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第三幕(3)

※この物語はフィクションです。作中に登場する人物・組織・団体その他もろもろは、現実とは一切関係の無いものです。

 私が目を覚ましたのは、時計の針がちょうど一周した辺りだった。

 現在時刻は午後6時。日がそろそろ傾き始める時間である。

――12時間か……。久しぶりによく眠れたものだ。

 実はここ最近、運動をしていなかったせいか睡眠の質が芳しくなかったのだ。

 寝つきはよいが、目覚めると何とも言えない倦怠感を感じたりして、すっきりとした気分で起きたことがなかった。睡眠時間はしっかりと取っていたのだが。

 しかし、今日は眠りたいときに眠れたこともあってかさっぱりとしている。

 昼間の貴重な時間を浪費した価値があったと言えよう。

 もっとも、今となっては〝貴重〟ではなくなっているが。有り余っているほどだ。

 ……早く、一連の事件が解決するといいのだが。

 窓から、夕日とはまだ言い難い太陽の光が差し込んでいる。

 部屋に山下さんの姿はなかった。こんなところで、いったいどこに行ったのだろう。

 手早く布団をしまう。体は軽いが、筋肉痛は相変わらずだった。

 広い部屋に私一人。ずいぶんと持て余してしまっている。

 というか、部屋数は変わるけれど、広さは私の家の仕事場よりはるかに大きいんじゃないだろうか。

 周辺の環境も抜群だ。なかなかここもいい仕事場になりそうである。

 そう思いつつ、机の方を向く。すると、書置きがあることに気が付いた。


――  嶌村さん  ――――――――


    3日ほど秩父のほうへ行ってくる。その間はどこにも出かけず旅館にいて欲しい。

    些細なことでも何かあったら連絡をくれ。

                                          山下


 何だろう。何かあるのだろうか。単に安全を確保したいだけなら良いのだけれど。

 若干の不安が頭をよぎる。せっかくここはいいところだと思ったのだが。

 すると、突然声がした。ゆっくりと引戸が開く。不意に体がこわばる。

「失礼いたします。お食事はどのようにご用意させていただきましょうか」

 旅館の従業員だった。さっきの手紙を読んだ後だからか、無駄に緊張してしまうようだ。

 そういえば、こっちに着いてからは何も口にしていなかった。のども渇いているし、腹も減った。確か、この旅館には食堂もあって、部屋か食堂のどちらで食べるのかを選ぶことができたはずだ。

――今日はとりあえず部屋で食べることにしよう。さっきの手紙も気になる……。

「部屋で食べます。すみませんが、よろしくお願いします」

 かしこまりました、と一言言って、従業員は静かに引戸を閉めた。

 再び一人になった私は、ついつい深い溜息をついてしまった。

――なんなんだ、この焦燥感と不安は。

 考えれば考えるほど、思考回路がぐちゃぐちゃに絡み付き、焦りは募るばかり。普段の冷静さはもうとっくに失われていた。

 事件が起こってからでは手遅れなのだが、今はどうすることもできない。

――どうすることもできない? いや……まだできることはある。

 私は携帯電話を取り出した。今流行りのスマートフォン、というやつだ。

 実は2台持っている。このスマートフォンと、仕事などの連絡にガラケー、すなわち旧型の携帯電話を常に所持している。

 スマートフォンにしたのには理由がある。アプリである。つぶやきサイトで情報収集を図るためだ。

 〝シイッター〟と呼ばれるサイトでは、世界各国のつぶやきが見れる。情報収集にはもってこいのサイトだ。

 このサイトは、キーワードを入力するだけで関連するシイート、つまりつぶやきが検索できる優れものだ。私はそれを利用して、〝東京 テロ〟で検索をかけた。

 すると、驚きのシイート量。これを片っ端から読んでいくのには大変な根性と労力が必要になりそうだ。

 1時間、2時間と膨大な量のシイートを読んでいたら、ふと、一つのシイートに目が釘付けになった。

 さっきまで杲々(こうこう)と輝いていた太陽は地平線へ沈み、満月が曇り空に浮かんでいた。

――なんだ……これ。犯行予告……?


【spyware】

 (4時間前)日本近未来史作者の家に爆弾を仕掛けた!


 日本近未来史……。その小説の中では、決して個人を攻撃するようなテロ行為を行っていない。

 だから、もしこれが虹橋駅を爆破した犯人であれば、模倣犯ではなく個人的に私を恨む者の犯行だと言える。

 すなわちそれは、私が命の危険にさらされていることをしっかりと、克明に示す。

――どうして……だ?

 狙われる意味が分からない。少し世間で小説が有名になっただけなら、世界中のベストセラー作家は今頃命が絶えているだろう。それに加え、私は同業者の友人も少なく、ライバルのような存在もいない。

 また、私は他人から嫌われることに耐えられない。これも、両親からの教えが発展してしまったもの。そんなことで私は人に迷惑をかけたり、嫌われることを決してしない。

 だからこそ、命を狙われる意味が分からない。

 もはや感情を保つことが精一杯だった。

 あれこれ思考するのが面倒臭く、書置きにあったように、私は山下さんに連絡をしようと携帯をとる。

――つながれっ……! 早く!

 焦る気持ちは最大。今ここにいることに、頭の中で警報が鳴り響いている気がする。

 だが、無情にも山下さんの携帯は話し中であった。

――くそっ……。そうだ、寺町さんが隣の部屋にいるじゃないか!

 私は飛ぶように部屋から出ようとする。が、さっきの声が聞こえたので私は仕方なく立ち止まる。

「……はい」

「お食事をお持ちしました。準備させていただいてよろしいですか」

 一瞬、断ろうかと思ったが、腹も減っていたので準備だけでもしてもらおうと考え、「お願いします」とだけ一言言ってから、部屋を出た。

 寺町さんは右隣の部屋にいると聞いていたので、すぐさま引き戸の前に立ち、声をかけずに開ける。もし着替えてたら、なんてことに思考は回らなかった。

「どうしました……?」

 寺町さんが状況を察するように、訊ねてきた。

「犯行予告が……シイッターに……」

 すると寺町さんは驚いたような表情をせず、落ち着いた口調でこう言った。

「大丈夫です。その件は解決しました。あと、あなたの車が爆破されたことも」

 なんだって……? 事件が……解決した?

「……ど、どういう……ことですか?」

「先ほど山下がこのシイートの真偽を確かめに行き、このシイートはまったくの嘘、ということが判明しました。また、そのシイートを書いた犯人も逮捕することができ、あなたの車を爆破したのがその犯人によるものだということも判明しました。」

 そうだったのか……。無駄に気を張ってしまった。一気に胸を撫でおろす。

「恐らく、虹橋駅を爆破した犯人もそれでしょう。思ったよりもあっけなかったですね」

 寺町さんが微笑む。本当に終わったのだろうか……。寺町さんの言う通り、あっけなさすぎる。

 やはりこの部屋にもあった、大きな窓から外を見ると、さっき見えた綺麗な満月はすっかり雲に隠れてしまっていた。

 私が少しの懐疑心を持っていると、携帯電話の着信音が部屋に響き渡った。

「すみません、ちょっと失礼します」

 寺町さんがそう言って、電話をする。相手はどうやら山下さんのようだ。

 ……だが、どうも寺町さんの様子がおかしい。事件が解決した知らせではないようだ。

 電話を終えた寺町さんは、申し訳なさそうに話しかけてきた。

「私はあなたに謝らなければいけません……。ごめんなさい」

 ? その意味が分からなかった。続けて寺町さんが口を開く。

「前言撤回です。事件はまだ解決していませんでした……。実は……」

 その続きの言葉は、一度降りようとしていた幕が、もう一度開いてしまうものだった。

少し更新が遅れまして、すみません。

展開がはやいところは、目をつぶってくださいませ……。

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