キリンののぞみ
「ふぁー」
のぞみは食べている木を見つめました。いつも同じことの繰り返し。強いものからは逃げ、ご飯を食べ、新鮮な葉を求めて移動します。
「なにか面白いことないかな」
のぞみが呟いたその時です。
「ここはどこじゃ? ……ひぇー、山もないじゃねぇいか。いぬっ子追いかけていたのに、なんで、こげんとこに」
突然、足元から声がしました。
踏んでしまったら大変です。のぞみは慌てて、声の主から足を遠ざけました。
「うぉっ!? なんだなんだ!? この黄色い動くのは」
「驚かせてごめんね」
のぞみはそっと顔を下ろしました。
「私の名前はのぞみ。あなたは?」
「おらは、桐丸。日本からきた」
聞いたことのない場所です。それに、今まで、このような動物と話したことがありません。
これは、なにか面白いことがありそうです。
「きりまる? 珍しい名前ね」
「そうか? よくある名前だぞ」
それから、桐丸は住んでいる場所について話してくれました。
ものを教えてもらう場所。たくさんの仲間、それにいろんな種類の食べ物。
「へぇー、いいなぁー。毎日が楽しそうだね」
「ここはどうなのじゃ?」
「うーん、葉っぱを食べて、新しい葉っぱを探して歩くの」
「お散歩がいっぱいなんじゃな」
お散歩。なんと言う素敵な響きなのでしょう。ただの移動が楽しそうに聞こえるではありませんか。
のぞみの目の前に光が差しました。
「桐丸、一緒にお散歩に行かない? 私の背中にお上がりよ」
「いいのかい?」
「うん!」
桐丸は木を使い、そっとのぞみの背中に乗りました。
「うぉー、ずいぶん高いんじゃな」
「ふふふ、大丈夫? 怖くない?」
「ふむ、怖かない。あっ、あの地面を走っている生き物はなんじゃ?」
桐丸が見つけたのは、離れたところを走っている生き物でした。
「リスとウサギだよ。近くにいってみる?」
「うむ、ここではリスは地面を走るんじゃな。興味があるのじゃ」
驚かせないように近づくようにしました。
二匹は楽しげに話しています。
「こ、こんにちは」
「あら、こんにちは。きりんさんから話しかけてくるなんて、珍しいわね。どうしたの?」
自分と違う動物に話しかけることは、滅多にありません。
「あの、私のお友だちを紹介したくて」
「いったい誰だい?きりんさんは君しかいないみたいだけど」
リスの子が言いました。
桐丸は背中から滑り降りて、のぞみの横にたちます。
「おら、桐丸。よろしくなのじゃ」
「人間の子ね。私はウサギのはるです。よろしくね」
「ぼくはリスのみさ。よろしく」
はるとみさは、いつも一緒に遊んでいるようです。
「それで、きりんさん、あなたの名前は?」
「私は、のぞみよ。よろしくね」
誰かと話すことは、どうしてこんなにも楽しいのでしょう。
「じゃあ、のぞみ、桐丸、これから一緒に遊ばない?」
「そうだよ、一緒に遊ぼう」
「うん!」
はるとみさは、草で編み物をしています。
のぞみと桐丸も腰を下ろし、やってみることにしました。
「どうするの?」
「ここをこうやって……次にこうして……」
「ふむふむ」
桐丸はすぐにコツを掴みすぐにできるようになりました。しかし、のぞみは、上手くできません。手が滑ってしまいます。
「うーん、桐丸はどうしてそんなにうまくできるの? どうしたら良い?」
「ここを押さえているからこの間に通すのじゃ」
のぞみが作ったものはボロボロでしたが、桐丸と作るとうまくできました。
「できたわ! 桐丸、ありがとう」
「おう!」
はるとみさも完成したようです。できたものは小さな籠でした。
「ねぇ、一緒にお散歩に行かない? 野イチゴを取りに行くの」
「うわぉー、野イチゴ! 行きましょう!」
のぞみは、元気に立ち上がりました。
「それで、どこにあるの?」
「ここから、向こうに歩いたところよ」
はるが指した方は、しばらく草原が続いています。野イチゴがありそうなのは遠くの方でした。
「えー、あそこまで行くのか? 遠いいじゃんか」
「あら、でもせっかく仲良くなれたんだもの。美味しいものを食べに行きましょう」
「まあ、確かにそうだけど、家に帰るの遅くなるよ」
確かに、二匹の足だと時間がかかるでしょう。
「のぞみ、乗せてあげたらどうだ? 背が高いからすぐにつくじゃろ?」
「けど、私の背中だと滑りやすいでしょ? 落ちないかな」
大きい分、振動が響きます。もし、小さい二匹が落ちたら大変です。
「おらが、抱っこするから大丈夫じゃろ」
桐丸の案で、のぞみがみんなを乗せて、野イチゴ畑まで行くことになりました。
「うわぁー! 高い!」
「のぞみ、ありがとう!」
のぞみは、みんなを乗せて歩きます。
「あっ、あったよ。いっぱいある!」
着いたところは、赤い絨毯のようになっていました。野イチゴがいっぱいあります。
「この籠にお土産もいれていきましょ」
みんなは、食べながら、さっき作った籠にたくさん入れていきました。
「おいしいね」
「こんな美味しい野イチゴ、初めて食べたのじゃ!」
「来てよかった」
次々に口にも放り込んでいきます。
「ふぁー、お腹いっぱい」
みんな、大満足。
辺りも、暗くなってきました。
「そろそろ、家族が心配しちゃうわね。帰りましょうか」
「また、私の背中にのって」
「ありがと、のぞみ」
桐丸がまた、二匹を抱えて乗ります。のぞみは歩き出しました。
日は既に沈み、闇が舞い降りてきます。空気も冷たくなってきました。
「のぞみ、ありがとう。ここで大丈夫だよ」
「うん、分かった」
お別れです。楽しかった分、悲しさが溢れてきます。
「今日は楽しかった、のぞみ、また僕たちと遊ぼうね」
みさが言いました。
そうです。また、会うことができるのです。
「うん!」
のぞみは大きな声で返事をしました。
「またね~!」
「バイバイ」
月明かりが差す中、のぞみはいつも過ごしている場所に歩いていきました。
「あっ」
ふと、背中が軽くなります。
「のぞみ、おら、迎えが来たみたいなのじゃ」
「え?」
桐丸の姿が薄くなっていきます。
「のぞみ、ありがとう。楽しかったのじゃ。みさとはるとこれからも仲良く遊ぶんじゃぞ」
「桐丸……ありがとう、元気でね」
のぞみは、笑顔で送り出しました。
雲一つない空には、一つ明るく輝く月が昇っていました。