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ほっとけばいいわよ

「小春ちゃん、きつい! 苦しいってば!」

「こ、こら! 動くな!しっかり結べないじゃない!」


 お守りやおみくじ、破魔矢の詰まったダンボールが壁のように積まれた社務所の中で、白衣に緋袴の伝統的な巫女装束を着込んだ小春が水響の着付けを手伝っている。


 水響が着るのは明日の本番で着る実際の衣装だ。既に何度か衣装合わせを行っているが不器用な水響は毎回手間取る。


「だって、小春ちゃんの帯の締め方きついんだもん」

「あんたが自分で袴を着れないのが悪いんでしょうが! まわしは一人で締めれるくせに、なんでこれが出来ないのよ!」

「あんなの布一枚だし。こんなに難しい結び方もしないもん」

「蝶蝶もできないのかあんたは! 緩いと舞ってる途中でまた袴がずり落ちるわよ? 本番で恥ずかしい思いしたくなかったら大人しくしな!」

「もー、小和先輩はもっと優しくやってくれるのに」

「あん?何か言ったかな?」


 小春が帯を締める手に力を込めると、水響が悲痛な声が上がる。


「ふぎゃ!! ご、ごめんなさぃぃ!!」


 小春がようやく大人しくなった水響の着付けを終えてしまおうとしたとき、社務所の中に小春によく似た巫女装束の少女が息を切らして駆け込んできた。


 それは小春の双子の妹、小和(こより)だ。


「……はぁ、はぁ。お、お姉ちゃん、ど、どうしよぅ」

小和(こより)?」

「あれ? 小和(こより)先輩、どうしたんですか?」


 小春と違い病弱で、大人しい性格の小和(こより)が普段見せないその様子に二人は手を止めて揃って目を丸くする。


「なんであんた、私にちゃん付で小和には先輩なのよ?」

「えー、だって小春ちゃんは小春ちゃんだよ。小春ちゃんだしー」


 小春は黙って更に腕に力を入れ、水響の悲鳴が上がる。

 しかし小和は二人のじゃれあいを気にしている場合ではなかったようだ。


「あ、あのね……、お姉ちゃん、。私、さっき告白されちゃった……」


 小和(こより)の言葉に目を点にする小春と水響。それから揃って声を上げた。


「「な、なんだってーーーーーっ!!!!!」」


 それからずずいと小和に詰め寄る。


「誰? 誰から? お姉ちゃんに教えなさい!」

「わたしも知ってる人ですか!?」

「あ、あのね……さっき水響ちゃんと一緒にいた子」


 二人の勢いにやや引き気味になりながら小和が答えると、水響が訝し気な顔をする。


「えーーっ!? それってまさか、あやすけからですか?」

「う、うん……確か水宮さんだったかな?」

「はぁ!? なんであいつがあんたに……?」


 小和に告白したのがクラスメイトの水宮彩乃介と聞いて小春も驚いた顔をする。


 小和は天鷲館学園ではなく公立の中学に通っていて、彩乃介とはこれまで話しているところすら見たことが無い。

 確かにおっとりとして女の子らしい小和が自分よりモテるのはわかるが、小和と彩乃介との接点が見当たらない。


「そ、そうだよね? 私もあの子のことよく知らないし……それでね? 思ったんだけど多分その人、私とお姉ちゃん間違えてたんじゃないかな? でも私、驚いて逃げてきちゃって……どうしよう?」


 小春と水響は合点がいったという顔をすると、はぁーっ、と同時に息をついた。


「ほっとけばいいわよ。あんな馬鹿」

「ほっとけばいいです。あんな馬鹿」


 二人同じことを言った。


「えっ、お姉ちゃんはそれでいいの……? それに私、彼女のこと傷つけちゃったよ?」

「いいわよっ! 私はあいつのことなんかなんとも思ってないんだからっ!」

「小春ちゃん! 痛い痛い~~っ!!」


 乱暴に水響の着付けを済ませる小春。再び水響の悲鳴が上がる。


 機嫌の悪そうな姉に小和は苦笑して、羨ましそうに二人のやり取り眺める。昔から病弱だった自分に小春はとても優しいが、自分もあんな風に姉とじゃれあいたいと小和(こより)は常に思っていた。


「仲いいよね二人とも。お姉ちゃんはやっぱり女の子が好きなのかな?」

「は? どうしてそうなるのよ?」

「だって……お姉ちゃん昔から女の子に人気あったし? 水響ちゃんとも仲がいいし……彼女もきっとお姉ちゃんの事本気で……」

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

 ふと何かに気がついたように、小春は小和の言葉を遮る。


「……小和? あんた今、“彼女”って言った?」


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