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君の知らない物語/私へ

作者: 瑠璃花

いつもどおりの今日この日。

お昼休みを告げるチャイムがなると同時にみんなは席を立つ。

食堂へレッツゴーする人もいれば、教室でお弁当を食べる人もいるし、ただ友達としゃべっているだけの人もいた。


私たち仲良しグループ5人はみんなで屋上に来てご飯を食べていた。

よく晴れた日だった。夏の太陽は容赦なく私たちを照り付けてくるが、風もけっこうあったのでとても心地良い気候だった。屋上に来て良かったと思う。

私たちは、勉強めんどくさーい、とか、OO先生ってちょっとやだねー、とかどうでもいいような話をしたりしていた。

そんな中、君は突然立ちあがって言ったんだ。


「今夜星を見に行かねぇか?」


私を含めたみんなはその言葉にしばらくポカンとしていた。急に言われたのだから、無理も無い。

君は、反応が無い私たちを見て、困ったような顔をしていた。

でも、すぐにみんなは顔を輝かせて、いいね、行こうよ、と言い合った。わたしももちろん賛成した。

すると君も顔を輝かせて、じゃあ決定な!って元気に言い切った。


そしてその日の夜、私たちは近くの山まで星を見に行くことにした。



夜8時ごろ、私たちは近くの公園に集まってみんなで出発した。


夏とはいえ夜は肌寒い。

半袖半ズボンという姿で来てしまった私は、そのことを後悔した。

寒さに震えていたら

「ほらよ」

そうぶっきらぼうに言って、君が私にパーカーを渡してくれた。

とても驚いたけど、ありがたくそれを羽織る。

なんとなく君のにおいがついてる気がして。それがちょっと恥ずかしくて、嬉しくて。


明かりがほとんどない夜の道。

なんとなく空を見てみるけど、星はぼんやりとしか見えなかった。

山から見たらこの星たちはどんな風に見えるんだろう?と想像して、星を見るのがより楽しみになった。


隣で歩いている君の横顔を見て、ふと思った。

なんで急に星を見に行きたい、なんて言い出したんだろう?と。

普段はぶっきらぼうなやつなのに…。実は超ロマンチストだったりして!?

だからちょっとからかってみた。

「たまにはいいこというんだね。星を見に行きたい、なんて」

そしたら他のみんなも私につられて、ロマンチストー、ヒューヒューなんて言い出した。

すると君は顔を赤くして言う。

「い、いいだろ。だって俺ら、もうすぐ卒業じゃん。最後に、なんか、思い出つくりたいな…なんて…」

言い終わったら君はさらに顔を真っ赤にした。


その一言にみんながしんみりしてしまった。

確かに私たちはもう中学3年生だ。

もうすぐ卒業…。

そしたら、このみんなともお別れの時が来てしまう。

悲しい気持ちになったけど、そのうち一人が

「まぁ、しんみりすんなよ!楽しく行こうぜ!つか、まだ星見てねぇし。早く行こうぜ」

と言い出したので、みんなまた笑顔になって、またバカみたいにはしゃぎ出した。


きっとみんな抱え込んだ不安に押しつぶされないように。

寂しい気持ちも押さえ込むために、はしゃいでたんだ。

私も同じだった。


どれほどの時間がたっただろうか。

ついに目的地に着いた。


そこから見た夜空は、

まるで星が降るかのようで。


私たちは地面に寝転がって、ただじーっと空を見つめていた。

誰も何も喋らない。否、喋れなかった。

星の魔法にかかってしまったかのように。


流れ星が流れてきた。

見えなくなってしまわない内に、みんなで流れ星に祈る。

一人が

「この世からテストが消えてなくなりますようにっ」

と早口で言ったので、みんな吹き出した。


みんなと笑いながら、私は自分は幸せ者だと思った。

こんなに楽しい仲間に恵まれて。

そして――君と出会えて。


その君は今、私の隣で寝転がって星を見ている。

その表情はとても嬉しそうだ。

思わずじっとその横顔を見つめてしまう。


ねぇ、君は知ってる?

私が流れ星に何をお願いしたのか。

欲張りだけど、2つお願いしたんだ。

1つは、みんなと一生友達でいられますように。

もう1つは…私の思いに、君が応えてくれますように。


そんなことを考えていたら、君と目があってしまった。

「…?なんだよ?」

君が私のことを見て尋ねてきたけど、私はすぐ目をそらしてしまった。

だって今君と目を合わせたら、私の顔が真っ赤だってことばれちゃうから。


…明日、君と会った時に伝えよう。

私の――…この思いを。


心の中でそう決意した。




みんなで星を見に行った日から、数日が過ぎた。

あの時「明日君と会ったときに私の思いを伝える」と決意したけど、残念ながらできなかった。


伝えようと口を開いたのだが、なぜか声がついてこなくて喋れなかったのだ。

口をパクパクさせる私に、君はハハッと笑って

「あのなぁ、言いたいことまとめてから話かけて来いって」

と言った。

そのまま君は急用があるから、といってどこかへ行ってしまった。


ということで告白できなかった。

その後も何度かチャレンジはしてみたのだが、どれも上手くいかなかった。

どうしても君の前に行くと、心臓が高鳴って、頭が真っ白になって、何も話せなかった。


何も難しいことじゃない。

一言伝えるだけなのに。

たったそれだけのことが何故かできなくて、もどかしかった。




ある日の放課後。

私はついに本気で決心した。

君に告白しよう、と。


君は昇降口で上履きを履き替えていた。今から帰るところなのだろう。


今がチャンスだ。このチャンスを逃したら後はないぞ。私!


不思議と今は心が落ち着いていた。

だから、今なら君に――この気持ちを伝えられるはず。


私はゆっくり深呼吸し、大きく息を吸い込み、ついに口を開いた。

「あの――、」

「あの!」


――え…?

私の声を打ち消すように、知らない女の子が君に声をかけていた。


女の子は顔を真っ赤にして、話し出した。

「あの、ずっと前からあなたのことが好きだったんです…。付き合ってもらえませんか?」


――え…?

――この女の子も、アイツのことが好きなんだ…?


ふいに背中に嫌な汗が流れた。


――この告白に君がOKしてしまったら…?私はどうすればいいんだろう…?

――お願い。お願い。お願い。OKしないで…!


息を止めて、君の次の言葉をじっと待った。

その口から、「いいよ」という言葉が出てこないように、神様に必死に祈って。


だけど…神様は残酷だった。


「え、えっと…。いいよ」

「…ほ、ほんとに!?」

「うん。俺も君のことが好きだったんだ」

「うれしい!ありが―――」


それ以降の言葉は耳に入ってこなかった。

ただ君と女の子がうれしそうな顔をしているのを、ぼーっとして見つめていた。


へたり。

私は下駄箱にもたれかかって、座り込んでしまった。

体に全く力が入らなくて。


そのうちに君と女の子は楽しそうに話ながら、いっしょに帰っていった。


――わたしもそろそろ帰らないと。

そう思って、下履きを手に取った。


――ああ、そうか私は「失恋」したんだ。

――告白さえしてないのに。


ぽたり。ぽたり。

下履きを持ったままの手に、冷たい液体が落ちていた。


――あれ。私泣いてる…?


そのことに気づいて、こんなところでめそめそしてる自分が情けなくて、余計に悲しくなった。

でもこれ以上涙を流すのは余計に情けないから、目元を制服の袖で乱暴にぬぐった。


その日の帰り道は、泣かないように、泣かないように、ぐっと唇をかみ締めながら歩いた。

一人で。


そう、初恋は終わった。

告白すらしてないんだけどなぁ……。

これが私の物語。

君の知らない、私だけの物語。


___________________________________________


あれから4年の月日が経ち、私は大学一年生になった。

忙しい大学生活だけど特に不満はない。むしろ充実していて素晴らしい日々だと思える。

――だって君のことを思い出さなくて済むから。

私もつくづく未練たらしい女だと思う。

中学3年生のときに失恋した相手を、未だに好きでいるとか……。


そんな自分が気持ち悪くて恥ずかしくて、私は下を向いて歩き今日も帰宅した。


いつもと変わらない家。

いつもと変わらない日常。

いつもと変わらない気持ち。

家に帰るといつもこんなことばかり考えてしまう。


――君が隣にいてくれたら。

また君のことを考えてしまって、慌てて首を振ってその考えを振り払った。

いい加減忘れなくてはいけない。

でも忘れようとすればするほど、思い出してしまう。

失恋した後ってそういうものなんだ。


ふとタンスの上に置いてある縫いぐるみが目に付いた。

タンス自体大きくて高さのあるものだったので、普段はあまりその縫いぐるみに気づかない。

でもなんとなく懐かしい気がして、その縫いぐるみに手を伸ばした。

埃を薄くかぶっていたけど、払い落とせば新品同様だった。あんまり触ってないもんなぁ。


なんとなく縫いぐるみを眺めていると、急に眠気が襲ってきた。

まぁいいか。寝よう。

そう思ってベットに飛び込み、さっきの縫いぐるみを抱きしめた。


そのときだった。

かすかに縫いぐるみから、カサッと紙の擦れる音がした。


「……ん?」

無性にそれが気になって飛び起きた。


何かが頭の隅に引っかかった。

慌てて縫いぐるみをまさぐると、おなかの辺りにポケットがあることが分かった。

そっとポケットに手を差し込むと――、

そこには一通の手紙が入っていた。


それと同時に蘇る中学生時代の記憶。

失恋した後、気持ちをどこにぶつければ良いか分からなくなって……。


――これ、あの時書いた……手紙……。

急いで封を開け、本文に目を通した。


そこに書かれていたのは、

過去の自分から未来の自分にあてたメッセージ。

「ハローこんにちは、久しぶり」から始まる、

私から私への手紙。


読み終わった後、私は実感した。

あの中学時代から私は何一つ変わってないと。

そこに綴られている気持ちは、間違いなく今の私の気持ちと一緒で。


悲しくなった。


ふと窓の外を見ると、綺麗な、綺麗な夜空が見えた。

そう、あの日と何も変わらない空。

君と眺めた空。


「……う、ぁ、あああ……」

一度涙が零れてしまうと、もう止まらなかった。

体が火照っている。綺麗な夜空はすっかり滲んで見える。


あぁ、会いたい。

心の中に浮かぶのはそんなセリフばかりだった。

会いたい。

会いたい。


今すぐに会いたい。


「会いたい……!」

振り絞るような声が、涙と一緒に口から零れた。


その時、窓の外を光が走った。


流れ星。


思わず流れ星の通った後をぽかんと見つめる。


なにかが、なにかが、変わるような、不思議な感じがした。


ふと、携帯がブーッと震えた。

慌てて画面を開く。

メールだった。

知らないアドレスからの。


いぶかしみながらも文面を確認する。


「件名、久しぶりだな!

本文、中学校以来だな。久しぶり、元気だったか?メールアドレスはお前の友達から聞いた。いきなりメールしてゴメン。話があるんだ。あのさ……」


私の物語には続きがあった。

続きがあるんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物の関係や心情など、とてもリアルでした。 なんだか本当にありそうな話で、身近に感じてしまいます。 [一言] 君の知らない物語は、私も大好きな歌です(^^) 原曲はもちろん、瑠理花さん…
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも頑張ってください(*^-^*)
2012/09/15 16:53 退会済み
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