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エーデルガルド・プリモ・リシエール

 一度轍に車輪を取られた以外には道中は何事も無く、予定通り一週間程で一行はリュリュの兄であるアレクシス皇子の治めるグランパレスへと到着した。

「グランパレスに来るのも二年ぶりじゃのう」

 幌馬車から顔をのぞかせて街並みを見回しながら、感慨深げにリュリュがそうつぶやいた。

「感慨に浸っている暇はないわよ。あたしはさっさとアレクシスに援軍を頼んでとんぼ返りするんだから。そうしないと、開戦に間に合わなくなっちゃうし」

「いや、多分侯爵は開戦に間に合わせたくないから姫を使いに出したんだと思うんですけど」

 御者をしていたダニエルが至極もっともなことを言うが、そのもっともさが気に食わなかったらしく、ジゼルはダニエルの頭を小突いた。

「そんなことわかってるのよ。だからこそ開戦に間に合うように戻ったらお父様はびっくりするでしょうが!・・・見てなさいよ、お父様め。絶対に開戦までに帰ってやるんだから」

「つっても、アレクシス軍だって、開戦になんか間に合わないだろ・・・」

 ダニエルと共に御者をしていたジミーがつぶやくが、ジゼルはジミーの頭も小突いた。

「ふふん、あたしを誰だと思っているのよ。実はこういうものを持ってきているのよ!」

 そう言ってジゼルは荷物の中から小さなお守りを取り出した。

「これは帰還札と言って、一度だけ予め登録した場所に戻れる魔法が込められたお札なのよ。これがあれば充分に開戦に間に合うわ。まあ一つしかないからあたしともう一人くらいしか帰れないけど。誰にしようかしら。エドがいいかしら、ソフィアがいいかしら。まあ、レオでもいいけど」

「へぇ、すごいねえ。・・・・見せて見せて」

 そう言ってソフィアがジゼルから帰還札を受け取ってマジマジと見る。

「こんなので、あの距離を帰れるんだねー。すごいねー」

 そう言って裏返してみたり、太陽に透かしてみたりしていたソフィアが、お守りに一部剥がれかけている部分があるのを見つけた。

「ん・・・?ここを・・・剥がすの?」

 注意書きに従って剥がし始めるソフィアに気がついて、レオが慌てて止めに入るが、時既に遅し。

 次の瞬間にはソフィア共々レオの姿もその場から消えていた。

「え・・・?えええええええええええっ!」

 一瞬の間を開けて、現状を理解したジゼルが頭を抱えて、およそ身分のある女性とは思えないような叫び声を上げた。

「ちょ・・・え?どういうことよ!」

 ダニエルの肩を掴んでがくがくと前後に揺すりながらジゼルが半狂乱になって叫ぶ。

「どういうも何も・・・ソフィアがあのアイテムを使っちゃったみたいですね」

「あれ、一個しかないのよ!ど、どうすんのよ!」

「ま、まあまあジゼル。お札で戻れなくても、アレクシス軍と一緒に行けばいいじゃない。開戦には間に合わないだろうけど、一応戦いには間に合うだろうし。ピンチの所に現れるっていうのも。それはそれでおいしいっていうか」

 そう言いながらエドがジゼルとダニエルの間に割って入ってジゼルをなだめ出す。

「く・・・まあ、無くなったアイテムのことを言っていてもしかたないし、そういうことで手を打ちましょうか。さっさとこの親書をアレクシスに叩きつけて早急に援軍を出してもらいましょう」

「そうそう、それがいいって。そうしなよ」




「で、なんでこうなるのよ!」

 軟禁されたスイートルームで、ジゼルが叫ぶ。

 城について早々、ジゼル達一行はアンドラーシュからの親書を読んだ宰相のカズンに拘束され、男女別々の部屋へと軟禁された。

 親書を読んだ後で、カズンの態度が急変した所を見ると、おそらくはアンドラーシュが親書にジゼル達を拘束するように書いておいたのだろう。

「あはは・・・まさか侯爵が皇子にこんなことを頼むなんてね」

 ジゼルと同じ部屋に軟禁されたエドは笑いながらソファーに座ると、テーブルの上に置かれたフルーツに手を伸ばした。

「そもそも、じゃ。何故リュリュまで軟禁されねばならぬのじゃ。・・・エド、リュリュはリンゴが食べたいぞ。できればまたうさぎにしてくれ」

「はいはい。今剥きますね」

「『剥きますね。』じゃないでしょう!早く抜け出さないと本当に間に合わなくなっちゃうでしょう」

「間に合わないなら間に合わないでいいんじゃないかな。戦場になんか出たら危ないし」

 そう言い放ったエドとジゼルの視線が、バチっと音を立てて交わった。

「あんた・・・本気で言ってるの?」

「・・・うん。本気だよ。私はジゼルにもリュリュ様にも戦場になんか出て欲しくないと思っている」

「・・・・・・」

 ジゼルは無言で眉をしかめてエドを睨む。エドは睨み返しこそしないものの、真顔で面白くなさそうにその視線を受け止める。

「や、やめるのじゃ、二人共。こんな所で仲間割れなどしている場合ではないじゃろう」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 リュリュが止めに入るが、二人は互いに顔を背けて黙り込んだ。

 黙りこむ二人の間でリュリュがオロオロしていると、ジゼルが先に沈黙を破った。 

「・・・あんた、実はお父様とグルなんじゃないの?だからそんなに落ち着いているんでしょう」

「バカなこと言わないで。そんなことよりジゼルはもう少し侯爵の気持ちを考えてあげるべきなんじゃないの。なにあのマジックアイテム。あんなのでいきなり帰ったって迷惑なだけでしょ」

「迷惑って・・・だったら、あたしの気持ちはどうなるのよ!お父様があたしのことを心配なさるように、あたしだってお父様が心配なのよ!」

「ジゼルって本当にいつも自分のことばっかり。あー・・・もう、本当に今度という今度は愛想が尽きた。私、別の部屋にしてもらうわ。ここならお城のメイドがいるし、自分の事がなんにもできないジゼルだって、私が居なくても不自由しないでしょ」

「な・・・なんにもできないですって?」

「すみませんリュリュ様。そういうわけで、私は部屋を変えてもらいますので。・・・このバカの事、お願いしますね」

「ば・・・バカってどういうことよバカって!ちょっと待ちなさいよエド!」

 ジゼルの声を背中で聞きながら、エドはさっさと部屋を出て扉を閉めると、部屋の前に立っていた見張りの兵士に話しかけた。

「あの、私もうジゼル様のメイドやめるので、外に出たいんですけど」

「え・・・ですが・・・」

 中のやり取りをこっそり聞いていたらしい兵士が、ダメと言って部屋に戻すのも可哀相かと考えを巡らせているところに、身なりのいい若い騎士が現れた。

「どうした?何か問題か?」

「あ・・・このメイドがジゼル様と喧嘩をしまして・・・それでその、ジゼル様のメイドを辞めるから外に出たいと」

「喧嘩?このお嬢さんが?・・・はっはっは。うん、いいんじゃないか。外に出してあげても」

「し、しかし・・・カズン様は全員を閉じ込めておけと」

「責任は私が持つよ。君はここを離れられないだろうし、この子を戻すのも可哀相だろう。主人と喧嘩をしたんだ。下手をしたら殺されてしまうかもしれないじゃないか」

「・・・それでしたら」

 騎士の言葉を聞いて少し考えた後、兵士はエドを騎士に引き渡した。

「ついて来なさい。私が外までエスコートしよう」

「あ、はい。ありがとうございます」

 歩き出す騎士の後をついてエドも一緒に歩き出す。

 少し後ろをついてくるエドに向かって肩越しに手招きをして、横を歩くように言ってから騎士が尋ねた。

「君、名前は?」

「あ・・・エドです」

「フルネームを聞いているんだけどな」

「えっと・・・エステル・レスピナスです」

「ふむ・・・エステル・・・ね。私はアレックス・ウラポルカ。市井ではアレックスで通っている。エド、君はここから出た後、どうするんだ」

「・・・・・・」

「・・・元いた街に戻って、侯爵と共に戦うか?」

 答えづらそうにして黙りこむエドに、アレックスが尋ねる。

 少しだけ考えた後でエドはその質問に力強く頷いた。

「それは・・・はい。戦います」

「君は騎士でも兵士でもないだろう。それなのに戻って戦うのか?無理して戦う必要などないだろう」

「・・・それでも、私には戦う理由があります」

「一人で背負い過ぎるのはあまり感心しないが・・・。まあ、どうしても戻るというのなら私と一緒に戻ろう。女性の一人旅は危険だし、どうせ私も援軍に出る身だからな」

「本当ですか!」

「本当だ。・・・ただ、そのかわりと言っては何だが、エド。私と結婚してくれないか」

「は・・・い?」

 突然のアレックスの申し出に、エドは呆けたような声を出した。

「そうか。結婚してくれるか」

「いやいやいや!ちょっと待ってくださいアレックス様!な、何をおっしゃっているのかわかりかねます」

「だが、すぐにでも援軍としていかなければいけないし、帰ってから・・・いや、急いで式をあげるか」

「待てって言ってるでしょ!・・・なんなの一体」

 エドの話を聞かずに結婚話を進めようとするアレックスの様子に我慢できなくなったエドが叫ぶ。

「何なの・・・って。結婚の話だろう」

「私は結婚するなんて言っていないでしょう!なのに、何を勝手に進めているの!」

 エドはそう言って自分の身体を抱き寄せようとするアレックスを突き飛ばして距離をとるが、アレックスはきょとんとした顔をしている。

「さっき、はいって言ったじゃないか」

「はいっ?って聞き返したんだよ!一緒に連れていってもらうために結婚なんかしなきゃいけないなら、自分一人で帰る!あなたになんか頼らない。私には十年も前から心に決めた人がいるんだから!」

「・・・そうなのか。心に決めた人が・・・全然知らなかった・・・」

 エドの言葉を聞いたアレックスはがっかりと肩を落とす。

「大体、騎士と平民で結婚なんてできるわけないじゃないですか」

「それは君が本当に平民ならの話だろう」

「な・・・あなた一体・・・」

 アレックスの言葉にエドが警戒感を顕にし、それを見たアレックスがさらに肩を落として、深いため息をついてから続ける。

「君にとって僕は本当にその程度の・・・エド、アレックスをリシエール語で書いて、グランボルカ語で読んでごらん」

「・・・アレク・・・シス・・・?あなたが、あの鼻たれアレクなの?でも、何で?私は・・・」

「髪と瞳の色が変わっていたってわかるさ。久しぶりだね、エーデルガルド。・・・まさか全く気づいてもらえないとは思わなかったけど」

 アレクシスはそう言ってやれやれと笑った。


 

 ジゼルとリュリュが兵士にエスコートされて食堂に入ると、既にアレクシスとエドが席についていた。

 エドは既に魔法による変装を解いており、黒髪は本来の髪色である蒼髪へと変わっていた。

「あら、やっぱりバレちゃったの?せっかくこのあたしが三文芝居に付き合ってあげたっていうのに」

「あはは・・・まさか部屋を出たところでアレクシスにばったり出くわすとは思わなかったよ」

 ジゼルはエドの姿に、さして驚くこともなく案内された席に座った。

 逆に驚きを隠せなかったのはリュリュだ。

「バレたとはどういうことじゃ?お主、エドなのか?」

「リュリュ。あとでちゃんと話をするから、席につきなさい。後ろに客人がつかえているだろう」

「・・・・・・」

 アレクシスに言われてリュリュが振り返ると、シリウスが不機嫌そうに腕を組んで立っていた。

「な・・・お主、シリウスか?」

 エドと同じく蒼い髪になったシリウスに驚いてリュリュが訪ねるが、シリウスは軽く首を振った。

「・・・ユリウスだ。シリウスは仮の名前だよ、リュリュ・テス・グランボルカ姫」


 食事が一段落ついた所で、アレクシスが口を開く。

「さて。先ほどはカズンが失礼をした。彼に代わってお詫びをする。彼は優秀なんだが、少々融通がきかなくてね。叔父上からの親書の通りに君たちを拘束してしまったんだ。不快な思いをさせてしまって本当に済まなかった」

 そう言って全員に向かって深々と頭を下げる。

「本当にね。まさかお父様の戯言を真に受けて拘束されるとはおもわなかったわ。で、アレクシス。こうして外に出してもらえたということは、私達も連れていってもらえるのよね」

「そうなるね。このグランパレスには最低限の戦力だけを残すつもりだから、正直言って君たちをここに置いておくのは不安だ。だから4人も、護衛の2人も僕らと一緒に叔父上の所へ戻ってもらうことになる。こちらも準備があるから、出立は明後日だ」

「明後日?早いね。アンの予想だと、早くて一週間と言っていたのに」

 エドの言葉に、アレクシスは深く頷いた。

「いずれこうなることはわかっていたからね。実は明日にでも出発できるように準備は済ませてあるんだよ。ただ、この戦いは始まってしまえば長期間戻ることはできなくなるから兵たちにも時間が必要だろう。叔父上達の事が心配だとは思うが、出兵するものに一日だけ時間を与えたいんだ」

 この別れが周りの人間との最後の別れになる者もいるだろうしね。と、アレクシスは付け加えた。

「・・・兄様。それで、エドとシリ・・・ユリウスのことなのですが。この髪色は一体・・・」

「ああ、そうだった。ジゼルは知っていたらしいけど、リュリュは知らなかったんだったね。こちらが、十年前から行方不明のエーデルガルド・プリモ・リシエール王女。そちらがシリウス・プリタ・リシエール王子だ」

「・・・・・・待ってくだされ。どういうことですか。それに、長期の戦いとはどういうことですか。我がアミサガンは確かに大きな街ですし、兵もたくさんおりますが、叔父上と兄様の軍であればそうそう・・・」

「リュリュ。順を追って説明しよう。まず十年前のリシエールの夜は知っているね?」

「直接は知りませぬが、話だけは。父様が一晩でリシエールの国を陥落させた戦いですね」

「ああ。そして、突然このグランパレスからリシエールへ遷都した。それだけでも狂気の沙汰だけど、その戦いの裏って言うのはあまり知られていないんだ。父上・・・いや、バルタザールの目的はリシエール城の地下にある冥界への門を開くこと。そしてその門の鍵が、エーデルガルド、そしてリュリュ。お前だ」

「な・・・リュリュが鍵ですと?」

「ああ。今までは鍵の二人が揃っていなかったから扉は完全に開ききっていなかった。バルタザールもエーデルガルドの行方がつかめていなかったからリュリュに手を出さずに来たんだ。しかし最近、エーデルガルドが叔父上の庇護のもと生きている。そういう噂が流れたんだ。おそらくバルタザールはその噂を聞いて、まずはリュリュを拘束しようとした。それがリュリュがアミサガンを追われた理由だろう」

「しかし、冥界の門など開いて父上は何をしようとしているのですか」

「・・・さあね。僕にもその理由はわからないんだ。ただ、十年前のリシエールの夜以降、冥界の門が少し開いているのは間違いない。リシエール周辺ではコボルトやゴブリンが増えているらしいし、冥吏のリッチなんかも目撃されている。今は旧リシエール国内だけだけど、時間が経てばアミサガンや叔父上のところにも現れるかもしれない。それにもしかしたら二人を使わずに門を開く方法を見つけるかもしれない。そうなる前に手を打つ必要がある。叔父上と僕はそのために秘密裏に準備をしてきていたんだ。・・・もっとも、エドやユリウス王子の話は聞いていなかったから、叔父上は僕のことも信用していなかったのかもしれないけどね」

「お父様は別に・・・そんな。そういうつもりじゃないのよ。ただ、情報はあまり漏らさないほうがいいだろうって。そういう話で・・・」

「いや、本気で言っている訳ではないんだ。すまないジゼル」

 ジゼルが慌てて立ち上がり、フォローを入れるのを見てアレクシスが笑顔で言って手で制する。

「とにかく、一度開戦してしまえばリシエールを落とすまでは帰ってくることができない。そういう話だ。本当は人間同士で潰し合っている場合じゃないんだけどね」

 そう言ってアレクシスは大きなため息をついた。

「どちらにしてもアミサガンとは戦わないわけにはいかないけど・・・今後も目先の利益につられて伯父様につく者もいるだろうから、この先も人間同士の戦いはあるんでしょうね」

 ジゼルもアレクシスと同じようにため息をついてうつむいた。

「はいはい。二人共落ち込まない。悩んでいたって解決しないんだからさ。前向きに・・・って、リュリュ様まで何でそんな暗い顔しているんですか。うわ、ユリウスも」

「すまぬエド・・・いえ、エーデルガルド姫。少し一人にしてもらえぬか」

 そう言って立ち上がると、リュリュは部屋を出ていった。

「あ・・・ちょっとリュリュ様!」

「・・・僕も少し一人になりたいので、失礼します」

 そう言うとユリウスも部屋を出ていった。

「アレク!ジゼル!」

 エドの出した大きな声に、アレクシスとジゼルははっとなって顔を上げた。

「二人にはやることがあるでしょ。二人は立場のある人間なんだから、人間同士争わなくていい方法を考えなきゃ。落ち込んでいる暇があるならそれをしなさい!そうしないと、命をかけて戦ってくれる皆に申し訳ないでしょう!」

「エド・・・そうね。うん、ごめん」

「うん。アレクは?」

「エドの言うとおりだ。辛いのは皆一緒だからな。僕も色々考えてみよう」

「そう来なくっちゃね。私はリュリュ様とユリウスの所に行くから、二人でちゃんと人間同士争わないで済む方法を考えておいてよね」

 そう言い残すと、エドは部屋を飛び出していった。

「・・・一番つらい立場のくせに。まったくあの子は」

 ジゼルはエドの出ていったドアを見ながら苦笑した。

「・・・変わらないな、エーデルガルド姫は。彼女は最初に出会った時のままだ。ああいう女性だから僕は彼女が好きなんだ」

「あらアレク。あなたエドが好きなの?」

「ああ、さっき振られちゃったけどね」

「え・・・?ああ、そう?」

 おかしいなと首を傾げるジゼルを見て、アレクもまた首をかしげた。


「リュリュ様!」

 城のテラスで空を見ているリュリュを見つけたエドは後ろから声をかけた。

 振り返ったリュリュの瞳は夕日に照らされているせいか、泣いていたせいか、普段よりもなお紅い色をしているような気がした。

「エーデルガルド姫か・・・。なんでしょう」

「今まで通りエドでいいですよ。リュリュ様」

「じゃったら、リュリュもリュリュでよい」

 そう言ってリュリュは袖口で涙を拭うと、改めてエドに向かい合った。

「そう?なら、遠慮無くリュリュって呼ばせてもらうね」

「・・・のうエド」

「なに?」

「父上は、リュリュがいたから妙な野望を持ってしまったのじゃろうか。リュリュが生まれたから、エドやユリウスの国を攻め滅ぼし、エドたちの両親を殺し、たくさんの人に迷惑をかけてしまったのかのう・・・」

 言いながら、リュリュはボロボロと大粒の涙を流して泣き出した。

「母さまも、リュリュを産むときに亡くなられた。・・・沢山の人に愛された人だったそうじゃ。それに比べリュリュはどうじゃ。リュリュは人に迷惑かけてばかりじゃ。母さまを殺し、父様を狂わせ、リシエールを滅ぼし、オリガやアリスに迷惑をかけ、そして今、叔父上や兄様。その領民達にまで迷惑をかけようとしておる。リュリュは・・・リュリュは生まれてこないほうが良かったのではないか?リュリュなど・・・居なければ」

 そう言って俯いて嗚咽を漏らすリュリュを、エドは優しく抱きしめた。

「リュリュ。・・・そんな悲しいこと言わないで。アンがオリガを送ったのはリュリュが可愛いからだよ。愛しているからだよ。オリガだってね、リュリュ様は凄い人だ。尊敬できるって言っていた。ジゼルも、アミサガンでの反乱の時、オリガがリュリュを連れて逃げたって聞いてから、毎日毎日お城から遠眼鏡でリュリュ達が来ないか、誰かに追いかけられていないか見ていたんだよ。それにアリスはね、アレクが自分の部下の中で一番信頼のおける人だからリュリュの所に送ったんだって。自分が行けない分、アリスにくれぐれもよろしくって、そう言って送り出したんだって。リュリュはこんなに愛されているじゃない。なのに、自分が居なければなんて言わないで。私だって、リュリュが居なければなんて思わない」

「エド・・・エドぉ・・・」

 リュリュはエドの胸で思い切り声を上げて泣いた。

 城中に聞こえるのではないかというくらい大きな声で泣いた。

 リュリュが少し落ち着いてきた所で、エドはリュリュの頭を撫でながら言った。

「私もアレクもジゼルもアンも・・・みんなみんな、リュリュが居てくれてよかったと思っているから」

「ほんとうに・・・?」

「うん。鍵の話だって、リュリュのせいじゃないでしょ。もちろん私のせいでもないと思ってる。たまたまそういう運命だったんだもん。だったら、しかたないじゃない」

「しかたない・・・?」

「うん。しかたないよ。私たちの中に鍵があるのはしかたがない。だったら、この鍵は開きかけた扉を閉めるために使ってやるんだ。だからリュリュも手伝ってよ。私達を愛して、守ってくれた人達にありがとうって言うために。いらないって言った人たちに、どうだ私達がいてよかっただろうって言ってやるために・・・ね?」

「うん・・・そうじゃな。そうじゃ!やろうエド」

「よかった、じゃあ二人で頑張って・・・」

「三人、にしてもらえませんか」

 声と共に突然リュリュの顔の前にハンカチが差し出される。

 リュリュが顔を上げると、口をへの字に結んだユリウスが立っていた。

「僕は、君のことが好きではないけど、今の話を聞いて、姉さんと同じくらいつらい目にあってきたんだろうって事くらいは想像がついた。だから、僕も二人に協力したい」

「ユリウス・・・お主」

「冗談言わないで頂戴。五人よ」

「そうだな、五人だな」

 エド達が振り返ると、いつの間にかテラスの入り口にジゼルとアレクシスが立っていた。

「兄様!ジゼル姉様!」

「いいことリュリュ。泣き言を言うのはいいわ。でもね、あたしたちのしようとしていることは、途中で辞めることは許されないの。あんたが泣いて、「もう嫌だ」って言ったって、その頬をひっぱたいてでも、引きずってでも最後まで連れて行くからそのつもりでいなさい」

「・・・はい!」

「兄様はジゼルと違って、さすがにそこまでするつもりはないから、辛い時は辛いと甘えてもいいからな」

「あー、アレク。何かそういうのってずるくない?」

「ずるくなんてないよ。僕は今までリュリュに注げなかった愛情を・・・」

「と、いうより前々から思っていたんだけど、アレクのリュリュに対する愛情はちょっと異常よね・・・」

「そ・・・そうかな。歳が離れているからじゃないか?」

 アレクシス達のやり取りをみていたユリウスが、エドの横に行って少し小さめの声で、話かけた。

「ね、姉さんも、辛かったら別に僕に甘えてもいいんですからね」

「いえ、ユリウスさん、わたしはそういうの間に合っているんで。本当に」

 真顔で手を顔の前でパタパタと振るエドの態度と言動にユリウスがショックを受ける。

「ちょ・・・ちょっと姉さん」

「ぷ・・・あは。あはははは。なんじゃユリウス、お主実はそういう性格なのか。陰険王子がお姉ちゃんにふられておるわ・・・あははは」

「き、君のお兄さんだって同じようなものだろ」

「ふふん、そんなことはないぞ。兄様はお主と違って優しくてかっこいいからのう。リュリュとて、兄様に甘えろと言われて悪い気はせぬ。どこかの陰険な弟とちがってな」

 そう言ってリュリュはアレクシスの腕にしがみつくように自分の両腕を絡めた。

「兄様はかっこいいのう。どこぞの弟とは雲泥の差じゃのう」

「く・・・姉さん!」

「いえ、本当にそういうの大丈夫なんで」

 ユリウスはエドに向かって腕を差し出すが、エドは再び真顔で拒否する。

「大丈夫じゃないです!僕らの絆が向こうに負けているみたいじゃないですか!」

「じゃあ、エドが甘えないんだったらあたしが甘えてもいいかしら」

 そう言いながらジゼルがふざけて、リュリュと同じようにユリウスの腕に自分の両手を絡めて抱きついた。

「え。あ・・・ちょっとジゼルさん。や、やめ・・・あの・・・その」

「だ、大丈夫?顔真っ赤よ?」

 顔を真っ赤にしながらしどろもどろになるユリウスにジゼルはさらに自分の身体を押し付ける。

「や、ほんとうに、その。あの。む・・・胸が。姉さんと違って胸がですね」

「・・・ユリウス」

「何ですか姉・・さん・・」

 真っ赤な顔で振り向いたユリウスはエドの表情を見た瞬間真っ青になった。

「私とちがって胸が・・・何?」

「いや、違うんです姉さん!そういうことじゃなくて・・・あ」

 ゴンっという音と強烈な衝撃と共にユリウスの意識は暗転した。

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