、このバズーカ攻撃」
そうして僕らは三匹のボス敵を殲滅し、イベントをクリアした。
入手した特殊なアイテムは「絆の腕輪」という装飾アイテムを人数分。
すべての種族で装備可能。自分以外に回復魔法をかけた場合の効果が大幅にアップという、パーティープレイ専用と言えるアイテムだった。
「Y平くん、バズーカの命中良すぎだろ。めっちゃ練習した?」
土下座衛門さんに褒められるのは素直にうれしい。事前に練習しておいてよかったな。
「……ところで、先ほど入手した宝物だが。どうやらオンラインショップで実際に売っているらしい」
冒険を一区切りして、会話を始めた僕たち。
そこでブラドさんは、イベントで入手したアイテム「絆の腕輪」について話し出した。
ジェノハンはゲーム内で登場したアイテムのいくつかを、実際の商品(要するにオモチャやコスプレ衣装)として通販している。絆の腕輪もイベントに合わせて商品化されていたようだ。
「すでに通販を確認してからクリック余裕であった。我らの絆が固まった証として、この物品を直接渡したいと思う。商品が届き次第連絡するので、指定の場所まで受け取りに来たまえ」
「「は?」」
僕は音声、土下座衛門さんは文字で、全く同じ驚きのセリフを出した。
「と、取りに来いって、まさかもう買っちゃったんですかそんなものを?」
動転して「そんなもの」扱いしてしまった。だってそうだろう。
ゲームに出てきたオモチャを買ったところで、ゲーム内のように効果があるわけではないのだ。むしろあったら怖い。
デザイン的にもいまいちな小物に大層な値段をつけて売っているだけの、あこぎな商売に決まってる。
「Y平くん、また連絡するから、今はちょっと落ちる。おやすみ! 歯あ磨けよ!」
「……邂逅のときを楽しみに待つがよい。ククククク」
混乱する僕を置き去りに、言うだけ言って二人とも落ちてしまった。
取りに来いってことは、実際に会うってことなのか?