自身の生き方について否定してみる
何故こんな風な現状になってしまったのだろうか?
現在長編を書きながら過去を振り返る作業をしているが、原稿用紙を六千万超えた辺りで、今一度初めから推敲する事にした
昔を書いているのは非常に痛快で楽しい部分が多い
つまりそれだけ毎日を楽しみ謳歌していた証拠だろう
最も生き生きとしているなと感じたのが、全日本プロレス時代と新宿歌舞伎町時代の自分
当時体重が六十五キロしかなかった俺が、突然会社を辞め、百人中百人に笑われながらも、日々体の鍛錬のみに没頭する
気づけば笑っていた者は徐々に笑わなくなり、自分の体は九十六キロまでになっていた
ジャイアント馬場社長との出会い、合宿にてジャンボ鶴田師匠のコーチ、そして常に背中を見続けた三沢光春さん
今ではもう誰もこの世にいない
馬場社長からは圧倒的な威圧感と緊張を体で知り、鶴田師匠からは人間の器の大きさを知り、三沢さんからは戦いを通じて多くのものを学ばせてもらった
左肘の故障…、これで俺の夢は無残にも破れさり、どう生きていけば分からないほど混乱し、塞ぎ込む日々が続いた
ようやく動き始めた時、俺には次のステージが用意されていた
浅草ビューホテル、トップラウンジ『ベルヴェデール』でのバーテンダーの仕事
とにかく自分の居場所を作りたくて、毎日が必死だった
時間さえあれば洋酒辞典やカクテルに関する本を読み、内容をノートへ全文書き取りする
給料が入ればたくさんの種類の酒を買い、自分の部屋でもカクテルを作れるようにした
他のホテルのサービスはどうなのか、それを見る為に様々なホテルのラウンジにも訪れた
どこへ行っても全日本時代の誇りを失わないよう、自分の行動一つで恥を掻かせてしまう、そう念頭に入れ生きてきた
多分それは間違っていない
三年ほどいたホテルへ別れを告げ、初めて向かった土地新宿歌舞伎町
俺にとってこれほど肌に合った街は今までなかった
たくさんの経験をし、学び、そして多額の金を得る事ができたのも、この街のおかげだ
今になって気づく
多額の使い切れないような金を稼いだ俺は、本来の金の使い道を何も知らないほど無知だったのだろう
気づけば歪な形であれ、キチンと靭帯もくっつき治った左肘
これをきっかけにまた俺は体の鍛錬を始めた
ここ最近台等してきた総合格闘技『プライド』
プロレスの地位が非常にあやふやになり、余計に小馬鹿にしてくる人が多くなった
なら、俺が総合に喧嘩を売ってやる
レスラーのはしくれだった人間の強さを見せる
世話になった師へ恩返しをしたい
それだけを頭に入れ、睡眠時間を削り、体を苛め続け、体は過去最高のコンディションを保つようになった
そんな時、鶴田師匠が無くなった訃報を受け、俺は戦う目的を失った
しかしこれまで作り上げてきた肉体は、暴れたい衝動に駆られている
目的意識がないまま総合格闘技のリングで現役復帰を果たし、くだらぬ裏工作をしていた主催者サイドに切れ、大会をぶち壊しにした
あの世界に嫌気が差した俺は、再び目的をなくし、歌舞伎町で稼いだ金を無駄に使って現実逃避を延々と繰り返していた
飲む打つ買う、これをやるといくら金があってもキリがない
いくらだって望めば金など溶かす事が可能なのだから
そんな状況を作っていた店も、一番街で起こった四十四人の死者を出す大火事、そして歌舞伎町浄化作戦により無くなった
この頃ピアノを一人の女の為だけに始めていた俺は発表会を終え、パソコンというものに触れだした
スキルを叩き込んでくれた先輩に負けたくなく、いきなり小説を書き始めた
突拍子もない行動であったが、執筆する面白さを知ってしまった俺は、自身の描く世界を追求するように動き出してしまった
これまで深く物事を考える事などなかったのに、詳細なところまで考えるようなり、それに伴って気づく気づき
その発見が面白く、どっぷりと文字の世界へ浸かっていく
地元で整体を開業し、患者の施術を繰り返しながらも、頭の中は執筆の事だけでいっぱいだった
気づけば念願だった賞を受賞し、一気に自分の望む未来がこれで開けた
そう思っていた
そんな時に来た総合格闘技からのオファー
もはや戦えるレベルではないのに、話題性を考え七年半ぶりに試合へ復帰した
この辺からだった
歯車が狂いだしたのは……
いや、考えてみればもっと前からなのかもしれない
あきらかに自分の辿ってきた道は間違っている
では生きるのを辞めるか?
特にこれといった楽しみもない
先の目標と言えば、現在執筆中の作品でギネス記録を狙うぐらい
何度か真剣に考えてみた
生きるか死ぬかを
正直に言えば、死んだほうが楽かなと何度も傾いた
様々な自殺方法がある中で、どうせ死ぬのなら首吊りがいいと思った
実際にロープで首を絞めてみて、しばらくそのままの体勢で鏡に映った自分を見てみる
うん、これで死んだら非常に情けない
ではどうするか?
まだ可能な限り足掻き続けるしかないのだ
人生を何度も否定してみる
しかしそこからは何も生まれない
何故昔は楽しく過ごせた?
あまり考えなかったから?
今は色々なものをこの目で見て、体験をし過ぎたから?
違うって
何かのせいにしてもしょうがないんだ
今の自分は、過去の自分が作ったもの
つまり今の自分次第で、未来の自分を作れるという事
死ねば未来は当然ながらない
死ぬ覚悟があるなら大抵の事はできる
いや、違う
すべての生き恥さえ全部かぶれるようになれる
これが死ぬ覚悟をするというものではないだろうか
誰かから言われた
俺の書く世界は「孤独の世界」だと
その通りかもしれないな
なら、俺は生きる事に執着し、その世界をまだまだ書いて生きようじゃないか
それをすべてできてから、また自分自身を今一度否定してみよう