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二重生活

「はぁ、はぁ……な、何すんのよ!?」

「ん? キスのことか?」


 ……っ!?

 やっぱりそうだ。たった今私は、キスされたんだ。  は、初めてだったのに。


「何だよその顔は。もしかして初めてだったのか?」

「……っ」


 口元で笑っているのがありありと分かった。最低だ。戦いで負けていたことよりも屈辱的だった。


「怒るなよ。何も馬鹿にしてるわけじゃない。ただ嬉しいだけだ」


 何がどう違うというのか。嬉しいなんて、馬鹿にして面白がっているのと何も変わらないじゃないか。こいつは絶対に許さない。


「惚れたんだよ」

「あんただけは絶対にゆる……え?」


今こいつは何て言った? 何て聞こえた?


「敵同士なんだがな。すっげータイプだ」

「……な、な、なっ」

「ここで潰すはずのつもりだったが止めだ」


 それだけ言ってロードは姿を消した。何人も倒れていた構成員も一緒に。その場にいたのは私と、倒れている仲間だけになった。


「……く、わ、私の、私の初めてを返せ~~! うわああ~~ん」


 大事にしてきた私のファーストキスは、何と宿敵に奪われてしまったのだ。






「……ら!桜!」

「え?何?」


 急に私の名前が呼ばれ為驚いてしまう。呼んでいたのはどうやら優斗さんらしい。


「どうしたんだよ。ボーっとして」

「う、ううん。な、何でもない」

「少し疲れたの?」


 今度は美佳さんが心配してくれる。ボーっとしてたら駄目だ。あんなこと忘れないと。


「だ、大丈夫ですよ」

「そう? 桜ちゃんは本当によくやってくれたんだから、無理しなくてもいいんだからね」

「は、はい。ありがとうございます」

「どっちかっていうと、俺らが頑張らないといけないのにな。桜は本当によくやってくれたよ」

「う、うん。ありがとう幸樹さん」


 あれからすぐに応援が来てくれた。もう敵はいなくなってしまった後だったが、後処理はまかせて私と、仲間の優斗さんと幸樹さんは引き上げる形となった。幸い命に別状はなかったものの、今の二人を見ると重症だと分かる。指揮官の美佳さんから、今後の動きについて指示された。


「それじゃあそういうことで、解散にするわ。また呼び出すから迅速にお願いね」

「はい!」


 そうして私は制服に着替えた後、急いで学校に向かった。

 私も普通の女子校生。と言いたいがそうじゃない。世界征服を目論む悪の組織と戦う正義の味方をやっている。さっきみたいに敵が街で暴動を起こしていると、すぐに駆け付けて変身しなきゃならない。変身したときはモモレンジャーとして戦うのだ。

 優斗さんと幸樹さんも一緒に戦う仲間で、優斗さんがアオレンジャー、幸樹さんがミドリレンジャーだ。世間でも私達の存在は一般に知られているが、正体は全員秘密にしている。そのため、バレないように普通の女子校生と正義の味方という二重生活を送っているのが、私相川桜あいかわさくらである。


「おはようございます」

「相川。今何時のつもりだ」

「す、すみません。寝坊しました」


 だからこんな風に誤魔化すのも大変だ。何回目になるか分からない同じ理由に呆れたらしく、いいから早く座れと溜め息交じりに指示された。


「また寝坊?」

「あ、うん」


 隣の席に座る友人の玲奈れなが興味ありげに訊いてきた。授業を真面目に聞くより面白そうと思ったのか、はたまた新聞部部長としての野次馬根性がそうさせるのかは分からない。


「たまにはないの? ネタになりそうな理由」

「本当に寝坊だって」


 本当は多分新聞に出来そうなネタだけど。


「でも良かったね。今近くでテロがあったみたいだから。もしかしたら巻き込まれたのかもって心配してたの」

「え? そうなんだ。知らなかった」


 一応知らない顔をするけど、玲奈はけっこう鋭い気がする。


「しかもあの黒い甲冑男が来たみたい」

「……!?」


 ロードのことだ。度々現れるロードは既に何回か目撃され、知らない人はいない。でも、そんなことよりどうしてもさっきのことを思い出してしまう。その、き、き、キスされたことを……。


「ちょ、ちょっと桜大丈夫? 何かすっごく顔が赤いけど。風邪じゃないよね。何かあった?」

「な、何か? な、何かあるわけないよ。そ、そう。何にもあるわけない。あ、あれは、あんなのはカウントなんかされないんだから!」

「相川。静かにしろ」

「す、すみません!」


 ああもう。あいつのせいで、またもや怒られてしまった。



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