正義の味方採用面接
「へぇ、それで正義の味方になると?」
「はい……」
あれから私はどうしたらいいのか分からなかった。ロードは正義の味方になると言い切ってしまい、私達の基地にまでついて来てしまった。せっかくの秘密基地が、悪の幹部に二度も訪問されるという始末だ。
「う~ん、そうねぇ」
「そういうことだ」
美佳さんも困ったように頭を悩ませる。一方ロードは堂々とした態度である。
いくら正義の味方になると言っても、元悪の幹部だ。はいじゃあ今から正義の味方でとはいかない。
「一応面接してみようか」
「ん? ああ、問題ないな」
そんなものあるんだ。私は面接なんかした覚えはないですけど。初耳だった私は言葉を挟む。けれど美佳さんはしれっと答えた。
「ああ。桜ちゃんは、いわゆる裏入学みたいなもんだから」
「全然意味が分からないです」
そんな抗議もあっさり無視され、ロードの面接が始まった。とは言ってても、少し間取りを片付けただけで面識という雰囲気は全くない。
「じゃあ、まず志望動機は?」
って、何で私が面接官なんだろう。ぱぱっとセッティングされると、私は面接官の位置で渡された紙に書かれた項目通りに質問した。
「桜と一緒にいたいからだ」
「………」
うぅ、何でそんなにはっきり言うかな。少しは恥じらえばいいのに。真剣な表情で言うから、こっちのほうが恥ずかしくなる。やっぱり美佳さん変わってくれないかな。
ヘルプを求めたのだが、美佳さんは何やらにやにやしてこっちを見ている。
……助ける気がないどころか、絶対に楽しんでますね。
「コホン、えと、では、あなたの得意なことを教えてください」
私は気を取り直して渡された紙の次に書かれた文字を読む。
「敵を殺すことだな」
「駄目!」
「な、何故だ?」
「あくまで敵は倒すだけ。そのあとに和解するんだから」
「和解なんかするより、てっとり早いんだが」
「それでも……あ」
美佳さんが「いいから次」と横から指令を出している。仕方なく私は、次に読み進める。
「えと、あなたは正義の味方になって何がしたいですか」
「ふ、もちろん、桜をこの手で白昼歩けないくらいに手込めにするに決まっている」
「ぶっ!?」
「あ、桜ちゃん……?」
な、な、何をするつもりなんだこいつは。冗談じゃない。
「不合格です!」
「何故だ」
本気か。真顔で訊いてくるあたり、意外に馬鹿なのかもしれない。これで合格にするはずがない。
「桜ちゃん、まだ聞いてないことが……」
「聞かなくていいです。絶対不合格です。何が何でも不合格です」
「待て待て、まだ俺は……」
「問答無用! 不合格!」
ロードがショックを受ける。ガ~ンとでも効果音がぴったりなくらいだ。けど知ったことじゃない。仮に正義の味方になるようなら、私の貞操が危なくなる。
「く、なら仕方ない。取引しようぜ」
「む?」
すると引き下がらないロードはそんなことを口にする。いったい何だというのか。
「分かってないようだから言ってやるが、俺は幹部だぞ?」
「それが?」
「つまりだ。組織の内部事情はかなり網羅してるというわけだ」
そ、それは確かに。それが分かれば戦いはかなり有利になって、早くに私もこんな戦いとの二重生活からおさらば出来る。というか多分……あ、やっぱり美佳さんが瞳を輝かせてこの話に飛びつきそうだ。
「桜ちゃん」
「……はい」
嫌な予感しかしない。とにかくロードには聞こえないように部屋の隅に呼ぶので、素直についていく。口元に手をやってこっそりと耳打ちされる。
「桜ちゃんお願い」
「な、何がお願いですか」
「分かるでしょ。私も早くこの戦いを終わらせてしゅっ……あ、いや平和な街を取り戻したいの」
しゅっ……って何ですか。明らかに言い直した美佳さんに疑いの眼差しを送る。まさか出世とか言おうとしたのではないか。そんな追求をしようとするのだが、美佳さんはスルーして頼み込む。
「桜ちゃんも早く普通の学生になりたいでしょ」
「うぅ……」
それはそうなのだが。さっきの面接で了承出来るわけもない。既に初めてのキスも奪われたのに。
「お、そうだ」
と、姿勢を崩して行儀悪く椅子に座るロードが私達を呼ぶ。何事かと思えば、ロードはこれから正義の味方になろうとするどころか、悪の幹部らしすぎる言葉を吐いた。
「入れてくれないなら、このアジトのこと話しちまうかもなぁ」
赤髪をかき上げながらニヤニヤと憎たらしく笑う。お得意の脅迫らしい。そんなの選べるわけがない。
「桜ちゃん。せめて新しいアジトが出来るまで何とか」
「ぅ……は、はい」
何でこうなるんだろう。私は何も悪いことしてないのに。
「よっし。いやぁこれから楽しくなりそうだなぁ桜」
人の気も知らないでロードは気安く近付いてきた。
「うるさいっ! このっ!」
「おっ、おっ」
腹いせにせめて殴ってやろうと思ったのに、ロードは全部避わしてしまう。やはり戦闘力は雲泥の差だ。余計惨めな気分になる。
「ぅ……わぁぁ~ん」
泣きそうになってしまい、そんなところを見られたくない私は身を翻して逃げてしまった。
「お、おい?……なぁ今の俺が悪いか?」
「うーんまぁ、桜ちゃんの立場を考えると、難しいわね」




