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クビにされて、同業他社に転職した

僕は大手VTuber事務所の社員として働いていた。仕事内容としてはマネージャーのようなものでライバーの人とのコミュニケーションを取りつつ、仕事について話したり、それぞれの悩みなどの解決など。先方との打ち合わせや、ライバーのスケジュール管理などもあった。



別に僕は昇進に興味がなかった。社会人としては珍しいタイプの存在なのかもしれない。周りの人たちは出世するために血眼になっていた。


手柄もそこまで立てず、平社員として普通に生活できていればいい。それ以上は望まない。


そんな考えの僕にある男が言った。


「オレのために働け」



その日から僕は手柄を彼に渡した。頼まれれば断る理由もないのでやった。そしてそこで達成した成果も手柄も全部人に渡した。それを苦痛に感じることなければ、自分が手柄を立てたいという気持ちもない。




それでよかった、あの日までは。



僕はクビを言い渡された。どうやらあまりに手柄を上げな過ぎるのも問題なようで、何もしていないと言われた。


翌々考えれば確かに手柄を譲っていたから、僕の手柄と呼べるものはほとんどなかった。





そして無職になった僕が、次の就職活動をしている時に見つけたのがクビになった会社の競合他社。




元々、そっち系で仕事をしていたわけだし、何も分からないところに一から飛び込むよりはいいかもという思いで、受けた。





受かった。



正直、受かるかは五分五分くらいの気持ちだったけど、合格という通知が届いて素直に嬉しかった。受かっていなかったら次の会社を探さないといけないから




そして翌週から僕は会社で働くことになった。割り当てられた職は前職と同じで、ライバーの人たちと密接に関わっていく仕事。どうやら会社は僕が前職でやっていた方向の仕事の方がいいと判断したのかもしれない。





―――――――


この会社の社員として三橋晃一は今日から働くことになった。スーツに身を包み、髪型も整え、端から見れば誰もが社会人と認識する。



初日ということもあり、配属された部署に挨拶を済ませると先輩社員に色々と教えてもらいながら仕事に取り掛かっていく。前職も同じような職種をしていたこともあり、新入社員のように手取り足取り教えてもらうというよりはこの会社での独自のルールなどを教えてもらったという方が正しいかもしれない。


業界が同じでもそれぞれ会社独自のルールというのは存在するものだ。




そして初日の午前中が終わり、休憩室でスマホなどを確認していると誰かに呼びかけられた。



「あれ…三橋さん」


そこには…見覚えのある女性が立っていた。



「…たしか、新崎さんでしたっけ」


新崎せれな。

ライバーさんだ。

前職の会社で担当していたライバーの中によく新崎さんとコラボする人がいて、知り合った。何度か収録現場などにも行ったことがあるので顔なども多少覚えていた。



「そうだよ、でもなんで三橋さんがこんなところに?」



「前の会社をクビになり、新しい就職先を探しているところをこの会社に拾われまして」


僕の言葉からしばらく沈黙の時間が続き、お互いに気まずくなってくるタイミングで新崎さんの方が口を開いた。



「え、まじですか?」



「本当ですよ。こんな嘘を付く必要がないです。それにこれを見せれば目で見て分かりますね」


そう言いながら僕は自分が付けていた社員証を取り出して、新崎さんに見せる。新崎さんはその社員書を凝視した後に、やっとこの会社に入社したことを理解したようだったが、それでも表情から読み取れるのは困惑だった。



「…本当にあっちの会社辞めちゃったの?」



「はい。辞めちゃったというか、クビになったんですけど」



「…まじでクビになったの?」



「なりました。だからここにいます」



「……三橋さんをクビにするって…なに考えているんだろう」



「いや普通にクビになったんです。あんまり手柄をあげられていなかったというか」



「手柄は分からないですけど、ライバーの中で三橋さんはかなり信頼されていましたよ」



「そうですかね…」



「それは事務所が違いますけど、私が断言できます。レイさんが「私は三橋さんのことを信用しています。なんか会社では違う人が持ち上げられていますが、ライバーの中では三橋さんが一番信用されています。真摯になってくれていますし、雑談とかにも付き合ってくれるので」と言っていましたから」



レイというのは、渕上ふちかみレイさんのことだ。


彼女は僕が前に働いていた事務所のライバーさんだ。ライバーさんと話す機会は多かったけど、特にレイさんとは何度も話したなぁ……まだそんなに経っていないけど、懐かしい。




それにしても、普通に仕事をしていただけだけど、そこまで信用されているとは知らなかった。さすがに本人の口からそんなことを聞く機会もなかったし。


「それにしても、三橋さんをクビにするなんて、あの会社は大丈夫なのかな?」



「別に大丈夫だと思いますよ。僕一人が抜けたぐらいでどうにかなるようなことはないと思いますし」



「いやどうかな…。三橋さんが思っている以上に三橋さんの存在はかなり大きかったと思いますよ」



「そこまで僕は優秀じゃないですよ」


そして僕は新崎さんと別れて仕事へと戻った。





――――――


この時の僕はまさか僕が抜けた所為で会社が大変なことになっているなんて、思いもしなかった。




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