出撃! 変形だ。ダークインフェルノ号
「仕掛けって?」
「大方自分の機体だから特殊合金でも使ってんだろ。あいつ、金使い粗いからな」
そんなレベルの話なのかと思ってしまうが、事実攻撃を無効化しているのは間違いない。
それより、今は目の前の敵をどうするのかだ。ただでさえこちらの攻撃は効かない。そんな相手が五体もいる。間違いなくピンチだった。
優斗さんも幸樹さんも、一転して苦戦を強いられていた。
「くっそ」
「さすがにやばいぞ」
機動力では勝っている為、何とか凌いでいるがそれも時間の問題だ。このままだと全滅してしまう。
「どうすれば……」
「考える」
ロードにもすぐに手立ては浮かばず、必死の様子が伺える。私も頭を巡らすけど、こんな危機的状況を打破する考えなんて思いつかなかった。
そんな時、新たにモニター画面が展開される。白衣を着て眼鏡をかける男の子だった。
「よぉ、元気してるかロード様よ」
「この状況でそう見えるなら、テメェの頭はぶっ飛んでるぞ」
ボサボサの頭と、煤で汚れた姿にしては随分と朗らかである。一応「様」と付けてるからロードの手下なんだろうけど、あんまり敬ってる印象はない。
「誰?」
「うちのメカニックだよ。腕は確かだが性格に難ありだ」
まさに性格に難ありのロードが言うくらいだから、相当なものではないかと思う。
「いやいや。ロード様には言われたくないよ。歴代きっての問題児がさ」
そう言ってメカニックの人はカラカラと笑う。正直、今の状況にそぐわなくてイラっとする。
「あ、そこにいるのが例の桜ちゃん? はじめまして。悪のメカニックやってます。マグリットです。ついでにロードのいとこです」
「どうも」
まさかの血縁関係。それでたいして敬ってるように様子がないのかと納得する。けど、今はそんなことはどうでもいい。ロードもマグリットの破天荒な通信にイラついているようで、この時ばかりはロードに同意する。
「それより何の用だ。今忙しいから切るぞ」
「おぉおぉ。随分と勇ましい物言いだな。ネオン様に負けそうなお人の言葉とは思えんが。けど良いのか? お前のダークインフェルノ号、いつでも出してやるぞ」
「それを早く言えよ! 馬鹿マグリ。だが、良くやった。出せ! 今すぐ」
「あいあい。つーかもう出したわ。それより、あれいるのか?」
「当たり前だろ」
ロードの切り札。ダー何とかとやらが出てくるみたいだ。最後の「あれ」というのが気になるけど、これでこの状況が少しでも変わればと思う。
そんな時、モニターに「WARNING」という赤い文字が表示された。
「な、何?」
「来たんだよ。俺のダークインフェルノ号がな」
ネオンの攻撃を華麗に躱しつつ、外の様子を確認した。すると、ネオンの飛行艇よりさらに大きな戦艦が飛行していた。
その存在感は計り知れなく、まさに悪を象徴した黒々としたデザインである。一見、まるで悪魔でも住んでいる城が飛んでいるようにも思える。そんなおびただしいダー何とかに圧倒されていると、何処からか重低音の音楽が聞こえてきた。
「ま、まさかお兄様の……」
「行くぜ」
〜♪
闇夜を切り裂く 暗黒の使者が現れる
唸るエンジン 銀河の彼方まで駆けて行く
地獄の炎を背に 悪の勇姿を見せつけろ
BreakDown!
無限大な野望を胸に エナジー滾らせ
闇のパワー全開
Wow Wow
魂震わせ 敵を撃ち抜く 鋼の拳を振り抜け
勝利の鍵を握る熱い血潮を呼び醒ませ
最強 無敵 ダークインフェルノォォ!
〜♪
流れる音楽に合わせて、ロードのダー何とかは凄い勢いで変形していく。そして、巨大ロボットへとその姿を変えてしまった。黒い鎧を身に纏ったようなデザインでちょっとカッコいいと思ってしまったのが何か悔しいと思う。
「まだまだぁ!」
〜♪
吹き荒れる嵐
「もういいよ!」
変形は既に終わってるのに、そのままテーマ曲っぽい音楽は二番へと移行しようとしていた。なので私は全力で止めた。
「いやいや、こっからが盛り上がるとこなんだぞ」
「あー、もう分かったから。後でいくらでも聞いたげるから早くこの状況どうにかして!」
ロードは少し不満そうにするけど、ネオンの攻撃が止んだわけでもないので一応納得したようだ。
「標的を変更。ピンクの飛行物体。それに、ダークインフェルノ号を狙って!」
ネオンがあからさまに狙いを変更する。スピーカーからとは言え、その声に焦りを含んでいるのはよく分かる。ロードのダークインフェルノ号が本格的に動き出すと、さすがにやばいと思っているようだ。
特大なレーザー砲が、変形したダークインフェルノ号に向かって射出される。人が搭乗していないダークインフェルノ号は普通なら撃墜されてしまう。が、何と被曝すると思われた寸前で、華麗に上半身を反らして躱してしまった。
「ぐぬぬっ」
「凄い! 避けた」
「どーよ。凄いだろ。ついさっきオート機能搭載したのよ」
テーマ曲を流していたマグリットが、モニター越しにドヤ顔を見せていた。
「それは結構だが、また余計なもんつけてないだろうな」
「つけてないって。強いて言うなら特大なかき氷機を背中につけたくらいだな。特大かき氷は俺の夢だったんがようやく果たすことが出来そうだ」
「よーし、分かった。てめぇは後で必ず殺す」
「いいから早く」
そんな漫才なんかしてる場合じゃない。いよいよネオンも本腰を入れて攻撃を仕掛けるようで、ネオンの飛行戦艦から、さらに砲門が出てきていた。




