カミングアウト
こってりと絞られた私はぐったりと疲弊して自室に戻った。
「うぅ、長かった」
そしてバッタリとベッドに倒れ込む。今日はもう疲れた。さっさと休むことにしよう。
「けっこう良い部屋だな。どっからこんな資金出てんだよ」
「そんなの私が知ってるわけ…………」
「よっ」
時間が止まったかと思う。少なくとも私自身は動けなくなった。声がしたので、反射的にベッドに埋めた顔を横に向けながら返事したところ、目の前には、何とロードがいた。
「~~~~~~~!?」
声にならないような叫びだった。
「……っと、何なんだ急に。これ返しに来たんだよ」
ぽんっと投げられたものは、盗られた私の変身道具だ。
「あ、と、ありがとっ……」
何だか納得いかないけど、とりあえずお礼を言っておく。これでいつでも変身出来る。
先程があまりに大きい声だったためか、何事かと駆け付けて来たのは美佳さんと優斗さんと幸樹さんだ。
「桜ちゃん!」
「おっ、ゾロゾロとまぁ」
「いったい何事って聞きたいところだったけど、その必要もないみたいね」
「てめ、まさかロードか」
三人とも敵意を向けている。と同時に、自陣の所在がバレてしまったことで焦りも含む。
「何だ。お前らは俺がロードだってすぐに分かるんだな」
「当たり前だ。甲冑に身を包んでいなくても、その内にある力は隠し通せるものじゃない」
「へ~? だそうだけど?」
う……。こっちに振られてしまう。私が最初甲冑のない姿のときにロードだと気付かなかったことを掘り返している。私はとりあえず目線を反らしてスルーしておく。
「何しに来たんだ。単身で乗り込んでくるとは舐められたものだ」
優斗さんと幸樹さんがそれぞれ臨戦体勢をとっている。いつでも変身して踏み込める。
「別に。ただ桜に会いに来ただけだ」
「なっ!?」
「ちょっ!」
私はベッドから飛び降りてロードを抑えようと必死だ。いきなり爆弾発言をかますロード。こいつに少しは恥じらいというものはないのか。おそるおそる振り向いて三人の表情は当然ながら驚愕に満ちていた。
「うわ~、ロードが桜ちゃんに惚れてるって本当だったんだ」
「何っ!」
優斗さんと幸樹さんが同時に声を上げる。これで完全に皆にもバレてしまった。
「別にそんな驚くことないだろ? こんな可愛い桜を放ったままのお前らのほうが俺は驚きだ」
「別に放っておいたわけじゃねぇよ!」
「当たり前だろう」
「………………え?」
え~と、どういうこと?
ちょっと話の展開についていけなくなってしまい、整理してみる。
「やっぱりね。私もそうなんじゃないかと思ってたけど」
と、何やら美佳さんはすっかり見ているだけだ。
「あぁ? お前ら桜狙ってやがったのか! 正義の味方のくせにロリコンか!?」
「それはお前もだろうが!」
「俺は征服をもくろむ悪だからいいんだよ」
何やら私を置いてけぼりにして、激しい言い合いが続いている。とても抑制は出来なさそうなほど白熱していた。
「ん? ちょっと待ってろ」
「早くしろよ」
とその時、何やらメロディが流れた。ロードの携帯のようだが、悪の幹部にしては随分と軽い。私がこの前カラオケで歌った曲だった。
「はいよ……っっっ!?」
電話に出た途端、ロードは携帯を耳から離してさらには耳を塞ぐ。誰なのか分からないが、よほど大声だったらしい。二、三言葉を交すと早々にロードは電話を切った。
「悪いな。親父から呼び出しくらった。この続きはまた今度だ」
「あ、この野郎」
ロードはパッと身軽に窓から外に出ていく。止める暇もない。
「……えと、その……」
後に残るのは気まずい空気だった。
「その、ごめんな。勢いになっちまったけど、俺、桜ちゃんのこと好きだから」
「俺も好きだ。優斗にもロードにも譲る気はないから」
そう言って二人とも部屋を出ていってしまう。どう答えたらいいのか分からない私は、すがるように美佳を見上げた。
「桜ちゃんも罪な女ね」
しみじみと言われた。ロードだけでも大変なのに、これからどうすればいいのか。
「ふぅ。まずはお風呂に入りなさい」
「……うん」
美佳さんに言われて、とぼとぼと風呂場に向かう。浴槽でも布団に入ったときも、考えてみたけどますます分からなくなった。ご飯の時かなり気まずかったのは言うまでもなかった。




