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1話 失われし 慟哭の 密林

過去作アーカイブ。

ヒマな人は読んで楽しんでいただければ幸い。


 異形の者たちがひしめく暗い森の中。


 僕と二人の仲間は、ここを支配している巨大な翼竜と対峙していた。

「ブラドさん、あんた火に弱いんだから支援役な」

 仲間の一人、太刀使いの土下座衛門さんが指示を飛ばす。

「……我を後方に引かせるとは。まあよかろう。その自慢の斬撃、とくと拝見しようではないか」

 それに応え、バンパイアのブラドさんが後方からアイテムや魔法で支援する体制に入った。

「僕はどうしたらいいっすか?」

 この敵とは初遭遇な僕が質問する。

「Y平くんはひたすらヒット&アウェイで。くれぐれも真正面で炎とか食らわないように」

 了解しました、と返して、僕は「ゲーム内での分身」である犬(厳密には狼)型キャラクターを操り、翼竜に体当たりをしては逃げ、ひっかき攻撃をしては逃げ、噛みつき攻撃をしては逃げ回る。

「……ククク、夜の支配者、怪異の王たる我の力を今こそ示そう」

 などと奇怪な台詞を吐きつつも、地道にサポート役をこなしてくれるブラドさん。

 彼に支えられ、攻撃力防御力命中率回避率が上昇モードの土下座衛門さんが、ここぞとばかりに大技の特殊攻撃を敵の体に叩き込む。

 「難易度レベル45・失われし慟哭の密林」の支配モンスターだけあり、翼竜の攻撃は爪も炎も強烈だ。

 たまに吐いてくる毒の酸は、いつまでも地上に残ってこちらの行動を制限してくる。

 しかし熟練の戦士である土下座衛門さんとブラドさんの活躍により、敵の体力は順調に減少していった。 


 僕たちは現在、三人パーティーでパソコン用オンラインゲームを遊んでいる。

 ゲームの名前は「ジェノサイドハンターW」と言う。略してジェノハン。

 オンラインで仲間を誘って冒険をしたり、集めたアイテムをゲーム上でトレードしたりという、よくあるMMORPGの一つ、らしい。

 ブラドさんがそう言ってた。

 リーダーは青い着流しの太刀使い、板垣土下座衛門さん。

 そして魔法も殴り合いも強いが、その分弱点が多いバンパイアのブラドさん。

 三人目、狼設定だけどどう見ても犬っころなキャラクターが僕、Y田Y平。

 言うまでもないけれど、本名ではない。ゲーム上のニックネームだ。本名は山田陽平です。


「Y平くん、覚醒して敵にトドメを刺す役は任せたぜ。こっちはもうガス欠だ」

 大技を連発しまくって、必殺技ゲージがすっからかんの土下座衛門さんがそう言った。

 二人は僕に、ボスにトドメを刺すチャンスを回してくれることが多い。

 トドメを刺したプレイヤーには、ボスを倒した瞬間にレアアイテムが贈与されるシステムだからだ。

 僕はまだレベルも低いしお金もアイテムも大したことないので、お世話になりっぱなしである。

「すんませんっす。えーと、覚醒ってどのボタンだっけ」

「……コントローラーなら紅、蒼、黄金の同時押しだ。いつになったら覚えるのだね」

 ブラドさんが呆れたようにフォローしてくれた。

 赤と青と黄って普通に言ってくれよ。

 ちなみに、僕はキーボードを打つのが遅いのでボイスチャットを使いながら、ゲーム用コントローラーで操作している。反面、ブラドさんや土下座衛門さんの発言は文字チャットである。

 音声チャットを使わないほうが、パソコンの処理が軽くなる、と言う話。僕にはよくわからないけど。


 画面上では僕の操作に従い可愛らしかった狼キャラクターが、屈強なマッチョの狼男に変身した。

 普段は狼の姿で立ち回り、必殺技ゲージを全消費したときのみ、狼男に変身する。

 そのときは全能力が上がり、弱点属性もなくなるというのが、僕の操っているキャラの特徴である。

 普段の狼状態のときは、素早さが高い程度で他に特徴のある能力ではないけど。

 とりあえず覚醒完了!

 あとは物理攻撃ボタンをひたすら連打して殴るだけ。

『ギシャァァ……!!』

 そのうちに翼竜は断末魔を上げて死んだ。覚醒使う。物理で殴る。相手は死ぬ。

「武器を手に入れたっす。ワンワンバズーカ弐式……ってなんだこりゃ」

 なにか不思議な名前のアイテムを手に入れた。僕の狼くんが装備できるものなんだろうか。

「狼キャラ専用の遠距離武器だな。狼状態で背中に装備する武器だ。走り回って敵を撃つ光景がシュールって有名だな。覚醒したときは使えないんだけど」

 土下座衛門さんが説明してくれる。人間じゃ使えなくて四本足の動物だと使える銃火器とか、ゲームだからってなんでもありだな。


「Y平くんお疲れさま。ウルフ覚醒の爆発力はスカッとするなあ」

 密林エリアの冒険を終え、土下座衛門さんが僕をねぎらってくれた。

 この人は面倒見がいい兄貴分という感じので、僕がこのゲームを始めたとき以来の付き合い。

 いわゆるいい先輩だ。正直、この人がいなかったらこのゲームを続けてはいないだろうと思う。

「……ククク、狼の機動力と火砲の攻撃力が合わさり、まさにわが眷属としてふさわしい実力を身に着けつつあるようだ。せいぜい次の戦いまでにその得物を使いこなせるよう、精進するがよい」

 ブラドさんは、いまいちよくわからない。悪意のある人じゃないと思うけど。

 彼らはリアルでも知り合い同士らしい。

 ブラドさんのリアルなんて全く想像つかないな。棺桶で寝てたりしないだろうか。


 僕がこのゲームを遊ぶときは、基本的にこの三人組で冒険をするかおしゃべりをするか、その程度。

 あることがきっかけで茫然自失として、やるべきことを見失っていた僕。

 そんなとき、ささやかだけど現実逃避と気晴らしができる居心地のいい場所を形成してくれたのは彼らだ。

 二人は本当の意味でヘビーユーザーだけど、週に数時間しかログインしない、まだまだ初心者である僕の相手を、嫌がらずに買ってくれる。

 

 パーティーを解散し、ゲームは終了。パソコンの電源も落とす。

 一転して現実に戻った僕は、ベッドの傍らに置かれたバスケットボールと、机の上で開かれたまま放置されている問題集に目をやり、ため息をついて就寝した。


 


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