激闘の空中戦
ネオンの命令が響く。その一声で、飛び回っていた飛行艇らが一斉に、二人の機体に攻撃を仕掛けた。街の空を光線が飛び交う。二人は華麗な動きで、敵の攻撃を避わしていた。
「へぇ」
逃げ場などないと思える弾幕が、空を覆い尽くす。それでも、二人とも敵の機体を確実に撃ち落としていった。その戦いぶりに、ロードも感心を見せる。少しだけ、私のなかにも、どうだという誇らしい気持ちが芽生えた。
でも今はそうも言ってられない。ただでさえ撃ち出される光線で街中は暴動が起きている。幸い到着していた警察や消防が動いているため、一般の人々は任せて大丈夫だと思う。それより、私も手伝わないと。
そんな時、激しい空中戦が繰り広げられるなか、一機だけ妙に目立つ機体があった。敵はほぼ紫色の飛行艇だ。優斗さんが青色で、幸樹さんが緑色。そのどれでもない桃色の機体が、びゅんと私の前に降り立った。皆が逃げていて、車も走っていないからこそ、道路の真ん中に陣取ることが出来ていた。
「え、これって……」
「桜ちゃん。それが君のだ!」
「私の……?」
優斗さんがマイク越しに叫ぶ。薄いピンクで装飾がされていた。全体的に丸みを帯びていて、横の羽は斜めに向いて小さく伸びている。後ろの尻尾のような部分は大きく跳ね上がっていた。
これが私の……。何だろう。こんな時にどきどきしている自分がいた。
「あ、でも私こんなの操縦出来ない」
バイクの免許も持ってない私だ。当然乗ったこともない物を操縦出来るはずがなかった。
「大丈夫だ。俺が動かしてやる」
「いけるの?」
「信じろ」
余計なことは言わない。ただロードは短く言い切った。
元敵で、それも幹部である。けど、その強さは間違いなく本物だ。ロードの強さは、私が一番知ってると言ってもいい。
「分かった、お願い」
「おう」
私は素早く変身を済ませる。本来なら最大の見せ場だけど、何時間も練習した変身ポーズも今は省略する。
ロードはこういうことに精通しているのか。乗り方すらも分からなかった私だが、所謂コックピットも、上に開いて素早く乗り込むことに成功した。
ロードが操縦席に座り、二人までは乗れるようで、すぐ後ろの席に私もスタンバイした。
「さ~て、行くか」
ロードはポキポキと指を鳴らす。手を組んで掌を前に突き出して伸びをすると、ぶらぶらと準備は整ったらしい。次の瞬間、ロードはスイッチが入ったかのように、目の前の機器を高速で打ち込んで行く。速すぎて何をしてるのか全く分からない。さながら鍵盤に例えて、ピアノを弾いてるかのように、淀みなくロードの指が、数あるスイッチを弾いていた。
さらに驚くべきは、前だけでなく、左右、頭上にも広がるボタン配置もカチャカチャと操作していた。私から見れば、ロードが分身しているようにも映る。
徐々に周りが彩られた光を放ち、ブオオとエンジンがかかり始める。素直に凄いと思う。自分だと、とてもじゃないけど操縦出来そうにも思えない。
「これでオッケー。シートベルト締めたか」
「あ、うん」
「んじゃ行くぜ」
あまり振動は感じなかったけど、気付けばもう空の上だ。下を見れば、街は大惨事だった。流れ弾によって破壊され、撃墜された飛行艇の残骸が転がっている。酷い有様だった。
「街が……」
「大丈夫だ」
「何がよ」
操縦桿を握るロードは、背中越しに話す。こんな状況で、大丈夫なことは何もない。早くどうにかしないといけないのに。元敵だっただけに、街のことなんかどうでもいいと思っているのかもしれない。八つ当たりのような感情を持ってしまう私に、ロードは続けた。
「俺がこっち側についてんだぜ。さくっと勝ってやるから安心しろよ」
「……っ」
しっかりと振り向いたあと、ロードは自信たっぷりに言いのける。微塵も負けるなんて考えちゃいない。戦いに赴く者としてどうなんだろうと思う。でも今だけは、ロードのその言葉が何だか……。
「ない。ない。そんなことない」
安心出来たなんてことあるわけない。ぶんぶんと首を振って、自分があるまじきことを考えていたと否定する。これは多分気のせいだ。まさか、不覚にもロードなんかにドキッとさせられたなんてこと、あっていいはずがない。
「目標変更! 早く、あのピンクを狙いなさい!」
ネオンが乗っているだろう一際大きく、一際禍々しい戦艦から、指令が下る。ロードは私と話しながらでも巧みな操縦っぷりを見せつけていた。華麗に旋回を決めて、空の戦いの中を飛び交う。撃ち合う銃撃戦であるというのに、逃げ場などないと思えた弾幕の中も、スイスイと避わして行く。
けど、ネオンの命令に従い飛び回る飛行艇が、一斉に私達が乗る機体に狙いを定める。
「や、やばっ」
「わらわらと鬱陶しいな。手早く片付けるか」
ついにはロードもババババッと光線銃を撃ち込む。一気に三機をやっつけてしまい、敵の攻撃は余裕の表情ですり抜ける。大きく旋回したかと思うと、また二機ほど撃ち落してしまった。
「すごいっ」
素直にそう思った。自然と口から零れた。それが既に不覚だったけど、何よりロードの耳に届いてしまったのがいけなかった。
「どうだ。惚れ直したか?」
「っ……。そ、そんなわけないでしょ」
むぅ。そのどや顔が憎たらしい。今が戦いの最中でなかったら、一発くらい殴ってやるところだ。
「お、おいっ、やばいぞ!」
その時、幸樹さんから驚愕の声が上がった。




