知られた正体
周りを見渡してみる。つい数十分前までは平和な街の風景が、今では見るも無惨なものと化していた。
「くっ……」
住民たちはうまく避難させた。区別がつかないほどそっくりな構成員も全員倒している。だけど問題は、目の前のこいつだ。
「はっ、こっちも大分戦力を削がれちまったが、残りはお前だけだぞ」
目の前で手下たちが倒れているなか、一人悠然と立っているのは『ロード』だ。黒い甲冑に身を包み、偉そうに黒いマントがなびく。顔を隠すように目と鼻あたりは仮面で覆っていた。その上からは赤い髪が見える。手には黒いガントレットを装着し、携えているその大剣には、私の後ろで倒れている仲間の血が滴れていた。
「私は一人でも、戦える」
「へぇ。そういうの嫌いじゃないが、あんまりじゃじゃ馬なのも考えもんだぞ」
「……!?」
疲労した状態といえ、私の視界から消えた。そしてロードは後ろにいる。さっきまでのスピードとは段違いだ。しかしだからといって退くわけにはいかない。ここで私達が負けたら、どんな恐ろしい世の中に変わるか分からない。
「はぁっ!」
後ろ向きから左回し蹴りを繰り出す。ロードはそれを顎を反らして避わした。その勢いできびすを返した私は、そのまま右拳打を繰り出す。
「威力が足らないな」
「ぐっ……」
パシッと余裕たっぷりに受け止められた。ならばと、瞬時に創出した電磁銃を左手に沿えて撃ちこむ。
「なっ……」
この近距離で撃ち抜いたというのに、狙いは外れ、いや避けられて肩をかすっただけだ。だが甲冑をも貫いた結果は、いけると勝利の可能性を示す。怯んだロードは私の右手を離し、後退しようとする。その隙を逃がさず、右手にも同じ電磁銃を携えて二つの銃口で連射した。
「ちっ」
ロードはその弾幕を避わすだけで精一杯だ。このまま攻め続ければ勝てると確信する。
「あまりいい気になるなよ」
「……!?」
守りに徹するのは諦めたか。大剣を振りかざし、前に出てくる。多少のかすりは気にせず突っ込んできた。まずい。距離を取らないと。
「はあああぁぁぁあ!」
ロードが一気に大剣を振るった。その剣の能力なのか。衝撃波となって弾丸を呑み込んでいく。
「ぐっ!」
私の力では対処出来ない。撃ち続けるのを止めて、何とか避ける。横に飛んで受け身をとり、すぐに銃を構えたが、もう目の前にロードが迫っていた。
「……っ」
下から上へと剣を振った。私の電磁銃が壊される。攻撃の手立てが半減した。けど構ってられない。即座にもう片方を向けるが、目の前にいたはずのロードは既にいなかった。
「なっ……!?」
「見えなかったろ? もう諦めな」
やはり捉えられない。ロードが剣を振り抜き、背後を取る。余裕に満ちた声が聞こえた。今ので傷は負わなかったものの、一瞬の剣閃で残っていた銃も破壊される。今の私にはもう武器がない。残る合体武器も、私一人じゃ使えなかった。
「……っ」
悔しいという思いを持ちながら振り向いた時、ぴきっと亀裂が走る。どうやら私のヘルメットのような防具も斬られていたらしい。どちらかといえば正体を隠すための代物だが、民間は避難していて今はいない。そもそも、負けるわけにはいかない瀬戸際の今では、隠す気力も起こらない。そんなことに構う余裕などないからだ。
うまく納めていた長い髪の毛がふわりと舞った。顔の前にもきたので邪魔にならないよう、手で払う。
「え……?」
その時、何やらロードが驚いたような声を発した。よく分からないが武器がない以上、体術だけでも戦うしかない。
たとえ敵が速すぎて捉えられないだろうが、私は諦めるわけにはいかない。そう強い意思を胸に駆ける。
「なっ」
拳を繰り出したところ、ロードは簡単に避わした。だがそれだけじゃない。延びきった私の右腕を掴んで引き寄せたのだ。そして何故かすぐ目の前にはロードの顔があり、私の顎にはロードの右手が沿えられて少し持ち上げられていた。
「何を」
「けっこう可愛い顔してんだな」
「な! 何馬鹿なこと言って……」
「そんなに顔を赤くして、照れてるのか」
ち、違う。そんなんじゃない。予想しなかったから驚いているだけだ。
「離せ! この、っ……」
急に言葉が続かなくなる。何故かと言われれば、私の口をロードがふさいでいるからで……え?
事態を把握するのに一瞬遅れた。何、これ。何で私。抵抗するが離れることができない。実際に離れることが出来たのは、大分と後になってからだった。




