姫と愉快な従者たち
五月のある晴れた日の夕暮れ時。
グランボルカ帝国第一皇女、リュリュ・テス・グランボルカは峠の途中にある大きな岩の上でイライラと不機嫌な表情を隠そうともせずに、薄い眉をしかめて岩肌を指でトントンと叩いていた。
「オリガよ、馬車はまだ直らぬのか?」
「は・・・申し訳ございません。手持ちの資材で補修するのは大変難しく・・・」
馬車の修理にあたっていた従者のオリガが、車体の下から出てきて車輪の潤滑油で汚れた顔をタオルで拭きながら申し訳なさそうに報告するが、報告を受けたリュリュの表情は何故かパッと明るくなった。
「よし。ならば、馬車はここで捨てようではないか。そうじゃ、それが良い。折角お忍びで旅をしておるというのに、馬車に乗っておったのでは何も見えぬと前々から不満に思っておったのじゃ」
「しかしリュリュ様を歩かせるなど、そんな畏れ多い事・・・」
「オリガ、もうすぐ日暮れよ。このままだと夕食もとれずに野宿になってしまうわ。そっちのほうがリュリュ様を歩かせるより失礼ではないかしら。馬具がないから乗れないでしょうけど、荷は馬にくくりつければいいし、もうイデアの街までは下るだけだもの。歩きましょうよ」
「しかし、アリス・・・」
ひょんなことから一緒に旅をしている旅芸人のアリスもリュリュに賛成するが、オリガはまだ迷っているようだった。そんな煮え切らないオリガの様子に痺れを切らせたリュリュは、岩から飛び降りて一人で歩き出した。
「アリスの言う通りじゃ。そういう訳で、リュリュは先に行くゆえ、オリガは荷をまとめて後から参れ」
「リュリュ様お一人で行かせるわけにもいきませんし私も先に行きますね。オリガは荷物をよろしく」
そう告げるとアリスもリュリュを追って歩き出した。
残されたオリガは大きなため息をつくと、馬車に積んであった荷を馬にくくりつけ始めた。
リュリュとアリスの判断が早かったおかげか、リュリュ達一行はなんとか日暮れ前には目的の街、イデアへとたどり着くことができた。しかし、この街の領主であるリュリュの叔父の城はすでにその日の閉門時間を過ぎており、城門の中へ入ることはかなわなかった。いや、かなわなかったというのは語弊がある。元々この城の人間であるオリガが、侯爵直々の命令で動いていたことや、リュリュの正体を明かしてでも掛け合おうとしたが、リュリュはそれを笑顔で制したのだ。
「良いではないかオリガ。一晩くらい街の雰囲気を楽しむのも悪くはないじゃろう」
「しかし・・・」
「良いではないですかオリガ。リュリュ様がこうおっしゃっているのだから」
「あ、お待ちくださいリュリュ様・・・」
二人共、ただ街で遊びたいだけなんじゃないだろうかと思いながらも、オリガは既に城門に背を向けて街へ歩き出した二人の後を小走りに追った。
「しかし、このイデアの街は活気があって良いのう。ここまでの道中で立ち寄った街とは大違いじゃ。リュリュのアミサガンにも引けをとらぬぞ」
宿に馬と荷物を預けた後で市場に繰り出したリュリュは、あちこちを見回しながら感想を言った。
「そうですね。逆に私は、アミサガンへ辿りついた時に全く同じ感想を持ちました。道中の街々はあまりにも荒んでおりましたから」
「確かにそうかも知れないわね。今この国で活気がある街はこのイデアとアミサガン。そして前の皇都であったグランパレスくらいではないかしら」
「ふふん。リュリュと叔父上と兄上の統治はそれだけ見事ということじゃな」
アリスの言葉に、リュリュがちいさな胸を張って得意げに答える。
「まあ、その見事な統治をされていたリュリュ様は今や追われる身ですが」
はっはっはと高笑いしようとしていたリュリュはアリスの言葉に凍りついて立ち止まった。
「アリス!どうして君はそうやってリュリュ様に失礼なことを・・・」
「ふ・・・ふふ・・・そうじゃな。確かに今、リュリュはアリスの言うとおり追われる身じゃ。しかしじゃ。叔父上の協力を取り付けられた暁には、リュリュはアミサガンを見事にこの手に取り返してくれようぞ」
立ち直ってグッと拳を握って宣言するリュリュに、アリスは笑顔で小さな拍手を送る。
「その意気です。私としてもここまでの護衛料もいただかなくてはいけませんし。リュリュ様には是が非でもアミサガンを取り戻していただきませんと」
「う・・・そうであったな」
信頼していた家臣の謀反で城を追われたリュリュと、リュリュと共に脱出し、護衛をしていたオリガの窮地に現れたアリスは、オリガに助太刀して見事に追手を撃退すると、法外な護衛料を請求してきた。
それは逃げるときに持ちだしてきた手持ちの金で払ってしまった場合、その先の旅がままならなくなる程の金額だった。
そこでリュリュが提案したのが、イデアまでの旅費をリュリュが持ち、護衛の費用は街を取り戻してから。という契約だった。当然同行する日あたりにも日当がかさむため、アリスへの支払い額は大分ふくれあがってしまっていた。
「まあ、リュリュ様がダメならリュリュ様のお兄様や叔父様に支払って頂くだけですが」
そう言ってあらあらと笑うアリスの笑顔は皇子だろうが侯爵だろうが、確実に金をむしりとる。そういった迫力を備えていた。
そこには、権力者に対する恐怖や畏怖といった物は微塵も感じ取ることはできない。
オリガは最初それが旅芸人という一種権力とは結びつきの弱い世界に所属するアリスの性質からくるものなのだろうと思っていたが、法や道徳は順守するところを見ると、どうやらそういうことではないようである。
「どうかしたの」
「あ、いや。別にどうということはないのだけど。アリスはあまり権力を恐れないんだなと思って」
「そんなもの、恐れるだけ無駄だもの。権力を恐れて泣き寝入りしていたって、それこそ権力は事情を聞いてくれるわけじゃないでしょう」
「そうじゃな。じゃがリュリュはそういう泣き寝入りしている者達も泣かずにすむ国を作っていきたいのじゃ。そのためには、まず我が街を取り戻さねばならぬ。全く、フィオリッロめ。突然リュリュを拘束しようとしおるとは一体何を考えているのか。ああ、今思い出しても腹が立つ。フィオリッロめ、今にみておれよ」
謀反のときの事を思い出したのか、薄い眉毛をしかめてリュリュが不機嫌そうな表情を浮かべた。
「ご心配は要りませんリュリュ様。我が主人アンドラーシュ様が、姪御様であるリュリュ様を無下に扱うようなことはありません」
そう言って熱弁を振るうオリガの言葉にアリスが首を傾げる。
「あら、オリガ。貴女リュリュ様の配下ではなかったの?」
「ああ。私は元々侯爵が行われた、身分にとらわれない新しい採用試験を受けて合格し、城の門番に取り立てていただいたんだよ。そしてその後、先見の明のあったアンドラーシュ様は、私を万が一何かあった場合の、リュリュ様の護衛になるようにと派遣されたんだ。今考えてみてもやはりアンドラーシュ様は凄い方だ」
よほど侯爵に傾倒しているのだろう。彼の話をするオリガの弁は熱っぽさを帯びていく。そんなオリガとは対照的に、リュリュのテンションはどんどん低くなっていく。
「まあ・・・のう。いや、頼ってここまで来ておいて言うのもなんじゃが、本当に叔父上で大丈夫なのかのう・・・少し遠くても兄上のところまで行ったほうがいいような気がするのじゃがのう」
「大丈夫・・・だと思います。多分、きっと」
リュリュの不安そうな表情と声につられて、先ほどまで自信満々だったオリガの態度も幾分か頼りないものになる。
「あらあら。あなたの侯爵に対する信頼というのはその程度のものなのかしら」
「いや、すごい方だというのは間違いないんだ。統治の手腕や、昔皇帝陛下の親衛隊を務めたほどの剣の腕。人柄だって、身分や性別問わず別け隔てなく接してくださるし素晴らしいと思う。だけど・・・いや、口で言うより会ってもらったほうが解ってもらえると思う。とにかく、アリスは実情を知らないからそんなことを言えるんだ」
「あら、実情は知っているわ。この街のこの状況が実情なのでしょう。この街の活気を作り出せる領主がそんなに悪い人だとは思えないのだけど」
「そういうことじゃなくて・・・何と言うか」
「・・・そうじゃな。まあ、叔父上がダメでも従姉妹のジゼル姉様が力になってくれるじゃろ」
そんな話をしながら三人が市場に差し掛かった時、通りの奥のほうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「おうおう、婆さんよ。昨日この屋台で買ったりんごが腐ってたんだよ。一体全体どういうことだ!」
「も・・・もうしわけございません、すぐにお取替え致しますので・・・」
「取り替えますじゃあねえだろ。腐ったりんごで兄貴が腹ぁ下しちまったんだよ。いったいどう責任を取ってくれるんだ」
「どうといわれても・・・」
三人が現場に駆けつけてみると、見るからに悪そうな4人組がリンゴ売りの老婆を取り囲んでいちゃもんをつけている最中だった。
4人組は腰に短刀を帯びていて、そのうちの1人は鞘から抜いた刀をギラギラと見せびらかすようにして、周りの人達を威嚇していた。
「・・・警備の兵は来ないのかのう」
リュリュが小さな声でオリガに尋ねる。
「この時間は、街の反対側を警らしているはずです。おそらくそれを知っていての計画的な犯行でしょう」
「ふむ・・・オリガよ。お主、奴らを取り押さえられるか?」
「あの位置では無理ですね。一人倒している間に、あのおばあさんを人質に取られてしまいます」
「むぅ・・・。アリスと二人がかりならばどうじゃ?」
「二人がかりでも、向こうは四人いますからね。オリガの言うとおりあのおばあさんに危害が及びます」
「ふむ・・・さて。どうしたものか」
二人の話を聞いて、リュリュが思案しようとした時だった。
「お待ちなさい!」
と、よく通る女性の声が市場に響き渡った。
「何だ何だ?」
男たちが声のした方を振り返ると、人垣が割れて、眉の濃い、凛々しい顔立ちの女性が立っていた。
「なんだてめえ!」
「余計な口出しすっとぶん殴るぞ!」
「面白い戯言ですわね。私をぶん殴る?ふふん、仮にもこの街の統治者たる私を?そんなこと言っていると・・・」
少し顎を上げて、顔を歪めてバカにしたような、あざ笑うような表情を浮かべて女性は親指で首を斬るような仕草をした。
「・・・その首、落としますわよ」
「ふ・・・ふざけんなこらぁ!てめえみたいな小娘程度に俺たちがどうにかできるとでも思ってんのかぁ!」
そう言って剣を抜いていた男が斬りかかろうと上段に剣を振りかぶろうとした時だった。
パキっと軽い音がして、男の持っていた剣が折れ、地面に刀身が転がった。
「て、テメエ、何してやがる!」
剣を持っていた男が振り返ると、そこには金属製の目の荒い櫛のような物を持った、黒髪をポニーテールに結ったメイドがしゃがんでいた。
どうやら手に持っているソードブレイカーで、男の剣に細工をしていたらしい。
「ありゃ。バレちゃった・・・ねっ、と」
メイドはそのまま深く沈み込み、低い姿勢を取って男の下半身に当身をしバランスを崩した。そして男がよろけたところを肩に担ぎ上げると、そのまま後ろに倒れるようにしながら男を頭から地面に落とした。
「ひぇ・・・化物メイド・・・!」
「まあまあ、待ちなよ。そんなに慌てて逃げなくても殺しはしないって。だいたい仲間を置いて行くなんて薄情じゃないか」
メイドは仲間の惨状を見て逃げようとした男の襟首を掴むと、そのまま後ろに引き倒した。
「た、助けてくれ!」
「そんな人を化物か何かみたいに言わなくたっていいじゃない」
引き倒された男は恐慌状態になってしまい、手足をバタバタと動かして逃れようとするが、メイドの力の方が強いのか、うまく重心を抑えられてしまっているのか、立ち上がることもできない。
「に、逃げるぞ」
「お、おう!」
残った二人が逃げようと、短刀を抜いて振り回しながら先ほどのドレス姿の女性の方へと走りだす。
「どけどけ!」
「怪我するぞ!」
短刀の剣風に押されて人垣は先程よりも広く割れるが、女性は避ける素振りもなく、その場で優雅に笑いながら、扇子を開いて扇いでいた。
「あまり、私の街で無体なことをするのであれば・・・」
男たちとのすれ違いざま。金髪の女性は扇子を閉じて横薙ぎに一閃した。
「・・・首が飛ぶ。と、言ったわよね」
そう言って再び金髪の女性が扇子を開いてひらひらと仰いだ時、逃亡を企てた二人は喉元を押さえて地面を転がりまわっていた。
「首が飛ばなくてよかったわね。さて、誰かこの無法者たちに縄をかけていただけないかしら。警備の兵に渡す前に逃げられてしまうと、遺恨を残して後々厄介なことになりますわよ」
女性がそう言うと市場の男たちが、慌てて屋台から縄を持ってきて4人の男たちを縛り上げた。
その様子を満足そうに笑って見届けると、女性はりんご売りの老婆の方へと歩み寄った。
「怪我はなかった?」
「は・・・はい。ジゼル様のおかげです。ありがとうございます。ありがとうございます」
ジゼルと呼ばれた女性は地面に頭を擦りつけるようにして礼をいう老婆の手をとって顔を上げさせる。
「そんなことをしなくていいのよ。貴女は被害者なのだから。なんにせよ怪我がなかったならよかった。今後はもう少し警らにでる憲兵を増やさないといけないかもしれないわね。こんな輩が湧いて出るようじゃ、皆安心して商売もできないでしょうから。・・・いえ、それよりいっそ、市場に何人か常駐させましょうか」
「も、もったいないお言葉でございます。へぇ・・・」
「もったいないなんてことないのよ。貴女やこの街に住むすべての人のお陰でこの街は回っているのだから。・・・あ、そうだ。貴女の売っているりんご、ひとついただけるかしら。ここへ来るまで人を探して歩き回っていたせいで喉が乾いてしまったのよ」
「そんな、こんなリンゴをジゼル様のお口に入れるなんてそんなおそれ多い」
「あら、じゃあ貴女はあの男たちの言うようなリンゴを売っていたということ?それなら私は立場上、貴女も罰しないといけないのだけど」
「そ、そんなことは断じてございません!」
「なら大丈夫でしょ」
そう言ってジゼルはリンゴの山から一つ取ると、ドレスの裾で拭いて丸のまま口へ運んだ。
「うん。美味しい。これ、全部いただくわね。ああ、もちろんお金は払うから安心して」
そう言って、先程男たちに向けていた表情とは比べ物にならない程優しい表情を浮かべると、集まっていた群衆に向かって口を開いた。
「皆、楽しい買い物の時間を邪魔してしまったわね。お詫びと言うわけではないけれど、皆でこの屋台のリンゴを分けて頂戴。もちろん代金は私持ち。リンゴの味もこの私が保証しますわ」
ジゼルの言葉に、群衆はワっと沸いた。
「じゃあ、後はよろしく」
「はい。かしこまりました」
メイドにリンゴの分配を頼むと、ジゼルはまっすぐにリュリュ達三人の方へと歩いてきた。
「ひさしぶりね、リュリュ、それにオリガ」
「はい、お久しぶりです、ジゼル様」
「お久しぶりですジゼル姉様。・・・お手並み拝見致しました。お見事でした」
「まあ、それほどでもあるけどね。なんていうのかしら、ほら、私って完璧じゃない。今日だってお城であなたらしい子を見たって話を聞いて探しに出てみたらこんな事件に遭遇しちゃって、しかもスパっと見事に収めちゃったりして。ああ、もう。出来る女な自分が憎いわ」
得意満面で自分を抱きしめるような仕草をしながらそう語るジゼルは、とても先ほどの凛とした対応をしていた姫君と同一人物とは思えないほど印象がかけ離れた人物だった。
「そう・・・ですね。さすがでした。あれはジゼル姉様にしかできない見事な対応でした」
リュリュは苦笑いを浮かべながらジゼルを褒める。
「ああん。もっと褒めて褒めて。もっとリュリュに褒められたいー」
そう言ってジゼルはリュリュを抱きしめて頬ずりをする。
「やめ・・・やめてくだされジゼル姉様」
「やめないわよぉ。もう、本当にリュリュって可愛いわぁ。ああん。お城に連れて帰る。連れて帰って一緒にお風呂に入って、一緒に寝るのっ」
「ジ・・・ジゼ・・・」
「そうよ。一緒にお風呂入りましょお風呂。その小さな背中をあたしに洗わせ・・・」
最後まで言い終わらないうちに、スコーンと、いい音を立ててジゼルの頭をメイドが平手で打った。
「ジゼル様。リュリュ様が迷惑をされていますよ」
「・・・あんた、リンゴ配り終わったの」
「はい。あっという間に全てはけましたので。それと、これは請求書です」
そう言ってメイドが差し出した紙を受け取ると、ジゼルは綺麗にたたんでドレスの胸元へ入れた。
「君は相変わらずだね」
一連のやり取りを見ていたオリガが、笑いながらメイドに話しかける。
「まあ、ジゼルを止められるのは私しかいないからね。・・・おかえりなさい、オリガ」
メイドはそう言って笑うが、ジゼルは不満そうに口をへの字に曲げて抗議する。
「ちょっとエド。天下の往来で主人を呼び捨てにしないで頂戴。あと、頭をポコポコ殴らないでって言っているでしょう」
「だったら、少しは自分の性癖を隠す努力をしようよ。せっかく領民に人気があるのに、そんなのが本性だってバレたら人気がガタ落ちになっちゃうでしょ」
エドと呼ばれたメイドは怯むことなくジゼルに言い返した。
「ええと、ジゼル姉様。そちらは?」
二人の関係を掴みかねたリュリュがジゼルに尋ねる。
「ああ、そうだったわね。リュリュは初めてだったっけ。この子はエド。私のメイド兼ボディガード。・・・それと、私の親友よ。ね、エド」
「いえ、親友とか全然そんなことはないんですよ。信じないでくださいね、リュリュ様」
少し照れくさそうに言ったジゼルの言葉を、真顔で否定して顔の前で手を振るエド。
「なんでよ!親友でしょ!」
「お気持ちは嬉しいんですけど、すみません。ただの仕事上の付き合いです」
「酷過ぎる!」
「・・・と、まあこういう関係です。ジゼル姫のメイドをしておりますエステルと申します。エドとお呼び下さい。以後よろしくお願いいたします。リュリュ様」
そう言って楽しそうに破顔するとスカートの裾を持ち上げてエドが頭を下げた。
「うむ。よろしくのう、エド」
「それでリュリュ。そちらはどなた?」
エドの仕打ちから復活したジゼルがアリスを見ながらリュリュに尋ねる。
「ああ、そうでした。この者は旅芸人のアリスと言います。リュリュとオリガの窮地を救ってくれた恩人です」
リュリュに紹介されると、アリスは黙って軽く頭を下げた。
「そう・・・旅芸人のアリス・・・ね。ふぅん・・・」
「何か?」
何か言いたげなジゼルの視線にアリスが首を傾げる。
「いいえ、なんでもないわ。よろしくね、アリス」
「はい。よろしくお願いします。ジゼル様」