アリス・シュバルツ
親書についての評定のあった次の日、まだ不満気な表情をしているものの、ジゼルはアンドラーシュの命令通りにリュリュとエドを連れて城のエントランスへと現れた。
エントランスで待っていたのは、エドの弟であるシリウスと兵士のジミーとダニエル。そしてレオとソフィアだった。
「待たせたわね」
「全然だよー」
幌馬車に荷物の積み込みをしながらソフィアが笑顔で答える。
「でもわたしなんかがお供でいいのかな。昨日だってアリスちゃんを怒らせちゃったのに」
「ま、ソフィアとエドは妥当だろ。ジゼルはこういう旅に連れていけるような気の置けない友達はほとんどいないしな。それより俺が入っていることの方が大問題だよ。昨日の今日でもう出発ってどういうことだよ。親子揃って人使い荒ぇなぁ・・・」
レオが小さな声で愚痴をこぼしたのをジゼルは聞き逃さなかった。
「レオ。あなた、そんなに休みたいなら。少しお給料を減らすようにお父様に言ったほうがいい?それならゆっくり休んでいてくれてもいいんだけど」
「げ・・・地獄耳」
「なんですって?」
「なんでもありませんよー。・・・っていうか、俺やこいつらじゃなくて、グレンでも連れてきゃいいのに。まったく素直じゃないよな、お前は」
「っ・・・ソフィア!あなた自分の恋人にどういう教育しているの!」
レオの言葉を受けて顔を真っ赤にしたジゼルがソフィアを怒鳴りつける。
「え?ええええっ!だってそんな、レオ君は恋人なんかじゃないし」
「おだまり!腐れ縁とかただの幼なじみとか、そういう建前はいいのよ!ちゃんと教育なさい!」
「うわぁぁん、そんなことできないよー」
ジゼルが八つ当たり気味にソフィアの肩を掴んでがくがくと揺するのを横目で見ながら、ダニエルが苦笑する。
「・・・レオ、君って本当に怖いもの知らずっていうか・・・なんていうか」
「ま、正直言って、ジゼルくらいなら、めんどくさいってのはあっても、怖くはないな」
「わたしは怖いんだからジゼルちゃんを炊きつけないでよー・・・・」
眉毛と口をへの字にして、ソフィアが得意げにしているレオに抗議する。
「こ、怖いってどういうことよ!ソフィア!あんた前にあたしのこと友達だって、姉妹みたいに思っているって言ったじゃない!」
「うわーん・・・こわいよー。助けてエド、レオくーん」
「はいはい。三人ともそこまで。早く出発するよ」
そう言って普段のメイド服ではなく、動きやすい、どちらかと言えば男性のような格好をしたエドが手荷物を幌馬車に放り込んで、乗り込みながら笑う。
「ちょ、ちょっと待てエドよ」
「うん?何ですかリュリュ様」
リュリュに呼び止められて、エドが片足を馬車にかけた姿勢のままで振り返った。
「なぜこやつが一緒におるのだ」
「こやつっていうのは、シリウスのことですか?」
「そうじゃ。お主や、そっちのメイドは良い。リュリュや姉様の身の回りの世話をしてもらわなければならぬからな。それに兵士たちは護衛だとしてもだ、なぜ一介の司書が同行するのだ」
「・・・それはね、リュリュ」
リュリュの肩に手を乗せて、少し自虐的な笑みを浮かべてジゼルが口を開く。
「今回の旅は、行程を急ぐからほとんど野宿や馬車中泊なのよ」
「それがなんなのですか、ジゼル姉様」
「それに今、城の皆は立て込んでいてね」
「だから、それがなんなのですか、姉様」
きちんと答えてくれないジゼルに対して少しのいらだちを含んだ口調でリュリュが再び尋ねる。
「・・・手が開いていて同行できて、野外でまともな料理を作れる人間が、シリウスしかいないの」
「え・・・」
三人も妙齢の女性が居て?という視線で、リュリュが回りを見るが、エドもソフィアもリュリュと目を合わせないようにして顔を背ける。
最後にリュリュが振り返ってジゼルを見ると、ジゼルだけはきちんとリュリュの目を見た。しかし、その顔は怒っているのか照れているのか、真っ赤だった。
「あ、あたしはいいのよ。料理なんかできなくても困らないもの。そういう立場だもの。そうよ、あれよ。ノ・・・ノブレス・オブリージュよ!」
「姉様・・・それは違いますのじゃ」
「それは違うと思うよ、ジゼル」
「わ、わたしも違うと思うなー・・・」
「う、うるさい!アンタたちも料理できないんだから余計なこと言わなくていいのよ!」
地団駄を踏みながら、ジゼルがエドとソフィア、さらには年端も行かないリュリュまで指さしながら叫ぶ。
「わたしは設備があればそれなりにできるけど・・・」
「私も剥いたり斬ったりは得意だよ。・・・なぜかうまく火が通らないけど」
「うるさい!とにかく出発よ、出発!メンバーの変更とか認めないから!いいわね!」
ジゼルはソフィアの言葉を遮って叫ぶと、さっさと馬車に乗りこんだ。
アンドラーシュとヘクトールが執務室から窓の外を見ていると、丁度ジゼル一行が城門を出ていくのが見えた。
その様子を見て二人は、ホッと胸をなでおろした。
「ジゼル達が行ったな」
「ええ・・・行ったわ」
「まったく、親バカだな、お前は」
そう言って、ヘクトールが笑う。
「あんただって、エド達が一緒に行ってほっとしているんでしょ。お互い様じゃない」
口を尖らせてアンドラーシュが抗議すると、ヘクトールは「確かに」と少し笑った。
ヘクトールの母国であるリシエールが滅亡してからの十年。親戚や、元々国を越えての友人であったアンドラーシュのところに身を寄せながら面倒を見てきたエドとシリウスは、ヘクトールにとって実の子どものような存在と言っても過言ではない存在だ。その姉弟が、やがて戦場となるこの街を離れることができた。それがほっとしないわけはない。
「まあ、あの子達のことはアレクシスに任せるとして、アタシ達はあの子達が戻ってくる場所を残しておくためにがんばらないとね」
そう言って窓際を離れると、アンドラーシュは応接セットのソファーへと腰を下ろし、ヘクトールもアンドラーシュの隣に座った。
「さてと、待たせたわね。じゃあ作戦会議と行きましょうか」
「見えなくなるまで見送っていてもいいのですよ。アンドラーシュ侯爵」
「さすがにそこまで親バカじゃないし、あの子達の実力も知っているからね、そこまで心配してはいないのよ」
「あら、冷たいお父様ですね」
そう言って、応接セットに座った彼女・・・アリスはコロコロと鈴がなるような笑い声を上げた。
「そうかもね。まあ、それはそれとして、貴女にお願いしたいことがあるのよ」
「いいですよ。やりましょう」
そう言いながら、アリスは紅茶を一口飲んで、テーブルの上に戻した。
彼女の格好は昨日までの旅芸人風の格好ではなく、グランボルカ帝国軍の将官クラスの軍服に変わっていた。
「内容も聞かずに?」
「聞くまでもないでしょう。わたしにできることは限られていますし、今は開戦前。そんな時に頼まれることは一つですよ」
「ま、頭のいい貴女ならそう言うわよね。じゃあ、お願いねアリス。いえ、アレクシス皇子麾下、アリス・シュバルツ将軍」
「まあ、現在のような状況は、アレクシスが予想した幾つかのシナリオの中にありましたからね。・・・わりと最悪寄りのシナリオの中ですが」
「ちなみに、最悪のシナリオっていうのはどういうのかしら」
「リュリュ皇女と一緒に、あなた方のかくまっているリシエールのエーデルガルド王女もバルタザール帝に奪われる。・・・というシナリオですね。もちろんそのシナリオには、この世界の終焉というエンディングがつきます」
「あら、怖い」
「ええ。ですから、その怖い未来を防ぐためにも、できればエーデルガルドもリュリュ様と一緒にアレクに引き渡していただけると助かるのですが」
飲み終わったカップを置いたアリスの目が鋭く光り、射ぬかんばかりの視線でアンドラーシュを見る。
「あらあら。・・・・・・小娘がいっちょまえに」
アリスの視線に負けじと、アンドラーシュも一瞬鋭い目付きになるが、すぐに普段の締りのない視線に戻った。アリスの眼光も、いつの間にか、普段のそれに戻っている。
「・・・なんてね。心配しなくても大丈夫よ。エーデルガルドなんてこの街にいないから。たとえアタシ達が負けても、世界が終わることは、しばらくないわよ」
そんな二人の様子を見ていたヘクトールは、いまいち二人の関係が読みきれないでいた。
「アン、二人は一体どういう関係なんだ?」
「え?・・・ああ、そういえばヘクトールに話したことなかったっけね。アタシとアリスは・・・」
「アン、それは私から話しましょう」
そう言ってアリスが語り始めた
カラカラカラと馬車の車輪が廻っている。
強い力でなぎ倒された馬はもう動かず。
大好きな父には顔がなく。
私たちを育んでくれた母の腹は空洞になってしまった。
いつもよく遊んでくれた、曲芸師の兄さんはもうナイフを投げることはできず。
あこがれだった姉さんはもう舞を舞うことはない。
こんなはずではなかった。
いつものように皆で次の街に到着し、父さんの演奏で姉さんが舞い、兄さんの曲芸でお客さんが沸く。
わたしは父さんに習った、まだまだ未熟な演奏を披露し、妹もそれに合わせて舞う。
そんな変わらない毎日が明日も明後日もその次も続くはずだった。
しかし、それは、そんな普通でかけがえのない大切な日常は、たった一頭の大きな熊によって打ち砕かれた。
突然現れたその熊は、私たちの馬車をなぎ倒し、襲いかかってきた。
そして、わたしと妹を守ろうとして、父も母も兄も姉も殺された。
もうだめだ。
もう私たちを守ってくれる人は居ない。
こんなにひどい世界に居たくない。
父さんや母さんや兄さんや姉さんのいるところに行きたい。
そんなわたしの気持ちを察してか、熊がこちらに近づいてくる。
一歩。
また、一歩。
熊が近づいてくる。
そして、わたしと妹の前で、熊は動きを止め、前足を振り上げた。
(殺される・・・!)
そう思って目を閉じるが、何時まで経っても衝撃は襲ってこない。
おそるおそる目を開けると、
熊は、立派な服を着た男の人とがっぷり四つに組んでいた。
「・・・誰・・・」
あまりの光景にわたしはそんな事を口走るのが精一杯だった。
「おお、生きておったか。よかったよかった。・・・待っておれ、儂が今この熊を打ち倒すからのう」
そう言ってニカっと笑うと、あろうことかその男の人は熊を上手投げで放り投げた。
放り投げられた熊は一瞬何が起こったのか理解できず、キョロキョロとしていたが、やがて大急ぎで森の奥に逃げていった。
「二人とも無事かね」
熊が完全に姿を消したのを確認して、男の人が私たちの側へやってきて聞いた。
わたしは目の前で起こったどこかの国のお伽話のような展開を整理しきれず、頷くのが精一杯だった。
「ひどい目にあったのう・・・」
その男の人は辺りを見回すと、座り込んでわたしと妹を抱きしめた。
「すまなんだ。ワシがもっと早く駆けつけておれば・・・」
そう言って男の人は我が事のように涙を流して泣き始めた。
その涙につられるように、わたしと妹の瞳にも、思い出したように涙が溢れてきた。
「陛下!探しましたよ!勝手に先行なさらないで下さい」
しばらく三人で泣いていると、今度は少し若い男の人がやって来た。
「すまぬアン。つい、な。今回の討伐対象に、この娘たちの一行が襲われていたのだ」
「つい、ではありません。はぁ・・・問題の熊は、今しがた私が仕留めましたので、もう引き上げましょう。そろそろ雨も降ってきそうな空模様ですし」
「そうか。・・・君たちの家族の仇はこのお兄さんがとったそうだ。とは言え、そんなことで君たちの気は収まらないだろうが・・・」
陛下と呼ばれた男の人がそう言って悲しそうな表情を浮かべて肩を落とした。
「それは、陛下が気になさることではありません」
「そ・・・そうだよ。おじさんはわたしたちを助けてくれたもの」
「お・・・おじさん?」
「うん。おじさんのおかげ。ねえ、クロエ」
引っ込み思案の妹は声を出さずに頷くだけだが、気持ちは一緒だ。
おじさんのせいじゃない。おじさんが自分を責めるのは違う。
「そうか・・・おじさんか。はっはっは」
「おい娘!こちらをどなたと心得・・・」
「よいよい。二人とも、おじさんに名前を教えてくれんか?」
「アリス」
「・・・クロエ」
「そうか、アリスにクロエか。辛いだろうが二人の家族にお墓を作ってあげよう。もうすぐ雨もふりそうだし、みんなが寒くないようにな」
わたしはおじさんの言葉で、思い出す。
そうだ、皆死んでしまったんだ。
もう笑いかけてくれることも
おはなしすることも
頭をなでてもらうこともできない。
そう思うと、再び涙が溢れてきた。
「アン、すまぬが、戻ってエリザベスを連れてきてくれ。それと、何人か若い兵士とスコップを」
「・・・は。かしこまりました」
しばらくしてやってきたおばさんに私たちを預け、おじさんは周りの人が止めるのも聞かず、雨の中、立派な服を泥だらけにしながらみんなのお墓を掘ってくれた。
おばさんと妹と三人でつくった小さな花の輪を皆のお墓にかけて手を合わせる。
しばらくそうしていると、おじさんが、私と妹を抱き上げて言った。
「アリス、クロエ。おじさんと一緒にきなさい」
「いいの?」
「ああ。おじさんには二人と同じくらいの歳の子が居るんだけど、あまり友達がいないんだ。よかったら友達になってやってくれないか?」
「うん。いいよ。クロエもいいよね?」
「・・・・・・うん」
「そうか。よし。じゃあ行こうか」
そういっておじさんは、また白い歯を見せて笑い、その笑顔に私は安らぎを覚えた。
今思えば、皇帝陛下をおじさん呼ばわりなど、その場でアンに叩き斬られても文句は言えないのだが。
子供というのは恐ろしい。
「・・・と、そんな関係なんですよ。私とアンは。思えばあの頃のアンはもう少しまともでした。ねえ、アン」
話を終えたアリスはそう言ってニッコリとアンドラーシュに笑いかけ、アンドラーシュは口元をひきつらせながら頷き返した。
「うふふ・・・そうね、大体そんな感じね。うふふふ・・・あなたもあの頃はすごく可愛かったのにねえ・・・」
「・・・仲がいいのかどうかがよくわからんのだが、旧知の仲ではあるんだな?」
「ええ。旧知も旧知よ、かれこれ15年位の付き合いになるかしら。しかも皇帝陛下に拾われた旅芸人の娘が、いまやアレクシス軍の将。大したものだわ、ほんと」
「あら、アンがわたしを褒めるなんて珍しい」
「皮肉に決まっているでしょ。・・・まあいいわ。ジゼルがでかけているし、アリスにはジゼル配下の兵士を預けたいの。二週間で練兵して使ってちょうだい・・・と言っても使い物になるかどうかはわからないけど」
「ちなみに、わたしの預かる部隊はどういう部隊なのでしょう」
「街の守備隊よ。人数は100人ちょっと。まあ、万が一内門を抜かれた時の最後の砦ってことにはなっているけど・・・ちょっとね」
言葉を濁らせたアンの意図を察して、アリスがアンに提案する。
「わかったわ。じゃあその部隊は、開戦までの二週間、わたしの好きなように練兵させてもらうわね。あと、数人使って別働隊を作りたいのだけど。こっちは全部の隊に募集をかけさせて。条件は熱意があって、実力がある人」
「そう言うと思ったわ。好きに練兵するのはいいけど壊さないでよ。ジゼルに怒られるから。それと、別働隊も決死隊にはしないこと」
「あらあら、そんな人を鬼か何かみたいに言わないで欲しいですね。・・・まあ、わたしの好きなようにやらせてもらえれば、二週間後には、内門を抜かれた時に怖気づいて逃げ出す兵が出た。なんて事のないようにしますよ。いえ、そもそも開戦すらさせません」
そう言って笑うアリスの目が全く笑っていないのを見て、ヘクトールは薄ら寒いものを感じた。
「と、いうことで、公務で街を離れられたジゼル様に変わり、我々の指揮をとってくださるシュバルツ将軍だ」
ジゼル配下の兵士たちが集められた城の裏庭で、守備隊の隊長がアリスを紹介する。
アリスの姿を見た兵士たちは小声でヒソヒソと話をしていて、唯一オリガだけが話をしていないものの、どうしてこういう状況になっているのか理解できずに、目を白黒させていた。
「只今ご紹介にあずかりました、アレクシス皇太子殿下麾下、アリス・シュバルツです。さて、皆さんに最初に言っておかなければならないことがあります。このイデアの街は、あと二週間ほどで隣領のアミサガンの軍と戦闘状態に突入します」
アリスが口にした、まだ公式には兵士たちに通達の出ていない衝撃的な事実に、兵士同士で話しをする声が少し大きくなる。
「ただし、ヘクトール殿の傭兵隊、ヴィクトル殿の騎馬隊が居ますからそうそうこの城内に入られるようなことはないでしょう。つまり、勝ち戦である限り、この隊は戦うことはありません」
兵士たちの間から安堵のため息が漏れるのを見て、アリスは兵士たちとは違ったため息をついた。
「なるほど。アンドラーシュ侯爵の言うとおりですね。・・・オリガ」
「は・・・はい!」
突然名前を呼ばれたオリガは緊張気味に返事をして姿勢を正した。
「あなたの実力はわかっていますので結構。こちらに来ておいてください。さて、残りの皆さん。皆さんの中で志の高い方には明日、少し殴り合いをして実力を見せてもらいます」
アリスの言葉に、兵士たちが騒然となる。
「もちろん、それが嫌だというのであれば結構。その場合は、今まで通り街の警備をしてもらいます。少し厳しめの練兵を行うようにはなりますが、いままで通り守備隊長の配下となります。ただ、もしわたしに選抜された場合は、一階級特進。私の直轄とし、敵将を討つ任務に就いてもらいます。もちろん、手柄を上げた場合は、特進とは別に昇進や待遇の改善などがあるでしょう。・・・ですが敵将の首を狙う以上はかなり危ない橋を渡ることにもなります。ですから今夜一晩時間を取りますので、各々よく考えて決断をしてください。希望者は明日の八つ、正門前に集合するように。では解散」
そう言って一方的に解散を宣言すると、アリスはさっさとその場を後にした。
オリガは少しだけ考えて、アリスの後を追うことにした。
「将軍。・・・シュバルツ将軍!」
アリスはオリガの呼びかけに一旦立ち止まって振り返ったものの、がっかりしたような表情を浮かべてすぐにまた歩き出した。
「将軍。お待ちください、将軍」
しつこく食い下がるオリガに観念したのか、アリスが立ち止まって不機嫌そうな顔で振り返る。
「オリガ」
「は」
「将軍将軍と呼ばないで。なんだか距離を感じて寂しくなっちゃうから。今はたまたまお互い上司と部下にはなったけど、二人のときは今まで通り、アリスって呼んでくれていいのよ。アンの気まぐれな命令のせいで、私達の友情が崩れちゃうのって、寂しいでしょ」
アリスがそう言って笑うと、オリガは少しあたりを見回して人が居ないことを確認してから口を開いた。
「・・・アリス。一体どういうことなのか教えてもらえるかい?いきなり将軍だとか言われても正直私にはどういうことか見当もつかなくてさ。・・・私だって、本当は君の事を将軍なんて他人行儀な呼び方をしたくはないんだ」
ヒソヒソと耳打ちをするオリガの声を聞いて、アリスの機嫌はみるみる良くなっていった。
「もちろん、ちゃんとお話するわ。今の状況も、これからのプランもね。あなたには頼みたいこともあるし・・・そうね、せっかく部屋を頂いたんだし、とりあえず執務室に行きましょうか。そこでこれまでの経緯を説明するから」




