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平穏への祝福を  作者: 新生 旧太郎
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十数の男達から逃げ、祭壇と思しき所から麓のガタンド(と読めるが実際にはなんと読むか判らない)という集落に着いた。


集落といえども生活感がまだある古びた家はたったの7,8件であり、生活感はもうない廃墟が15件近く、大通りに面して建物が並んでおり、家の裏には小川が流れているような一見平和な集落である。兎に角、俺は一刻を争う状態、なので取り敢えずどこかに隠れよう、と思い、廃墟に入り、二階の子供部屋であったであろう大通側の部屋に隠れた。ラヴクラフトの『インスマスの影』宛らな気もしなくはないような感じだが、生憎晴天である。呼吸を整え、窓からこっそりと覗く。


早いものだ…もう来ている。合唱が聴こえる…。


地下神の為に 不遜の者を捉えよ


俺が一体何時何をしたというんだ…何が『不遜』だ…

今の今まで俺は閉じ込められてたんだぞ…

……?………それ以前俺は何をしていたんだ…?

いや、それ以前も何も……俺は誰だ?

あれ…?俺は何者なんだ……?

何をしていた、以前の問題だ…自分が誰かわかってない。

自分もわからない、『地下神』も知らないのだ。

大通りを黒い者たちが徘徊する…


2時間ほど経ったろうか。奴等が静かに退いているのが見えた。

安堵の溜息が漏れ出た…とその時。


ミシッ ペキッ


誰かが立っている…

俺の後ろに誰かが立っている…


『誰だい』


俺は後ろに話しかける。すると、案外臆病な声が返ってきた。


『き、君が、不遜者(イレベレンス)かい』


思わず後ろを振り返る。すると、相手はハッとした顔をした。

どうしたのか、とは思ったが、敢えてそれは気にしなかった。


『そうかもしれないが、何故俺がその…不遜者なんだ?』


更にその質問で相手は驚いた様子だった。


『真逆覚えていないのか…?!』


ああ、自分の名前すら覚えていないよ、と相手の過剰な反応に苦笑いで答えると、相手は驚きの表情と同時に片方の口角が上がったようにも見えた。


『あ、ああ……全くだ…。何もわからない』


と答えると、ならばこの街や奴等のこともか?と聞いてきたものだから、ああ、キレイさっぱり、と答えた。

『そうか……説明しようか?』


『頼む』


そして、その相手が言うには────


ガタンドはヒュドス山脈と言う山脈に囲われ、ユーラシア大陸最大の秘境と言われており、年中秋冬の気候で基本的に寒い。

そして、俺を追った奴等はヒュドス山脈の谷の一つ、アウファの谷に在る教団、『アウファレヴァ』だという。

巨大で、緑肉やら褐色やらの色をした肉の塊のような姿をした、地下神アウファを崇めているとか。

ガタンドはアウファレヴァによって占拠されてしまっているらしい。アウファレヴァは一家に一冊聖典『アウファスドラフヴ』を配布して、布教したらしい。

それは扠置き、何故俺がそんな教団から追われているのか、それは聖典に原因が在るらしい。


『アウファスドラフヴ』に因ると……


地球の創始から居た最高神アウファにより、生き物の生死は決められていたらしい。そして、アウファは生き物を進化させていく際、最後に人間を進化させたそうだ。人類はみるみるうちに智恵を付けていった。そうしているうちに、人間の中に愚かな者達が現れたらしく、ヒュドス山脈に眠るアウファに投石(とはいえかなり大きい岩だった)したらしい。その際、五つの肉片が何千里先へと飛び散ったらしく、それがヒトと同じ形を借りて生きるようになった。愚かな者達を呪殺したアウファは谷で人類への怒りを持った。

そして、何百年とかけながらも現在に渡って『狂気』『癇癪』『畏怖』を色々な形で様々な土地に送っている。

同時に、散った我が子のような肉片の帰りも待ち望んだ。


その後、四つの肉片だった人間が『至高の本能』により親の元に戻ってきて、親なるアウファを崇め、アウファレヴァを創設し、親の怒りを落ち着けるように宥めるようにした。

そして、その四人は残り一人を『親なるアウファへの不遜者』として、罰し、再び親の身に戻らんことを望み、多くの人間を操っていくこととしたそうだ────


言うには、その『不遜者』が俺だと言うのである。

何とも………………胡散臭い。

意味がわからないが、今は信じるほかないのだ。

自分を知ることなど今は到底できないのだから。

話の詰まるところで行くと、俺はあの棺桶からそのブヨブヨとした邪神と同化するところだったのだ……。


オオ…何と恐ろしい事だ。

自らの体が、精神が無くなる寸前だったのだ……

しかし…知ったところでどうなるのだろうか。

この集落は既に奴等の手の内に在るのだ。

逃げることは出来なかろう。


『俺は……どうしたらいいんだ……』


思わず弱音がうわごとのように口から出て来てしまった。

すると、相手はこう言った。


『匿ってやらんこともないぞ』


窮地に陥ると人は少しの救いにも食いつくものなのだ。

あっさりと『有難うございます』と言ってしまった。

そして、その相手────夜警のジェムという男の家の地下室に匿って貰うこととなった。

人一人暮らすのには十分過ぎるほどの設備が整っていた。

ベッド、水道、電気……まるで俺がここに来ることが予見されていたかの様でもあった。しかし、そんな疑念を抱く余力もなく、俺はベッドで泥のように眠った。


ふと、階上の囁きにも似た声が薄らと聞こえた。


『あ…つ………くいな…か…………れで…れわ…の………かく…つだ…』


『バ…………………する!』


『し…も……だわ……てな……っ!!』


まあ、俺には関係のなさそうな内輪もめだろう……

そして、夢すら見ずに熟睡したのだった。

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