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最強魔導師エラーラの、論理的(バグだらけ)な世界征服  作者: 自殺


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9/10

定理5:ハードボイルドになりたい!(前編)

リメイク元

「エラーラ・ヴェリタス」知能の檻

「エラーラ・ヴェリタス」大怪獣進撃

「ナラティブ・ヴェリタス」酒と女と宗教と

「ナラティブ・ヴェリタス」爆発屋さん

「ヴェリタスの天秤」爆弾と疑心と過信

「ハードボイルドとは、アルコールをストレスで割り、そこに沈黙という名の氷を浮かべたものである」


王都の夕暮れは、鉄と油、そして微かな獣の匂いが混じり合う。

私、ナラティブ・ヴェリタスは、いつもの黒いドレススーツの襟を少しだけ立て、黄昏の石畳を歩いていた。

私の隣を歩くのは、事務所の助手であり、私の可愛い弟分でもあるゴウ・オータムだ。彼は不安そうに、私の顔色を窺っている。


「……ナラ姉ちゃん、本当に大丈夫なの? 相手は『魔獣』だよ?」


「問題ないわ、ゴウ。依頼内容は『学校のウサギ小屋の異変』でしょう? たかだかウサギ一匹、あたしの鉄扇を開く間もないわ」


私たちは、王都北区にある『王立第二小学校』の校門をくぐった。

ここはゴウが通う学校であり、彼のクラスメイトである飼育委員長から、「ウサギのミミちゃんが大変なことになった」と泣きつかれたのだ。

放課後の校庭は、異様な静けさに包まれていた。だが、飼育小屋の方から、可愛くない地響きと、鉄格子を噛み砕く音が聞こえてくる。


「グルルルル……ッ!」


そこにいたのは、直径3メートルほどに巨大化した、筋肉隆々の白い毛玉だった。

目は赤く血走り、可愛らしい前歯は鋼鉄を噛み砕く凶器へと進化している。どうやら、理科室から廃棄された「魔力増強剤」の残骸を誤食したらしい。


「……あれが、ミミちゃん?」


「うん……。普段はキャベツが好きな大人しい子なんだけど……」


ゴウが頭を抱える。

巨大ウサギ――魔獣化した『キラー・ラビット』は、私たちに気づくと、地面を蹴って猛突進してきた。

ドスドスドス!

校庭の土を巻き上げ、ダンプカーのような質量が迫る。


「危ない、姉ちゃん!」


「下がってなさい」


私は、一歩前に出た。

魔法など使わない。お母様エラーラのような派手な光線も、グリッチのような狂気も必要ない。

ここに必要なのは、純粋な「武」による躾だ。


「……お座り」


私は、突進してくるウサギの鼻先ギリギリで身を翻した。

サイドステップ。

ウサギが私の残像を通過する瞬間、私は腰の鉄扇を抜き放ち、展開した。


「鉄扇術・一の型――『兜割り』」


ガキンッ!!


硬質な音が響く。

私の鉄扇が、ウサギの後頭部を、的確に、かつ慈悲深い力加減で打ち据えた。

ウサギの巨体が空中で硬直し、白目を剥いてズズーンと倒れ込む。

土煙が舞う中、私は鉄扇をパチンと閉じた。


「……ふぅ。いい筋肉の締まり具合ね」


私は気絶して徐々に元のサイズに戻りつつあるウサギを見下ろし、思わず唇を舐めた。


「赤ワイン煮込みにしたら、さぞかし絶品でしょうね」


「ひぃッ!? な、ナラ姉ちゃん、食べる気!?」


「冗談よ。……たぶんね」


私は、駆け寄ってきた飼育委員の子供たちに、元のサイズに戻ったウサギを引き渡した。

「怖かったよぉ~!」「ミミちゃん死んでない!?」と泣く子供たち。私は彼らの頭を撫でてやる。


「気絶しているだけよ。もう変なものを食べさせちゃダメ。……さて、報酬をもらおうかしら」


「あ、はい……これ……」


子供たちが差し出したのは、なけなしのお小遣い。銀貨数枚と、銅貨がじゃらじゃら。

正規の探偵報酬には程遠いが、彼らの全財産だ。

私はそれをジャラリと受け取り、ポケットに入れた。


「……商談成立ね。これで、今夜は一杯やれるわ」


私はゴウにウインクをして、夕闇の校舎を後にした。

背中で子供たちが「お姉ちゃんカッコいい!」「また来てね!」と叫んでいる。

悪くない気分だ。

私はこの街の「掃除屋」。誰にも知られず、世界のバグを物理で修正する、孤独な探偵なのだから。


・・・・・・・・・・


場面は変わり、夜の帳が下りた王都の一角。

路地裏の雑居ビルの地下に、看板のない重厚な木の扉がある。

『バー奥泉』。

喧騒を嫌う大人たちが集う、王都の隠れ家だ。


カラン、コロン。


古風なベルの音が鳴る。

店内は薄暗く、ジャズが静かに流れている。磨き上げられたマホガニーのカウンターには、数人の常連客がそれぞれの孤独を楽しんでいた。


「……いらっしゃいませ」


カウンターの中でグラスを磨いていたのは、初老のバーテンダー、ハママツだ。白髪をオールバックにし、蝶ネクタイを締めたその姿は、この店の格式そのものだ。


「……いつもの」


カウンターの隅、一番暗い席に座っていた男が、グラスを傾けた。

王都警察のカレル警部だ。

彼はトレンチコートを脱ぎ捨て、疲れ切った顔でバーボンを煽っていた。


「……また、厄介ごとかい? カレル」


ハママツが、燻製ナッツの小皿を差し出す。桜のチップで燻されたナッツの香ばしい匂いが、カレルの鼻孔をくすぐる。


「ああ……。昨日は酷かった。王都のシステムダウンだ。……報告書を書くだけで、ペンが三本折れたよ」


カレルはナッツを口に放り込み、苦々しく笑った。

昨日の出来事――映画を見るために、王都の防衛システムを物理的に破壊して通り過ぎた、あの


「災害レベルの家族」の姿が脳裏をよぎる。


「全くだ。……あいつらは、災害だ」


カレルは氷が溶ける音を聞きながら、琥珀色の液体の向こうに、かつて目撃した数々の「伝説」を思い浮かべていた。

彼女たちが、いかにしてこの世界を救い、そしていかにして警察の胃に穴を開けてきたか。


「……以前、現れた『爆弾魔』の事件を覚えているか?」


カレルが独りごちるように語り出す。

それは、王都を震撼させた連続爆破事件の犯人、『爆発屋さん』との対決の記憶だ。


「犯人は、王都タワーの屋上で、街全体を吹き飛ばす魔導爆弾を起動させようとしていた。……我々警察は手も足も出ず、交渉人も失敗した。だが、そこに現れたのが、あのグリッチだ」


カレルの脳裏に、白色の髪の悪魔のような少女の姿が蘇る。


「彼女は、犯人の演説も聞かずに近づき、爆弾をひょいと奪い取った。『あ、これ綺麗!キラキラしてる!お姉ちゃんに見せよう!』とかなんとか言ってな」


「ほう」


「そして、彼女は爆弾を抱えたまま、遥か上空へと跳躍した。……そして、あろうことか、空中で爆発させたんだ」


ドォォォン!!


夜空に咲いた、巨大な花火。

黒焦げになりながら地上に戻ってきたグリッチは、ケラケラと笑っていたという。


『わー!大きな音!びっくりしたー!』


犯人は、あまりの恐怖と理不尽さに、自ら手錠をかけて自首した。


「……常識が通用しねえんだよ。あいつらには」


カレルはグラスを空け、おかわりを要求した。

彼の回想は止まらない。

もっと恐ろしい、神話級の記憶が蘇る。


「レヴィアタンの時もそうだ。……神話級の怪物が王都に迫った時、政府は逃げ出し、軍は機能不全に陥った。……だが、エラーラとアリシアは違った」


カレルは、震える手でタバコに火をつけた。


「エラーラは、瓦礫の上に立ち、防衛兵器のエーテル・ブラスターなんて目もくれなかった。ただ、近づいてくる神話の怪物に向かって、退屈そうに指先を向けたんだ」


『……フム。座標固定。圧縮率120%』


エラーラの指先から放たれたのは、魔法ではない。純粋な魔力を極限まで圧縮し、物理法則の穴を突いた「論理の一撃」。

光線ですらなかった。ただの「現象」として、神話の怪物は頭部を消し飛ばされ、塵となって消えた。


「そして、パニックを起こして暴動を起こしていた数万の市民たちを鎮めたのは、あのアリシア嬢ちゃんだ」


瓦礫の中で、泥一つついていないドレスで微笑む聖女。

彼女は拡声器も使わず、ただ微笑んで、こう言ったという。


『皆様。お静かに。……これ以上騒いで、おかあさまの研究を邪魔するなら、全員、廊下に立たせますわよ?』


その一言で、暴徒と化していた男たちが、一斉に正座した。

恐怖による支配ではない。絶対的な「母性」と「管理」による制圧だ。


「……あいつらは、最強だ。世界を救う力を持っている。……だが、同時に誰よりも迷惑で、人間くさい」


カレルは、バーボンのグラスを光にかざした。

あの日見た、圧倒的な光景。

そして、昨日見た、映画を見るためだけにシステムを破壊して通り過ぎていく背中。

それらが重なり、カレルの中で複雑な感情となる。


「……なぜ私が、そんな連中の尻拭いをしなきゃならんのか」


カレルは深いため息をついた。

その理由は、明白だ。

彼の最愛の息子、ゴウ・オータムが、あそこに入り浸っているからだ。


「……ゴウの奴め。親の心子知らずとはよく言ったもんだ」


カレルは、父親の顔になり、苦々しく笑った。

息子は今、エラーラの助手として、毎日目を輝かせて働いている。

いつ爆発に巻き込まれるかわからない。いつグリッチに改造されるかわからない。

カレルは毎日、息子の無事を祈り、胃薬を飲みながら、それでも息子を止めることができない。

なぜなら、エラーラの元で「科学」を学ぶゴウが、かつてないほど生き生きとしているからだ。


「……あそこは危険だ。だが、この腐った王都で、あそこだけが唯一、『真理』を追い求めている場所なのかもしれない」


カレルは、自分に言い聞かせるように呟いた。

警察官としての立場と、父親としての心配。

その板挟みこそが、彼をこのバーへと通わせる理由なのだ。


「……マスター。今日はいい酒だ。もう一杯くれ」


カレルがグラスを掲げた、その時だった。

カラン、コロン。

扉が開き、夜の匂いを纏った新しい客が入ってきた。


「……いらっしゃいませ」


入ってきたのは、黒いドレススーツを着こなした小柄な女性。

ドレスの裾に、微かに白い獣の毛をつけたまま、気取った足取りで歩いてくる。

ナラティブ・ヴェリタスだ。

彼女はカレルの隣、二つ空けた席に滑り込み、長い脚を組んだ。

そして、メニューも見ずに、低く作った声でオーダーした。


「……ジン・リッキーを。ライムは絞らないで」

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