ヒモ男と可愛い彼女
夢の残滓が薄れゆく時刻、彼女の機嫌はいつものように激変する。
僕は毎朝デスクに座り、愛しい彼女と向き合っている。
定職にも就かずに酒浸りの生活を送っている僕にとって、彼女だけが希望であり生きる理由。
すずの寝顔は美しくとても可愛い。可憐で麗しく、僕にだけはとてもあまい。
なのに目覚めた瞬間の彼女はヒステリックに暴れ回っていた。
赤と青い服で迷いながら激しく感情を豹変させる姿は、控えめに言って手がつけられない。
「すず、お願いだ。少しだけでいい。今日の酒代くらい、俺に恵んでくれないか」
息を殺し、彼女の機嫌が上向く刻をゆっくり待ってから口にした。
友人たちは「あんな情緒不安定な女とは早く縁を切れ」「いつか人生を破滅させられるぞ」と忠告してくれるが、僕は彼女から離れられない。
彼女は本当に気まぐれで僕にだけ優しいから。そして残酷でもある。
その二面性が僕を魅了する。
酒代まではいつも許してくれる彼女。
でも「大金が欲しい」とせびろうものなら、優しかった態度を豹変させることなど日常茶飯事だ。
逆に僕の財布から有り金すべてを根こそぎ奪いマグロ船へ叩き売るくらいはあり得る。
だから今日も決して欲張らない。
彼女の感情を観察し、うまく機嫌を取り、ほんの少しの「お小遣い」だけをそっと貰う。
時計の針が10時を回った頃、彼女の荒々しい呼吸がふっと和らいだ。薄いピンクのワンピースに身を包み、スッと上を向いた明るい表情。…お金を・・・。
僕はすかさず手を伸ばす。
「愛してるから。ね?、ちょっとだけ頂戴」…イケメンの自覚はある。ウィンク一度で諭吉を貰えることも知っている。
彼女はほんの一瞬だけ微笑み、僕の手に三人の福澤くんを握らせてくれた。今日という日をやり過ごすための、ほんのささやかな酒代。
「ありがとう。もう十分だよ。これ以上は絶対に望まないから」
すぐに手を引っ込め、サッと身を引いた。
僕のような甲斐性なしのクズ男が、彼女のような底知れない化け物と長く付き合う秘訣は、とにかく”深入りしない”こと。
欲を出して居座れば、彼女はたちまち凶暴な本性を現し、僕を地獄の底へと突き落とすだろう。
お昼の半時前。
彼女は落ち着きを取り戻し、長い休憩に入った。眠たげに僕を見る可愛い彼女。
「お疲れ様。また明日な」
冷めたコーヒーをすすりながらマウスをクリックし、彼女・・・”東京株式市場”のチャート画面をそっと閉じた。
陰線と陽線が入り乱れていたモニターが暗転する。
真っ黒になったディスプレイには、無精髭を生やした元イケメンの姿が映り込んでいる。
Xに投稿したんだけど、気に入ったので保存ってことで




