最強の殺し屋
久方ぶりの、三題噺です。
三題噺って面白いですよね。最初は「魔女」「悪魔」「少女」の取り合わせで書いてて、
(あ、いや……こうした方が自然だよね)
……と思った結果がこれです。
「最強」「殺し屋」「親子」の三題です。
あからさまにこの単語入れるのって、どうだろうとか思った結果がまたこれですorz
意見あると嬉しいです‼
昼下がり、何も無い壁を見つめて取り留めのない、思った事を口に出そうと思い立つ。無論、思う事なぞ一つ。
「あ~、たりぃわ~」
唐突に愚痴る、青年。
しかし、その場所は廃墟となった教会で所々は焼け落ちている有り様だ。
日常の只中に有って、一際異彩を放つそれは戦火の残り香の様だ。
紺色の短髪を弄び、ひび割れた丸椅子を所在無さげに、それも危なっかしく揺り動かす。
「父さん、仕事は入らないの?」
父に似ても似つかない、黒髪を短く切った少年が何とはなしとばかりに訊いてきた。
「いやなに、ただ面倒くさくなったのよ……仕事。 入ってもイヤだなぁ……」
「……」
またか、と少年──ラパスは思った。
生活能力皆無。炊事洗濯は、頼んだそばから逃げ出すし、高給取りだが、浪費家で宵越しの金を持たぬ様な『人生は太く短く』を地で行く男。
「そう面白い顔すんな、笑い死ぬ」
全く悪びれもせず、かつ心底面白く無さそうに茶化す父に、思わずため息。
「良いか、人間働いたら駄目だと思うんだ……。 もっとこう……楽してまるっと儲けられる話が欲しいんだよな、うん」
「そして、それに当てはまるこの間の仕事が罠だったんですが、それは……」
怠ける事こそ、この世の理と言わんばかりに真顔でそんな事を言われ、ラパスは呆れる。
つい先日、此方をよく思わぬ商売敵からの仕事……もとい罠を仕掛けられた事を思い出す。結果だけ言えば、蟻一匹逃さぬ様に囲まれてしまった。
もしも人選を間違えていれば今こうして話せなかったであろう。
ラパスにしてみれば、今思い出してもぞっとしない話だ。
「なぁに、雑兵なんざ束に成ってもこの俺は斬れんよ」
「……確かに、人間離れしてますもんね、父さんは」
横合いからおい、と抗議された気もするが、ラパスは軽く流すに留めた。
冗談等では無く、血路を開いたのは紛れもなく父親たる彼だ。
そして前述の通り、何もかも面倒がる彼にも特筆すべき点が有る。
──戦闘技術である。
あらゆる武器を使いこなし、手足の様に扱う様は熟練の傭兵も真っ青になりそうな程、堂に入ったものだった。
──それにしたって、二十数人相手に大立ち回りとはどれ程の力量が有れば可能なのか、ラパスには見当も付かなかった。
「まぁいい……。 “アレ”は何処いった?」
「エクレールの事?」
「そう、ソレ」
「酷い言い草だね……。 確か、水汲みに行ってくれてる筈だよ」
「ふぅん、そう……」
エクレールとは、この場に居ない少女の事だ。
尚、青年や少年との間に血縁関係はなく、まったく赤の他人である。
青年としては、拾っておいて勝手な話だがあまり関わりたくない相手だった。
(匂うんだよなぁ……それも、濃密な血の臭い)
何処と無く、自分と同じ臭いのモノに同族嫌悪したのかもしれない。
それでも拾った。
──拾ってしまった。
敢えてその時の感情を表すのなら……何だろう、もやもやとした気分になる。考えるのは、此処までで切り上げよう。
──と、そこで扉が耳障りな音と共に開かれる。
青年にとっては見慣れた少年だ。
「どうも、マルディです。 キャファ──」
「シガール、だろ?」
言うが早いか、遮って低音で訂正を促す。
「……失礼しました、シガールさん。 ちょっとお耳を貸して頂けますか?」
無言で耳を寄せる。
ラパスには聞こえないだろうが、キャファールには充分すぎる程の声量だ。
「ウム、内容は把握した。 待ち合わせ場所は?」
「向かいながら話します」
「父さん、何事か有りましたか?」
蚊帳の外だったラパスが尋ねてくる。からかってやろうと思い立つ。
「いいや、マルディとちょっと言えない様な事をしに行くんだ、言わせんな恥ずかしい」
言うが否や、二人して苦虫を噛み潰した様な渋面になる。年頃の美少年が揃いも揃って顔を歪ませる様は最早顔芸である。
「……置いていきますよ?」
「マルディさん、ちょっとこの人にはキツいお灸が必要な様ですので、少々お待ちを……」
「……冗談だ。 だから冗談だって、剣下ろせ馬鹿!」
お堅い事で……。
冗談が通じない事に、キャファールは内心嘆息する。
「後、俺は準備ならもう良いぞ? 身一つの方が気楽で良い」
「身一つ……ハッ!? つまり俺を──」
「……それ以上茶化すとマルディ、首の骨をへし折るぞ。 ラパスも乗っかろうとすんな」
「はい……」
マルディとラパスを黙らせ、扉に手を掛ける。
後を慌ててマルディがやってくる。
「さーて、一丁いきますか」
──面倒だけど、ね。
我等は死神──〈ラ・モール〉。
今日はどんな獲物だろう。