第三話:中編
長くなってしまいました(^.^;)
穏やかな道のり
ふと、昔を思い出すのも良いかもしれない
第三話
ー騎士の思い:中編ー
side:イルガ
はぁ〜〜、何やってるだか。
俺は、今は近くにいない己の主にため息をつく
結局、俺達がたどり着いたときは始まる数秒前だった
さっきまでは、
「王族はもっとゆとりを持って行動、、、、、、、、」
などといったおそらく礼儀作法を教えている教師の説教が聞こえていたが今は、静かになっている
そんななか俺は、木にもたれかかったまま視線を部屋の中に移す
俺が今いる場所は、礼儀作法の稽古が行われている屋敷の中庭だ。
なんでも稽古中は、男の入室は、禁止されているらしく護衛の俺も例外ではないらしい
そこで、何かあったらすぐ行動できるようにシアの姿がすぐ確認できる中庭にいるって訳だ
庭自体そんなに広くはないが、小さいながらも池があり所々手入れが行き届いていてなかなかいい庭だと思う
そんなことを思っているとまた何かやらかしたのか教師に説教を食らっているシアの姿が目に入った
おそらく口調に関することだろう
なぜかシアは、口調だけはなかなか直す事が出来ないらしい
それ以外の礼儀作法は完璧なのにな〜〜
そう思って改めてシアの事を見る
普段あまりきる事のない緑と白のドレス姿
全く日に焼けていない白い肌
きりっとした整った顔立ちに吸い込まれそうなエメラルド色の瞳
意志の強そうな目付きのせいか男言葉を使っていても違和感がない
説教を聴いている彼女の表情は、困ったような表情で歳相応の愛くるしさがある
そして、日の光で光り輝く蒼銀の長い髪
蒼月の剣舞姫
本人は、気づいていないが俺達騎士団の間ではシアはそう呼ばれている
何故、剣舞姫なんてたいした名前が付いているかと言うとそれは彼女の稽古をたまたま見た騎士団の一人がつけたのがきっかけらしい
本人は、ばれていないと思っているつもりだろうが夜遅くに武芸の稽古らしき事をしているのは俺も知っている
それも、単なる護身術などではなく剣の稽古だ
しかも、その型がどうも今まで見たことのない型だった
例えば普通俺達、騎士団が振るう剣は両刃の剣だがシアの剣は太刀筋を見たところ片刃の剣をイメージしているのかと言う印象を受ける太刀筋だった。
イメージとしてはレイピアだろうか?
あと、どこかの小国のみで作られている”刀”と呼ばれる武器があると父から聞いたことがありそれも片刃だと聞いたがシアが刀を知っているとは思えない
他にも俺達の剣は、相手の守りを力で崩し一刀両断する戦い方すなわち攻めの剣だとするとシアの剣はいかにして相手の守りを崩すかを考えたような技の剣だった。
しかもシアの剣筋をたどる動きは一言で言うと剣舞をやっているような美しさがあった
蒼銀の髪を揺らし月の夜の下に剣舞舞う姫君=蒼月の剣舞姫
(姫君、ね)
中から未だに聞こえる説教に耳を傾けつつ空を見上げてみた
空は、見事なまでに晴天だった
(そういえば、あの時もこんな感じの晴天だったな)
そう思い目を閉じると思い出すのは、五年前のあの日
俺とシアが出会った日であり、己の騎士が見つかった日
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俺事イルガ=ギーニストは、時の大将軍:クラント=ギーニストの長男として生まれた
クラント言えば時の国王:ロキナ=R=ローレンスの右腕とも剣とも言われていた武将であり、またその長男つまり将来の跡継ぎになると思われる俺が生まれたからそれは結構な騒ぎになったらしい
それは、周りから見れば幸せな家庭に生まれたと思うだろうがもしそう聞かれたらその時の俺は恐らくすぐに頷く事は出来ないだろう
俺が生まれてまもなく母は、流行り病に倒れ病死したと父に聞かされ乳母や家の者達によって育てられた
父もやはり大将軍という立場上なかなか帰ってくることが出来なくまた、家の者達も仕事やらなんやらある関係でほとんどの日々を家の中で一人ですごした
そんな日々が続き俺が五歳になったとき剣の稽古が始まった
明日から剣の稽古だと父から聞かされたとき恐らく一番喜んだろう
家の人たちやお客さん達から聞かされた父の武勇の数々
いつしか父は、俺の憧れになっていた
剣の稽古が始まると言う事は、一歩父に近づく日が来たと子供ながらに喜んだ
しかし、いざ始まってみれば父は俺の目標ではなく重りになっていた
いくら剣の腕を磨いても
”さすがクラント将軍の息子””ああ、やっぱり遺伝子が違うね””いいよな。お前は、天性の才能があってよ””やっぱり俺ら凡人とは、違うよな〜。なんでもすぐ出来て・・・”
返ってくる言葉は、こうゆう関係のものばかり
いくら、いい結果を残してもクラント将軍の息子だから
いくら努力して出来た事も天才だから
これらの言葉で片付けられてしまう
そして良い結果が出ないと
”クラント将軍の息子のくせに””あなたくらいの歳のとき将軍はこれくらいのこと出来ましたよ?”
と言われる
違う!!
俺は俺。父上は父上だ!!
なんでも残した結果を父上の息子だから、天才だからで片付けないでくれ!!
俺を俺としてみてくれ!!
クラント将軍の息子ではなく、イルガという一人の人間として見てくれ!!!
いくら心の中で叫んでも口に出す勇気がなく比べられる日々をすごした
俺を俺と見てくれる奴なんていないんだそう心の奥で勝手に決めていた
あの日までは・・・・
その日もいつものように稽古が終わり
相変わらず父と比べられながらもあれから四年たったある日
おれは、ある場所に向かって歩いていった
そこは、稽古が行われた広場の近くの林の中にある小さな広場だ
初めて、稽古の広場に向かっている途中に道に迷いたまたま見つけた広場がここだ
決して広くないが周りが木々に覆われている関係で暑い日でも涼しくって気持ちいい
それ以来この場所でひそかに練習やくつろぎの場にしている
今日もこの場所で練習してから帰るつもりだった
広場に付いた俺は、今日習った型の復習をした
ブン、ブン、ビュウー
上から切り下ろし、下から切り上げ、横に切りつける
ブン、ブン、ビュウー..........
今日習った型を百回確認と復習をし終え帰ろうとしたとき
パチパチパチ
突然の拍手音に驚いて音をした方に顔を向けるとフードを被った幼い子供が俺のほうを見て手を叩いていた
一瞬、どこかの農民の子供かと思ったがその考えはすぐになくなった
歳は、五歳前後で多少汚れているが着ている服は上質なものだ
だが、それより目が行ったのは子供の容姿だ
きりりと整った美しい顔立ちに愛らしい笑みを浮かべ
エメラルド色の瞳は、俺をまっすぐに見つめていた
(綺麗な子だな〜)
今まで、色んな貴族の子と会ってきたがそれらの子供とは違う気高さに似た気配が出ている
(よほどの上級貴族の子かな)
そう思っていると
「お兄さん。剣の修行やっていたのか?」
目の前の子が話しかけてきた
声色からして女の子だと思うがその口調は男口調だった
しかし、妙な事に違和感が感じられなかった
「ああと言ってもさっき習った型の復習だがな」
そこでふと気が付いた
自分が礼儀口調ではなく地の口調で喋っている
「いつも此処でか?」
「ああ」
少女のほうも俺の口調に文句の一つも言わずに喋っていた
これが、別の貴族の令嬢だったら何を言われるかわかったもんじゃない
「へぇ〜。お兄さん努力家なんだな」
「別に、それほどじゃない」
「だって、いつも此処で型の復習をしてるんだろ?そんなの並大抵の奴は続かないと思うぞ俺は」
「それほどでもない」
そう素気なく返事をしているが内心嬉しさがあふれていた
(初めて、クラントの息子としてではなくイルガとして褒められた)
彼女は、俺の素性を知らないだけかもしれないがそれでも嬉しかった
「なぁなぁ。お兄さんなんて名前なんだ?」
「イルガ、イルガ=ギーニスト・・・・」
(しまった!)
いつもどうり家名も入れてしまった
名乗ってから後悔した
名乗ってしまったらまたクラント将軍の息子として比べられてしまう、と
「ギーニストってあのクラント将軍の?もしかしてその息子か?」
「・・・・ああ」
終わった
きっとこの子も今までの子と同じで今までの親しかった口調も変わってしまうだろう
そしてまたクラント将軍の息子として比べられるんだろう
今まであった子が全員そうだったように・・・・・
しかし・・・・・
「へぇ〜。イルガってあの将軍の子なんだ」
「?・・ああ」
あれ?
「じゃ、家とかもでかいのか?」
「多分大きいと思う」
何で?
「へぇ〜イルガってお金もちなんだ」
「一応」
どうして?
「あと「何で同じなんだ」うん?」
まだ何か聞いてきそうな少女の言葉を遮り自分の疑問をぶつける
「同じって何が?」
心底不思議そうな顔で俺を見つめてくる
「何で俺が、クラント将軍の子息だとわかっても何でそんなに親しそうに話しかけてきてくれる?」
そう、今までの奴は俺がクラント将軍の息子だと知ると距離を置くか何にやら下心があり近づいてくる奴らがほとんどだった
「何でってだってクラント将軍とイルガは、違うだろ?」
「え?」
今なんて・・
「え?じゃなくて・・・だからクラント将軍はクラント将軍。イルガはイルガだろ?違うか?」
それは、俺が求めていた言葉
四年前のあの日から望み続けた言葉
「それとも口調改めたほうがいい「そんなことない!!」かってうわぁ!!」
突然、大声を上げた俺に驚く少女
「突然、大声を上げんなよな〜びっくりするだろうが・・・」
「す、すまん」
あまりにも興奮して大声を上げてしまった
「別にいいよ・・・おっとそろそろ帰らないとまずいな」
「え?」
そう言って走り出す少女
「ちょ、ちょっ「またな〜イルガ。また縁があったら会おう〜!!」と」
そう言って手を振り走り去っていった少女
「名前聞けなかったな・・・」
そう思いながらも帰路につく
(俺は俺、か)
いつもと同じ帰路
しかしこの日は、いつもより帰る足取りは軽かった
それからたびたび、あの広場に行ってはあの日の少女を探したが結局会うことは出来なかった。
それからしばらくたったある日、俺は父に連れられある離宮に向かっていた
「これから、お前の将来の主となられるお方に会いに行く」
そう言われてただ真っ直ぐに離宮に向かっていく
(主ね・・・)
いったいどんな人だろう思いつつやはり頭のなかで考えるのはあの日の少女の事
(今頃何をしてるのかな)
そう考えているうちに目的地にたどり着いたらしく台車を降り離宮の中に入っていく
なんでも此処は、今は亡き前国王の妻つまり第一王妃が住んでいる場所で柄にもなく緊張している
そしてしばらくたって王妃様が来た
その容姿は、さすが前国王と現国王に一目惚れされるの納得行くほどの容姿だった
しかし俺がもっとも目が行ったのはその蒼銀に輝く長い髪だ
ぼ〜とする俺をよそに話が進められる
「久しぶりですね。クラント将軍」
「はっ。王妃殿下にもお変わりなきようで何よりです」
そう話す王妃さまの視線が俺に向く
「それで、そちらが・・・」
「はい。私の息子のイルガです」
そういって俺を紹介する父
「は、はじめまして!イルガ=ギーニストで、です」
緊張のあまり言葉をつっかえた俺に優しく微笑み
「初めまして、サリア=R=ローレンスです。これから娘がお世話になります」
え?
「娘?」
思わず口にしてしまった言葉に
「ああ、これからお前が仕える事になる。ファルシア=レジェンス姫殿下は王妃殿下の一人娘だ」
その言葉にさらに緊張する俺
そんな俺に王妃様は
「クス、そんなに緊張しなくてもいいですよ?仲良くしてやってくださいね」
少し可笑しそうに笑いながら俺に言う
「それじゃ、今から呼ぶわね?シア入ってきて!」
そういうと
ギィ
扉が開いて誰かが入ってきた
俺は、頭を下げ片ひざをつき待つ
「顔を上げて騎士イルガ」
そういわれて顔を上げた先に居たのは
「これからあなたの力を貸していただくことになる」
王妃様と同じ蒼銀の髪に
「私の娘のファルシアです」
あの日と同じ笑みを浮かべた
「どうか仲良くしてあげてくださいね?」
あの日の少女だった
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「イルガ!イ・ル・ガ!!!」
「おわっと、シア。おまえ稽古は?」
いつの間にか俺の目の前には、シアがたっていた
「何寝ぼけてんだよ。もう終わったぞ?」
そう言われて見ると太陽が真上に来ている
「そ、そうか。すまん少し考え事をしていた」
「考え事?何考えてたんだよ?」
そう聞いてくるシアに
「さぁ。なんだろうな」
誤魔化す俺
「何だよ教えてくれてもいいだろうがよ!」
「どうどう、さてそろそろ昼飯食いに行こうぜ?」
纏わりつくシアに言う
「話をそらす「じゃ行かないか?」うっ、早く行くぞイルガ!」
そう言って台車に向かうシア
その後をため息をつきつつ追いながら思う
普段、明るく振舞っているシア
しかしその実命を狙われている
その胸の内は、どう思っているかわからないが決して明るい筈がないだろう
(絶対死なせない)
あの日、俺に光を示してくれたシア
主従の関係になってもあの日と変わらない態度で俺に接してくれるシア
(俺が守る)
命だから従うのではなくイルガという一人の騎士として
(お前は、俺が守ってやる)
そうさらに、心の中に誓いをたて
俺を呼んでいるシアのところに向かう
シアが誇れることの出来る騎士
それが、俺が目指す騎士
そのためには、父も越えなくてはならない
昔感じていた父の重りはない
あるのは、目標である父と新たな目標のみ
(絶対越えてみせる)
そう目標を確認し直す
しかし、この時の俺は気づいていなかった
シアの事を恩人とも主ともまたは友としてではなく
一人の異性として見ていた自分に
まだ気づいていなかった・・・・・・・