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経済学への誤解を解くテスト

 一般的に経済学は「合理的個人」ばかりを中心主題としているようなことを書かれる方をよく見かける。たしかに、経済学は最近まで、合理的個人を仮定していた。その要因の1つは、合理的個人の仮定から脱却するすべをもたなかった、ということである。

 本来的に、経済学の偉大な先達は、人間世界への考察を怠ってはならないと述べる人物なのである。たとえば、かつてケインズが描いた経済学者の理想像をご紹介しよう。


「彼はある程度まで、数学者で、歴史家で、政治家で、哲学者でなければならない。彼は記号もわかるし、言葉も話さなければならない。彼は普遍的な見地から特殊を考察し、抽象と具体とを同じ思考の動きの中で取り扱わなければならない。彼は未来の目的のために、過去に照らして現実を研究しなければならない。人間の性質や制度のどんな部分も、まったく彼の関心の外にあってはならない。彼はその気構えにおいて目的意識に富むと同時に公平無私でなければならず、芸術家のように超然として清廉、しかも時には政治家のように世俗に接近していなければならない」(J.M.Keynes[1933, 第14章])


 一方、A.マーシャルの書いた論文からは、原理を説明するためには、実生活からの例を使う必要があることに、彼が絶えず気を配っていたことがわかる。

 経済学に数学を使うことについて、「経済学の仮説を処理する数学の定理が、すぐれた経済学にはなりそうもないという気持ちが、次第に強くなっています。わたしは次の規則をさらに重視しています。①疑問を解く中心手段としてよりは、速記言語として、数学を使用せよ、②仕事が終わるまでは数学に従え、③英語に翻訳せよ、④それから実生活で重要なものを例に使って説明せよ、⑤数学を焼き捨てよ、⑥もし④がうまくいかない場合は、③を焼き捨てよ」 。

 つまり、合理的個人というものを中心にしていたというよりも、より人間の生活に近い形で、いかに世の中をよくすればよいか、ということを考える学問であった。

 手軽な新書であれば、堂目のアダムスミスを読むだけで、この誤解が解決される。もっと深く知りたい方ならば、『セイヴィング・キャピタリズム』や『市場を創る』や『エコノミスト、南の貧困と闘う』を読んでいただくとよい。市場メカニズムの有用性と限界を知ることができ、前述の誤解を払拭できると信じている。たとえば、ハイエクの批判には、これで応じることができるはずである。

 学問体系としては、ゲーム理論、メカニズムデザイン、社会的選択理論、厚生経済学を学ぶことで、市場メカニズムが「是」とされるべき理由がわかるはずである。もっと厳密にいえば、パレート最適と効率的な売り手と買い手のマッチングを行うメカニズム--「ワルラスの競売人」--を調べてみるとよいだろう。たとえば、これが顕著になるモデルであれば、入札式オークションがある。より深く学びたい方は、非完備情報ゲーム、不確実性、実験・神経・進化経済学などを参照するといいだろう。

 ここで、先に引用したケインズの言葉を思い出して欲しい。すなわち、「人間の性質や制度のどんな部分も、まったく彼の関心の外にあってはならない」。

 ただ、制度経済学や正統経済学の流れから傍流にある、文化的側面を強調するような所謂「文化経済学」などは、「各国とも文化が違うのだから、行動は違うのだ」として、そのまま思考停止してしまうきらいがある。マーシャルも、ケインズも、あるいはスミスもピグーも、こうしたことを意図したわけではない。もちろん、ハイエクとて、同じはずである。

 皆の志は、学問を打ち立てることでなくて、いかに人の世をよくできるか、につきる。経済学はそれ自体が目的であるわけでなく、手段でしかない。合理性はいまや、さまざまな改良が試みられている。合理的個人という偏見のみで、経済学を否定してしまうのは、勿体ない。

2009.05.30作

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