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虎と鉄魚

作者: natuatama

 ある国に虎がすんでいました。虎はとてもおおきくてとても力持ちでした。牛を五頭集めたよりもおおきくて、象を八頭集めたよりも力持ちです。

そして虎はいつも空腹でした。その大きな胃袋を満たすだけの大きな獲物はなかなかいないのでした。それで虎はいつも空腹で不機嫌なのでした。おまけに虎の住処の近くには虎を恐れて動物はほとんどいませんでした。だから虎は遠くまで狩に出かけねばなりませんでした。

草を食べる動物がいないので、虎の住処の周りはたくさんの緑の大木が育ち、たくさんのきれいな花が咲いていました。虎はそのきれいな花を眺めながらいつもつぶやくのでした。

「ああ、花はきれいだ、たしかにきれいだ。でもちっともおれ様の腹の足しになりゃしない。だいいち、こんなにきれいな花を食べるなんておれ様にはできやしない」



ある国に、とても大きくてとても美しい牡牛がいました。ふつうの牛を四頭集めたよりも大きくて、きれいな花を七束集めたよりもきれいです。

 あまりにきれいなので、牡牛の周りにはいつもたくさんの雌牛が牡牛に結婚を申し込みました。けれど、牡牛はどんな雌牛よりもきれいだったのでけっして結婚することはなかったのです。

 そして牡牛はいつも、もっともっときれいな牡牛になろうときれいな水の川で身体をあらい、毛についた虫を雌牛にとってもらい、いいにおいのする花の汁を毛につけていました。それでもまだまんぞくできないので、牡牛はきれいな花を見つけてはその花を食べたのでした。そうすれば花の美しさが自分に移るのだと思ったからです。

 だからちかごろでは、牡牛の住む国の花の種たちは、牡牛が近くにいるときはけっして花を咲かせませんでした。おかげで牡牛はきれいな花をなかなか食べることができませんでした。

 牡牛は川にそのきれいな身体を写してはつぶやくのでした。

「ああどうしよう。ここのところきれいな花を食べられない。このままではいつか、どこかの牛がぼくよりもきれいになってしまう。きれいな花が咲いていたらいっこくもはやく食べにいかなくては」



十二月花というとても綺麗な花がありました。その花の綺麗なことといったら・・・。けんかをしているひとの前に十二月花をさしだすと、たちまち花に見とれてけんかどころではなくなってしまうほどです。

その香りの芳しいことといったら・・・。子どもを死なせてしまった母親の前にさしだすと新しく子どもを産もうと父親にほほ笑むほどです。

王様がパーティーの席に十二月花を生けました。すると、とても高価な服と宝石できかざったお客様が、みんな、なんだか自分がとてもみすぼらしい格好をしているようにおもえてすごすごと、はずかしそうに扇で顔をかくして帰ってしまったのでした。

だからひとびとは十二月花をうばいあい、せんそうをしては大地を焼き払いました。そうして十二月花は雑草にまぎれて花を咲かせずにいなければならないのでした。

十二月花は悲しそうに、緑の葉を風になびかせながらつぶやくのでした。

「ああ、いつになったら私は花を咲かせることができるのだろう。いっそ私の美しさがうらめしい。私はただながめてもらうだけで十分なのに」



ある新聞記者がいました。新聞記者は虎を取材しようとしていました。こんなに大きな虎の話を聞けたらピュリッツアー賞間違いなしです。けれど空腹な虎の前にのこのこと姿を現しては、虎に食べられてしまいます。そこで新聞記者は一計を案じることにしました。成功させるには時間が必要です。けれども新聞記者に必要なのは巧みな話術とちょっぴりの運だけです。後は時間が解決してくれる、けっこうな作戦ではないかと新聞記者は考えたのです。


まず、新聞記者は十二月花と話をすることにしました。新聞記者は仲間の新聞記者たちの協力を得てなんとか十二月花を見つけることができました。

「やあ、綺麗なお花さん、私は新聞記者です」

 十二月花は恐る恐る答えました。

「やあ、新聞記者さん」

 今まで会った人間たちは、みんな何も言わずに十二月花をひっこ抜いていく人たちばかりでしたから、あいさつなんてされたのは初めてのことでした。

「今日は貴方達が安心して花を咲かせられる土地のことを教えにきたのです」

「そんなところがあるものかねえ」

十二月花はうたがわしそうに答えました。十二月花たちはせけんのきびしさをよく知っていました。たくさんのけいけんが、十二月花が安心して花を咲かせることのできる土地などないのだと教えているのでした。そこで新聞記者は虎のことをはなしました。けれど十二月花はなっとくしません。

「けれど、新聞記者さん。あのきれいな牡牛はどうするのだい?あの牡牛がいては私たちはみな、食べられてしまうよ」

新聞記者はいいました

「しんぱいごむよう。牡牛にはもっときれいな花が遠くの国に咲いていると教えたのです。当分この国に牡牛が戻ってくることはありません」

もちろんうそですが、十二月花はなっとくしていいました。

「それはすばらしい!私たちはそこにいって花を咲かせようとおもいます」

 そうして十二月花は新聞記者にだいじなタネをわたして、虎の住む土地にタネをまいてもらうことにしました。



すみかの近くに十二月花が咲いていることを知った虎のよろこびようといったらありません。嵐がきてはかぜから十二月花を守り、大雨がふっては雨がやむまで十二月花の上に立ってかさのかわりをするのでした。そうして朝日がのぼってから星がかがやくまで、狩をするとき以外はずっと十二月花をながめてくらしました。

 さてころあい、と新聞記者はきれいな牡牛の元に出向きました。

「やあ、きれいな牡牛さん。わたしは新聞記者です」

牡牛は横柄に答えました。

「なんのようだい、新聞記者さん」

「あなたにきれいな花のありかを教えにきたんですよ」

牡牛はいぶかしげに聞きました。

「ほんとうかい?ちかごろじゃどんな花もぼくの周りでは咲かないんだ。素直にぼくに食べられてぼくのうつくしさのもとになればいいのに」

「それでも猛獣のそばならあなたもこれないだろう、とゆだんして咲いている花もあるのですよ」

 そうして牡牛はよろこんで十二月花を食べに行きました。

「もうじゅうなんか恐ろしいものか。ぼくはふつうの牛を四頭集めたよりも大きいんだ」

 

自分を食べにきた牡牛をみて十二月花はおどろきました。虎はちょうど狩に行って留守でした。

「食べないで、食べないで。牛さん、新聞記者さんと私を食べない約束をしたのではないのですか」

 もちろんそんな約束はしていません。

「そんなことは知らないよ。さあ、きみもぼくのうつくしさの素になっておくれよ」

 そうして牡牛はむしゃむしゃと十二月花を食べて満足し、しばらくここで暮らそうと決めました。



狩からもどってきた虎はむざんに食べられてしまった十二月花を見て怒り、すぐに牡牛をみつけてどなりました。

「おれ様の綺麗な花を食べたのはお前か!?」

 牡牛は虎を恐れずにこたえました。

「そうだよ、見てくれ虎くん。ぼくはあの花を食べてもっときれいになったよ」

 それを聞いた虎は怒りしんとうです。もうゆるせません。

「よくもおれ様の綺麗な花を食べたな、ゆるせん!きさまをくってやる!このきたないよだれだらけの牡牛め!」

 きたないといわれた牡牛も怒りしんとうです。

「なんだと、このずうたいばかりでっかい虎め!ぼくのうつくしさをりかいできないやつに、食べられてなどやるものか!」

二匹は三日三晩たたかいました。牡牛はひっしでたたかいました。しかし、牛が虎に勝てるわけがありません。とうとう虎にあたまをくだかれて、脳みそをさらけ出して死んでしまいました。

三日三晩たたかってはらぺこの虎は、牡牛を一匹でたいらげました。

にくもないぞうもほねもけっかんものうみそもすべてとらのはらのなかです。

ひさしぶりにおなかがいっぱいになった虎は、すみかにもどって一ねむりしました。

たっぷりねむって目をあけると目の前に一匹の人間が立っていました。



「やあ虎さん、私は新聞記者です」

 虎はいぶかしげにこたえました。

「なんのようだい新聞記者さん。今おれ様ははらがいっぱいできげんがいいから、お前を食べないでおいてやるけど」

 新聞記者は心の中でほくそえみました。

しめしめ、よていどおりだ。

「じつは私はあなたと牡牛のたたかいをみていました。いや、じつにあなたはつよい」

虎はおだてられて、さらにきげんがよくなりました。

「あたりまえだ、おれ様は牛を五頭あつめたよりもおおきくて象を八頭あつめたよりもちからもちだ」

「けれど虎さん、この国には牛を六頭集めたよりも大きくて、象を九頭集めたよりも力持ちの魚がいるんですよ。あなたはその魚に勝てますか?」

 おごった虎はいいました。

「なにを言うか、おれ様よりもつよい魚がいるものか」

 新聞記者は疑わしそうにいいました。

「本当ですか?その魚は牛を六頭集めたよりも大きくて、象を九頭集めたよりも力持ちなんですよ」

「たかが魚だろうが。ようし、はらごなしにちょうどいい。その魚のすみかへあんないしろ」

そうして新聞記者は魚の住処へ虎を案内しました。



 魚のすみかへ着いた虎はおどろきました。たしかにその魚は牛を六頭集めたよりも大きくて、おまけになんだかぴかぴかしていてかたそうです。

けれども虎はここで引き下がるわけにはいきません。まずは爪でひっかきます。

「カタイ!!」

 かちんと音がして虎の爪がおれてしまいました。つぎに虎は爪よりじょうぶな牙でかみつきました。

「トテモカタイ!!」

 ガチンと音がして爪よりじょうぶな牙がおれてしまいました。

 今度は魚の番です。

「さあこい」

 虎はいいました。魚はひれを虎の頭に振り下ろしました。

バシリ!

 とても強烈ないっぱつです。虎は頭がくらくらしました。

ゴキリ!

 虎のくびのほねがおれてしまいました。

モゴリ!

 虎の頭がどうたいにめりこんでしまいました。もう死んでいますね。

 魚は死んでしまった虎を魚っぽく見て、魚っぽく食べました。

 魚が虎を食べ終わるのをまって新聞記者が言いました。

「やあ、魚さん。私は新聞記者です」

 魚はなにもこたえません。新聞記者はなおもはなしかけます。

「魚さん、あなたは実に…」

バチリ!

 魚はひれを新聞記者の上に振り下ろしました。新聞記者は魚のひれにこびりついた汚いものになってしまいました。

 魚はその汚いものを魚っぽくひれから洗い落とすと夕暮れの中、魚っぽくすみかにもどりました


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