尋問
「あ、大人二枚」
ロードはといえば、意外なほどはしゃいでいる。ように見える。戦ってるときは威圧的なのに、甲冑もなくて素顔を晒した今の姿は、むしろ子供みたいだ。
まぁ映画なら寝てればいいかと考えておとなしくついていくことにした。
「ほら桜、これ」
「あ、ありがと……」
席に座って手渡されたのはポップコーンだ。急に何処に行ったかと思えば、これを買いに行っていたらしい。
「飲み物はコーラでいいよな?」
「う、うん…」
何だろう。優しい?
いやいや……。これは普段乱暴な人が、ちょっと優しいとこを見せたらギャップですっごく優しく思えるだけで……。
「ん?どうした?」
ロードも席に座ろうとしてるところ、視線に気づかれたのかそんなことを聞いてくる。
「な、何でもない」
そう答えるだけだけで精一杯になってしまう。全てを見透かしたかのような、そんな余裕の表情で私の領内に入ってくる気がした。
「どうだった?」
映画が終わって出ようとした時、ロードが尋ねてきた。私は待ってましたとばかりに感想を口にした。
「凄かったよ。あんな伏線全然分かんなかったし、最後なんか熱くて、かっこよくて、あと……」
一気に喋る勢いだったが、ロードがニヤニヤし始めてるのに気が付いて、察した。
「……や、そ、そんな感じがちょっとだけ、した……かな……」
「いやいや楽しんでもらえたようで何よりですよ。お嬢様」
……くっ。
恥ずかしすぎる。改めて思えば、結局私の方がはしゃいでいたかもしれない。それをロードに見られていたと思うと、恥ずかしくて穴に入りたいくらいだ。
「さすがにもう暗いな。送ってくぞ」
「へ?」
空を仰ぎ見てロードがそんなことを言う。何か思ってたよりもあっさり終わったようで拍子抜けだ。
「ん? もしかして夜も一緒にいたいとか」
「……なっ!」
そんな解釈をされるなんて不愉快だ。真っ赤になって怒りを露にする。
「おい、送るぞ」
「いらない。帰る」
「けど危ないだろ」
「私が誰だか知ってるでしょ!」
これでも正義の味方だ。普通の女の子とは違う。敵に守ってもらうなんて笑い者もいいとこだ。私はくるっと踵を返して帰り始める。ロードが何か言ってるみたいだけど、知ったことじゃない。どうせ、私を馬鹿にしてる言葉を吐いているだけに決まっている。絶対に振り向いてやるもんか。そんな思いを胸にこの場を急いで去った。
「ただいまぁ」
「あ、おかえり。ってどうしたのそんな格好?」
はぅあ。
し、しまった。ロードに買ってもらった服を着たまんまだった。今まで見たこともない服に美佳さんは驚きを隠せないといったところだ。
「こ、これは、その……」
必死に言い訳を考える。けど、どうやっても悪い方にしか転ばない気がする。
「か、可愛い! どうしたのよそれ」
「あ、ちょっと。か、買ってみた、んだけど……」
「まさか好きな人でも出来た?」
「ち、違います。誰があんな奴のことなんか……」
「ほほぅ…」
う、しまった。
美佳さんが目を光らせ、好奇心いっぱいで悪人じみたオーラを放っている。
「じゃあ、桜はちょっと取り調べ室に来てもらおうか」
「えぇ? そ、そんなのあったなんて聞いてないですけど」
「私の部屋が兼取り調べ室になってるから」
初耳だ。何回か入ったことはあるけど、そんな物騒なものじゃなく至って普通の部屋だったはずだ。
「さぁ来なさい」
「は、離してください。うわあぁぁん」
たいした時間もかからずあっさりと連行されてしまった。黙秘権が許されなかった私は、ついには白状することになった。
「……あのロードが?」
「はい」
「惚れた? 桜ちゃんに?」
「……本人はそう言ってました」
「で? その服を買ってもらって仲良く映画見てたの?」
「別に仲良くなんかしてません」
きっぱりと否定する。何とかキスされてしまったことは言わなかった。それだけでも黙秘出来たことは良しとしよう。
「ちょっと信じられないけどねぇ」
と、美佳さんはグイグイ聞いてきたわりには、半信半疑だ。そりゃそうだ。今だに私もからかわれてるとしか思えない。
「まぁ道具を取り返しただけでもえらかったわ。さすがに何個も作ってられ……って、何面白い顔してんの?」
面白い顔なんてしてないと言える余裕は、まるっきり失われていた。しまった。今日何回目のしまったか忘れてしまったが、せっかく付き合ってやったのに変身道具を返してもらっていない。
おそるおそる美佳さんに正直に話すと、案の定怒られてしまった。これも全部ロードのせいだ。今度会ったらケチョンケチョンにしてやろうと思った。
「桜ちゃん! 聞いてるの!」
「うぅ、すいません……」




