最強の合理主義者 現アメリカ合衆国大統領
このエッセイは、主に、現アメリカ大統領によるイラン攻撃を、これが国際政治の常であると論評する人、その中でも、だから支持すべき、さらには支援すべきだと論評する人を対象とする。現在の情勢は、国際政治の常ではないし、支持すべき、支援すべきかは、よく考えてから決めた方がよい。
Ⅰ本エッセイの概略
2026年の、アメリカによるイラン攻撃について考える。なお、本エッセイは、3月15日に執筆したものである。イラン情勢が泥沼化するか、早期停戦するか、分からない状態で書いたことをお断りしておく。
この攻撃を、非合理な行動を繰り返す現アメリカ大統領による暴挙である。国際法違反の攻撃で、これを認めたら、ロシアによるウクライナ侵攻を認めることになりかねない。アメリカだけを認めるのは、ダブルスタンダードだ、非難し、即刻止めさせねばならない。こう発言する人がいる。
一方で、それより少数だが、国際法と国内法は違う。国際法には強制力は無い。国の数だけ正義はある。国連は世界政府ではないし、国際法は無力だ。今回のイラン攻撃のような力の行使が、国際政治の常である。そう発言する人もいる。
その中には、さらに少ないが、「同盟国アメリカの行動には賛成すべきだ。権威主義陣営につくわけにはいかない」「今協力しないと、湾岸戦争のときのように、戦後に非難されかねないから協力すべきだ」「人権侵害を繰り返す世界の独裁者、テロ支援国家が消えるのは日本にとっても喜ぶべきこと」と発言する人もいる。
しかし、現アメリカ大統領は、非合理で突飛な行動を取っている訳ではないし、国際政治理論のうち、現実主義 (リアリズム)の立場から見ても、現在2026年の状況は、国際政治の常ではないことを述べていく。
ここで、国際政治理論のうち、現実主義 (リアリズム)という言葉が出た。国際政治理論には、国際政治の認識を巡り、主に4つの流派が存在する。
1つ目が現実主義 (リアリズム)である。大雑把に言うと、国際政治の主役は国家である。国家群の中には隙あらば他国を侵略しようとする国が常にある。それからの生存が国家の最優先事項であり、国際政治の基盤は軍事力である。国家間の紛争と武力の行使は不可避である。紛争を最小限に抑えるために、国際政治は行われるべきとする。
2つ目がリベラリズムである。大雑把に言うと、戦争を繰り返すより、平和を築き、経済を発展させた方が、国家群全体の利益になる。国家は、理性的に話し合い、経済的結びつきを強め、人権思想を広めれば、戦争は避けられる。そこで重視されるのは、理性、(道徳)、そして国際法である。国家は協調しうる。武力行使は、悪い国家(侵略や虐殺を起こす)に対する例外であるとする。
3つ目が構成主義 (コンストラクティビズム)で、社会学から取り入れられた考え方である。4つ目がマルクス主義で、マルクス経済学に基づく政治観である。3つ目と4つ目は、今回の議論では置いておく。
第一次世界大戦、第二次世界大戦の惨禍を経て、むき出しの軍事力の行使はいけないとして、2のリベラリズムが理想である、いや、そうあらねばならない(表向きには)とするのが、現在の国際社会である。日本の国是と高校までの教育は、このリベラリズムを掲げている。
しかし、一方で、1の現実主義 (リアリズム)も残った。人間の本性はそうすぐに変わるものではないし、人間の理性と善意に過度に依存するのは、悪い奴が出てきたときに世界を危険にさらす。冷戦を見よ、と。
1990年代の冷戦の終結後、「世界は平和になった。これからは経済だ、民主主義だ、リベラリズムだ」という見方がより優勢になった。しかし、2010年代から、軍事力こそが基盤であり、重要であるという現実主義者 (リアリスト)が巻き返しはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、現実主義者の主張を聞くべきではないか、という流れが強まっている。というのが、非常に大雑把な議論の経過である。
1の現実主義の変種として、覇権安定論という見方がある。これは、次からの議論で悪いこととする覇権国の出現をよいことだとする。覇権安定論については、要望があれば追記する。ただし、本エッセイの結論は大きく変わらない。
現アメリカ大統領によるイラン攻撃を、これが本来の姿、支持すべき、と論評する人は、彼ら自身はこの、現実主義の系譜に属すると考えている。そう私は見ている。だが、現実主義理論、少なくともその入門書からみると、疑問である。
Ⅱ思考実験
ここで、思考実験をしてみよう。
警察がいない地域で、不良がケンカをしている。親分組織は自分の町を制圧して、子分のケンカを見に行った。子分はそれぞれ対立組織とケンカをしていた。
町1では、子分組織Aが敵Sに負けそうで助けを求めている。
町2では、子分組織Bが敵Rに勝ちそうで、優位に立っている。
町3では、子分組織Cが敵Tと睨み合っている。
3つの町の敵SRTは、歴史的に抗争している。しかし、もし、敵組織3つが揃ってかかってきたら、大乱闘になって、自陣営も敵陣営もタダではすまない。さあ、親分はどう行動するか。1分、考えてほしい。
この思考実験では、親分が取った行動は、敵どうしが協力を取り付ける前に、間髪入れずに町2の敵Rの親分を狙撃して射殺したあと、子分Bと協力して敵Rの構成員を片端から殺し、従順なリーダーが出るまで殺戮を続ける、だ。
町1の子分Aは半殺しのまま救援しないで敵Sと取引し、町3では子分と敵Tのにらみ合いが暴力に発展しないようににらみを利かせる。
自身が絶対的な力で勝利すれば、乱闘は起きないのだ。
お分かりの通り、この思考実験は、現代世界を単純化したものだ。国家を、警察のいない地域の不良になぞらえるのは、国家とはある地域内において、合法的に暴力を独占している主体であるから、あながち間違いではないだろう。
親分はアメリカだ。
町1は東欧で子分Aはウクライナ、敵Sはロシアだ。
町2は中東で子分Bはイスラエル、敵Rはイランだ。
町3は東アジアで子分Cは日本、敵Tは中国だ。
乱闘は第三次世界大戦、町2での狙撃はイラン攻撃だ。
不良のケンカで、狙撃、殺戮は無しだというあなたは、リベラリズム、国際法を重視する考え方に近い。ほら、国際社会に警察はいない、何でもありの殺し合いは仕方ないと思ったあなたは、イラン攻撃を、力の行使で動く国際政治本来の姿だと思った人に近いだろう。
しかし、ここで国際政治を入門として学んだ人なら「歴史的に抗争してきた」という部分に注目しただろう。3つの敵が協力しないように、離反工作を考えたはずだ。実際、筆者は現アメリカ大統領によるイラン攻撃とイラン首脳部皆殺しまではそう考えていた。ロシア、中国、イランが連携して攻撃を仕掛ければ、日独伊三国同盟のように世界大戦になってしまう。一方、現アメリカ大統領は西側同盟国を恫喝して西側連合に亀裂を入れている。これは好ましくない、と。西側は団結し、同時に、ロシア、中国、イランを離反させるべきだ。ベトナム戦争の泥沼を終わらせるために、中国とソ連の対立を利用した国際政治学者、キッシンジャーのように。
しかし、現アメリカ大統領はその上を行く、確実な方法を取った。三国同盟を防ぐには、1か国、一番弱いイランを抹消すればよい。同時に、イランからロシアへのドローン供給を無くせば、ロシアを弱体化させられる。中国製の監視システムをハッキングしたことで、監視社会の中国へのにらみにもなる。後からみれば、目的を達することだけを考えるなら、合理的だ。しかし、今までの国際政治の常識からは考えられないだろう。特に、現実主義政策の伝統的な考えを学んだ人なら、何手もの禁じ手を使っていると思うだろう。
ここで、現実主義の基本概念を見ていこう。
Ⅲ現実主義 (リアリズム)の概略
国際政治の理論のうち、現実主義の概略を見ていく。その主要な考えの内、今回のイラン攻撃に関係するものを挙げる。
一 国際社会は無政府だが、無秩序であってはいけない。
三十年戦争から学んだ教訓である。三十年戦争では、泥沼の戦争でドイツの人口の3分の1が失われた。原因は、ドイツの領主間で宗教の押し付け合いから内戦となり、各国が介入し続けたこと。国際社会は無政府だけれど、国内で殺し合いを続けるような無秩序であってはいけない。主権国家という単位として行動し、内政干渉は控えようという教訓。ここから、軍事力によりつつも、それを利用して無秩序を避ける方法を探る、国際政治が始まる。
二 覇権国の登場を許してはならない
(1か国だけを強大にしてはいけない)(勢力均衡)
主権国家として行動するとはいえ、どこかの国が強くなりすぎると、やがてその国の国益を求めて、他国を侵略し始める。そのまま強くなりすぎるとますます他の国を侵略し、最悪の場合、主権国家体制が崩壊して大戦争になる。それを防ぐために、戦争を以てしてでも、覇権国の出現を止める必要がある。失敗例が、フランス革命とナポレオン戦争。ナポレオン一人が強大な権力を握るフランスがヨーロッパ全土を侵略、約500万人が死亡したとされる。これは、第二次世界大戦での日本の死者よりはるかに多い。
三 勢力均衡の原則は、同盟国にも適用される。
(勝ち馬に乗ってよいかはよく考えろ)(バランシング)
同盟国、価値観を同じくする国の急成長も好ましくない。同盟国が敵同盟に勝利すれば、おこぼれにあずかれる。それだけを考えれば、勝ちそうな方に味方すればよい。しかし、同盟国がいつまでも味方とは限らない。仲たがいして、次の標的は自国になるかもしれない。価値観を同じくする国も同様。相手の君主が変われば、自国と敵対するかもしれない。場合によっては、同盟を解消したり、敵同盟と協力したりすることもありうる。
四 戦争勝利後、敗戦国を消してはいけない
(力の真空を作ってはいけない)
たとえ戦争で大勝し、敗戦国を占領しても、敗戦国を解体したり、併合したりしてはいけない。敗戦国が無政府状態になると、そこを拠点として、犯罪集団や武装勢力が出てくる。イラクやシリアのIS、イスラミック・ステートがテロを繰り返したように。これを防ぐためには、敗戦国は統治されねばならない。その際、戦勝国のうち1国が敗戦国を併合してはいけない。敗戦国の領土を手に入れた戦勝国が強大になり、覇権国として侵略を始めたり、国際秩序を破壊したりするかもしれないからである。分割して併合することはもっと避けるべきとされる。周辺国が領土を求めて吸い寄せられてきて(力の真空)、取り分を求めて新たな対立が始まるからである。特に、軍隊を協定無く進駐させると、不測の衝突が起こりうる。
これに対策を講じたのが、ナポレオン戦争後のフランスの扱いである。ヨーロッパの国は、フランスを分割・併合することもできた。しかし、国家としてフランスを残し、王家を復活させた。ヨーロッパの勢力均衡が大きく変わるのを避けることを優先したためである。力の真空を作ってしまった失敗が、第二次世界大戦後の朝鮮半島である。敗戦国の分割とは異なるが。アメリカとソ連が協定無く進駐し、新政府作りの主導権争い、各勢力の読み違いから戦争が始まった。泥沼の朝鮮戦争の結果、第二次世界大戦終結から80年経った今も半島は韓国と北朝鮮に分断され、なお緊張が続いている。
五 戦争後、敗戦国を徹底的に痛めつけて収奪してはいけない
戦費回収、特に戦争を仕掛けられた側が勝った場合、賠償を負わせたくなる。第一次世界大戦後、フランス、イギリスが取ったのがそう。荒廃した自国の復興と、武器代の支払いのため、ドイツに巨額の賠償を課した。しかし、これによる経済的困窮が、国民の復讐心を呼んだ。それを煽り立てて政権を取ったナチスが、第二次世界大戦でヨーロッパを再び戦火に巻き込んだ。この反省から、第二次世界大戦後、アメリカは、ヨーロッパと日本の戦後復興のために莫大な援助を行った。これにより、日本は親米国家となった。戦後復興は、新たな戦争を防ぐために必要なコストである。
六 軍事力の行使は抑止力と限定戦争によるべき
このように、戦争には莫大な犠牲を伴う上、戦後復興もしなければならない。これらを考慮すると、国家同士の全面戦争は、極めて損害が大きい。この、コストがかかりすぎる状態にすることで、戦争を始める国を減らす。それでも戦争を始めようとする奴はいる。そこで、「自分の言うことを聞かないなら、お前が許容できないダメージを与える」と武力を誇示して威嚇する。相手はひるんで従う。これが抑止である(非常に大雑把に言うと)。「核兵器は使わない兵器だから持ってもよい」「プレゼンスを高めるために核を持とう」という人達は、この抑止の考えで動いていると思われる。それでも戦争に訴える国には、自衛権としての武力行使となる。
これらを組み合わせて、国際秩序を保とうとするのが、国際政治における現実主義 (リアリズム)である(入門書レベルでは)。
軍事力を基盤にしつつも、国家が国際法を守るのはなぜか、少なくとも、「国際法は(執行機関を持つ)法でないから不要」という国が無いのはなぜか。(イスラエルは、昨年のイランとの戦争を自衛権の行使であると説明した。もっとも、現アメリカ大統領は不要と発言しているが)
説明はいろいろあるが、現実主義 (リアリズム)の立場に立ったら、一番よく説明ができると考えるのが、「国際法はあったほうが便利だから」である。自分の言うことを聞かない奴を従わせるために、都度軍事力を誇示して、武力で恫喝するのは、あまりにコストがかかるし、未来予測が立てられなくなる。そこで、国家同士で、この手を使われるのは困るという共通認識を作っておく。相手がそれを破ったら、それを理由として武力による威嚇や武力行使を行う。お互い、相手が破ったら非難するガードレールを作っておくことで、威嚇の手間を減らし、予見可能性を上げている訳である。だから、国家は時に国際法を守らない。どうしても平和的手段では解決できない国際紛争がでてきた、となったら、秩序維持のために見逃す。相手にイチャモンつけて国際法違反だとして攻撃したり、特定の国の行為は見逃したりするダブルスタンダードはこれで説明できる。
他、自分に有利なルールを作ると、他者は自発的にルールを守って、自国に尽くしてくれるから、という、「ルールを作る力」のためでもある。これは字数の都合上、割愛する。要望があったら書く。
いずれにしても、「国際法は法でないから必要ない。私を止めるものは無い」という態度は、今までの国際政治学の「常識」では、大国にとっても利があるものではない。
この、現実主義 (リアリズム)の原則を無視したのがイラク戦争だったと、現実主義者 (リアリスト)は指摘する。アメリカは、テロ組織とのつながり、大量破壊兵器の保有、最後はイラクの民主化と主張を変えながら、フセイン政権を倒した。しかし、大量破壊兵器は見つからず、残ったのはISイスラミック・ステートの台頭と、膨大な戦死者だった。この戦争を主導したのは、新保守主義だったと言われている。対して、現実主義者 (リアリスト)はイラク人の人権侵害からの解放、イラクの民主化より、アメリカの国力の損耗を避けた方が国益にかなうと主張していた。
現アメリカ大統領も、イラク戦争を批判していたから、現実主義者 (リアリスト)に近いと思っていたが、筆者の予想は大きく外れた。
Ⅳ変わってしまった勢力図と常識
このように、現実主義 (リアリズム)では、国家間の紛争も、武力による威嚇、場合によっては行使も不可避であるとする。
それでも、現在のイラン攻撃は、伝統的な現実主義 (リアリズム)、軍事力を重視する立場からかけ離れている。白昼堂々、奇襲攻撃を仕掛けて最高権力者をミサイルで爆殺し、イランのイスラム体制転覆を呼びかける。今まで見てきた入門書レベルの原則ではありえない。少なくとも、3か月で他国の元首を2人、拉致と暗殺で排除し、1か国の海軍と防空システムを壊滅させた大統領を聞いたことがない。
今まであり得なかった、この戦争を可能にしたのは、もちろん軍事技術の発達、特にAI、ハッキング、ドローンとミサイル技術の発達である。イラン攻撃での最高指導者殺害のキルチェーン、すなわち、標的の探索開始、発見、攻撃決定、実行、死亡確認まで、報道によるとわずか11分23秒だった。11分23秒である。これで、戦争の構図は決まった。人間の情報収集・判断ではあり得ないスピードだ。これにより指導部を全滅させたあと、防空システムを破壊し、軍事目標をほぼ無抵抗で爆撃しているのが現在だ。
11分23秒で戦争の趨勢は決した。これは、一から六で見てきた、現実主義 (リアリズム)の原則を、根本から変えてしまった。
六 軍事力の行使は抑止と限定戦争によるべき
アメリカにとって、戦争のコストは極限まで下がった。自国の軍人の犠牲は数人。何千人単位で死者が出るのが当たり前だった一昔前の戦争と比べれば、極めて少ない。むしろ、段階的な限定戦争は敵に察知されやすく、最初から奇襲を仕掛けて指導部を皆殺しにした方が、犠牲が少ない。
五 敗戦国を徹底的に痛めつけて収奪してはいけない
そもそも必要がなくなった。犠牲はほぼ出ないからである。先日のベネズエラでの例では、石油生産を増加させて、むしろ富が増えるとも。利益はアメリカが管理し、ベネズエラに渡すと主張している。イランでも石油輸出を管理して、イラン新指導部に渡すと推測する論者もいる。
四 力の真空を作ってはならない
即座に自分、アメリカが勢力を拡大すれば問題ない。指導部だけをピンポイントで即時排除できるようになった。自分たちに都合の良い指導部に変わるまで繰り返せるようになった。つまり、現政権を崩壊させずに傀儡政権に作り替えられるようになった。これで、他国が勢力圏を求めて集まってくることはない。同時に、占領のコストを無くせる。
三、二 勢力均衡の原則
これは、アメリカにとっては無視してよくなった。どこの国の首脳部でも、常に監視し、即座に排除、殺害できる。敵対国でもこれができるなら、常時情報筒抜けの同盟国なら尚更である。自国に逆らう国が出てくる心配がなければ、自国が覇権国になれば、勢力均衡の原則に囚われる必要はない。
こうして、現実主義 (リアリズム)が長年積み上げてきた原則は、一 国際政治は無政府だが、無秩序であってはいけない、まで巻き戻された。
さらに、現アメリカ大統領の「経験の無さ」が、武器になっている。現アメリカ大統領は、アメリカの議員がよく通るルート、すなわち、法律家か軍人というルートを経ていない。なんなら、政治経験もほぼ無い。法律(国際法)、軍事、政治の常識が通じない。常識にとらわれない発想をしろ、相手の想像を超えろ、最先端を取り入れろという、ビジネスの論理をぶち込んでくる。後付けで見れば合理的だが、他国の専門家や、アメリカの政治家や軍人では、常識が邪魔をして、次にどんな行動をするのか、予想がつかないのだ。
ここで、筆者が以前言っていた、現アメリカ大統領の主張をそのまま受け取って、大規模戦争を避ける、平和をもたらす大統領だという主張と矛盾するのではないかという声が来そうだ。
現アメリカ大統領は、西半球、南北アメリカ大陸に引きこもるのではないかと思っていた(モンロー主義)。筆者の予想は大外れだった。しかし、現アメリカ大統領の一貫性はぶれていない。現アメリカ大統領は、「アメリカ人を戦争で死なせない」と約束した。なら、アメリカ人が死ななければ、アメリカファーストの範囲で、軍事力の行使そのものをためらうことはない。平和をもたらすについても同様。自分に逆らう者を圧倒的な力で排除して敵を無くせば、戦争にはならない。これが、力による平和だ。大統領に聞いたわけではないから分からないが、こう思っていそうだ。
一昔前だったら、自分が世界征服すれば平和になるなど言えば、笑われただろう。しかし、時代は変わった。11分23秒で勝敗を決めるAIと、それを使う予測不能な発想の大統領。これによって、世界の勢力図と常識は書き換えられてしまった。
次の大統領に代われば大丈夫と言う人もいるだろう。しかし、権力は握ったら手放せないもの。次の大統領がAIによる支配を手放すと決めつけるのは、楽観が過ぎる。しかも、時代はフィジカルAIだ。これを使って、完全自律兵器だけの軍隊を作れば、文字通り人的損失無しで絶大な軍事力を行使できるのだ。これからの時代、伝統的な国際政治が役に立たない、力の行使が、新たなニューノーマルになるだろう。
Ⅴ未来への課題 このまま進めてよいのか
さて、ここまで、リベラリズムはもちろん、伝統的な現実主義 (リアリズム)でも予測がつかない、ニューノーマルの時代に入ったことを見てきた。そして、同じ軍事力を基盤としたものでも、AI、現アメリカ大統領の前のそれとは、大きく異なることが分かったはずだ。
まずは、少なくとも、今までの常識が通じない世界に入ったことを認めなくてはいけない。しかし、現状を是とすることは別で、現アメリカ大統領の行動を支援することは、さらに異なる。
アメリカ国内の状況を見てみよう。まず、アメリカ入国のためには、SNSアカウントを申告することが必須になるそうだ。アメリカ国民に対しても、不法移民の取り締まりの名目で公然と監視が行われている。不法移民の扱いはさらに厳しい。強制送還という名だが、実際は第三国の収容所に送られ、しかも個別の裁判は無い。それに抗議すると、市民権があっても銃を取り上げられた上、即決で射殺される。大規模な国民監視や完全自律式AI兵器への自社AIの使用を拒否した企業が排除されたのは記憶に新しい。
今、現アメリカ大統領に拉致、爆撃されているのは、人権侵害甚だしい独裁者や、テロ支援国家だ。しかし、次の大統領、その次の大統領が、人権侵害を行う独裁者だけを標的にするとは限らない。アメリカがこのまま世界を監視し、絶対的な力を行使したとき、次のターゲットは日本かもしれない。つまり、アメリカ式の監視社会を、アメリカの安全を守るためとして日本に強制しない保証はないのだ。アメリカは、イスラム過激派、テロリストと目された人物を、他国から裁判なしで拉致して強制収容所に収容、拷問したことが分かっている。日本国内でAIによる監視が行われ、日本人が、「アメリカの安全の脅威になる」として拉致されないとは限らない。
今、現政権が虐殺を行ったイラン国民を見捨てれば、自国で独裁者が出てきたとき、他国に助けを求めても誰も取り合ってくれないという前例を作ることになる。そして、日本はアメリカの同盟国で、ロシア、中国、イラン連合との世界大戦は、筆者は絶対に嫌だ。そうなると、今回のイラン攻撃がアメリカの敗北や泥沼化で終わるのは、大変に困る。
しかし、ベネズエラ、イラン、その次、その次と、アメリカの同盟国だからと勝ち馬に乗り続けることは、本当に日本にとって、そして世界にとって望ましいことなのかは、よく考えてから決めた方がいい。
私は、たとえ不完全であっても、軍事力に依拠するものであっても、国際社会は秩序と協調を求めて努力すること、国内では、法の支配と人権の尊重がなされることを望む。今の世界では高望みだろうし、たどり着く方法の見当もつかない。しかし、望みとして持ち続けることはしたい。




