紅薔薇の戦乙女
思いついたのでぱぱっと書いてみました。
突っ込みはしないでいただけると嬉しいです。
突然だが私は転生者だ。
暖かな春の日差しを一身に浴びて生まれ出たのが、私、レイリーリー・オズワルト辺境伯令嬢である。
まるで芽吹いたばかりの若葉のような柔らかな髪を編み込み、春の象徴たる薄桃色の瞳が正しく華麗という言葉を欲しいままにしている。
絶世の美女だった亡き母親の美貌を受け継いだオズワルト辺境伯家の一人娘。
それが私だ。
そもそも私は地球という世界の日本という国の高校生をしていた。
それも、男子高校生。
所謂TS転生である。
どうして死んだのかは思い出せないが、生まれ出た時に私は発狂するかという程に混乱していた。
いきなり赤ん坊になっていたし、股の間にはあちらの世界で長年連れ添った相棒が見当たらないのだ。
それに早い段階で我が家が貴族様であることを知り、政略結婚の道具にされるのかと戦々恐々としていたのもある。
まあ結果は杞憂に終わったのだが。
それというのも父親が呆れるほどの戦闘狂で、名門公爵家の三男であったのだが、先の戦争で手柄を立ててこの辺境の地を与えられたのが我が家の始まりらしく、魔物の森がすぐそばに広がるこの地で、魔物との楽しい愉しい戦いが本人はお気に召している様子だ。
そして本人は物凄く厳つい強面なのだが、そんな自分に嫁いでくれた幼馴染みだった絶世の美女の亡き母親の美貌を引き継いだ瓜二つの一人娘に甘々のデレデレで、『あ、もしかしたらあの作戦イケるんでね?』と奮起した。
その名も、『私より強い男でないと身体は許さないから作戦』。
まずは幼少期からこの美貌をフル活用して父親を籠絡する。
「パパ大好き!! わたくしは大きくなったらパパと結婚してあげるの!!」
と言って父親を喜ばせた。
それはもうあの厳つい強面がゆるっゆるのデロッデロになるほどだ。
羞恥心? ははは、貞操には変えられんのさ。
それと平行して剣、弓、魔法、戦いの術を父親や騎士団の人間に教えを請い貪欲に学びつづけた。
そしてテンプレであるチートなのだが、私には時空間操作魔法が備わっていた。
ただし強力な能力故に制約も厳しかったが。
そしてある程度大きくなるとそれに加えて礼儀作法などの習い事も増えたが私は転生者である知識をフル活用して鍛錬の時間を絞り出してきた。
己の貞操がかかっているのだ、それはもう死に物狂いにもなる。
そして教養の時間で初めて父親と結婚できないと知った少女の振りで、如何にもショックですといった風にこう切り出す。
「パパ、わたくしパパと結婚できないんだって……。だったらパパ以上の、わたくし以上の実力を持つ男以外とは結婚しないから!!」
可愛い可愛い一人娘を自分より弱い男に嫁に出すことに嫌そうな顔をしていた父親に追い打ちをかける。
これで下手な貴族は私に手が出ないだろう。
何せ一人娘を溺愛するあの父親に勝つのは一苦労だからだ。
私の父親は先の戦争で「狂獣」と恐れられ、Sランク冒険者とも渡り合う程の実力者だ。
ふ、世の男共よ、私の貞操が欲しければこの父に挨拶してみるがいい!!
確実に娘はやらん!と襲い掛かってくるぞ。
とまあこのように見事に貞操の危機を回避した私はこんな化物と互角以上の強さを手に入れた戦乙女として国中に知れ渡ることとなる。
もちろん社交界デビューは貴族令嬢として済ませなければならない必須事項だったので、済ませてはいるが、私が舞踏会に出るのは父親の引率時のみだ。
あの父親の目を掻い潜って私を口説く猛者は現れなかった。
そして私についた渾名が「紅薔薇の戦乙女」、どんなに華麗に咲き誇る花でもその身には棘がある、ということからついたらしい。
くだらんな。