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ヴェリタスの最終定理 PART4/飛竜の覚醒   作者: ♡Wan Liyue♡
●第13章:世界を駆ける者

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定理4:世界を駆ける者(4)

その日の夜。

エラーラの美しい顔は、魔導の光に青白く照らされ、額には汗が滲んでいた。

彼女が今、血眼になって構築しているのは、王都の地下深くで心臓のように脈打つ「巨大魔力炉」の次世代安定化魔術式だ。エラーラは、この術式が完成すれば、王都は今後百年は絶対の安全と繁栄を約束される……と信じて疑わない。

僕は静かに立ち上がり、彼女の背後へと歩み寄った。僕の気配に気づいたエラーラは、スレートから目を離すことなく、絶対的な「信頼」を込めた声で言った。


「すまないが、後ろの棚の上から、高純度の魔力観測用である水晶のロッドを取ってくれないかね。今、この計算から一秒たりとも手が離せんのだよ」


僕は無言のまま振り返り、棚の上に置かれていたその透き通るような美しい水晶のロッドに手を伸ばした。


『いま、殺す』


僕はその冷たいロッドを右手にしっかりと握り締め、一切の感情を排し、無表情のまま、両手で頭上高く振りかぶった。


ところが、その瞬間だった。

鼓膜を突き破るような轟音と共に、獣病院の二階の分厚い壁が外側から完全に粉砕された。

巻き上がる石膏の粉塵と砂埃の中から、一つの影が弾丸のような速度で飛び込んできた。


「なっ……!?」


僕が驚愕の声を上げる間もなく、その影は僕の懐へと入り込み、背後から生えた極太の尻尾の一撃で、僕の手から水晶のロッドを軽々と弾き飛ばした。ロッドは部屋の隅で乾いた音を立てて砕け散る。


「全く……この次元のあなたも、無防備すぎるのですよ」


砂埃が晴れたそこに立っていたのは──竜人の女性だった。

青い瞳は僕を冷徹に見据え、その背中からは強靭でありながら、どこか愛嬌のある極太の尻尾がゆっくりと揺れている。


「な、なんだね君は!私の計算の邪魔をしてくれるとは、万死に値するよ!」


エラーラが激怒して振り返るが、竜人の女性は彼女を一瞥すると、ふっと慈愛に満ちた、ひどく優しい微笑みを浮かべた。


「お怪我がなくて何よりです、エラーラ。……さて、そこの邪悪なイレギュラー。あなたを……この次元から完全に消去します!」


竜人の言葉は、どこか堅苦しくも丁寧な口調だったが、その奥には絶対的な殺意が込められていた。


「ふざけるな!僕は世界を破滅させる男だ!お前ごときが……!」


僕は激昂した。

しかし、竜人は指先を軽く鳴らした。

無詠唱。

それにも関わらず、部屋の空間そのものを塗り替えるほどの巨大で複雑な多重魔導陣が、僕の足元に展開された。


「なんだこれは……僕の理論が……最適化が……!」


「あなたの底の浅い悪意など、真の理の前では塵芥に過ぎません。消えなさい」


光が僕の肉体を包み込む。痛覚すら感じる暇もなく、僕の指先から腕へ、そして胴体へと、肉体が光の粒子となって分解されていく。僕が仕掛けた呪いも、時限式の破壊工作も、すべてがこの圧倒的な魔力の前に書き換えられ、無に帰していくのが分かった。


「嫌だ……僕は……世界を……!」


僕は、自分が何者であったのかすら忘れたまま、完全にこの世界から消滅した。


嵐が去った後のような静寂が、破壊された部屋に訪れた。

エラーラは目を丸くし、ぽっかりと空いた壁の穴と、竜人の女性と、空間の残滓を、交互に見つめていた。


「……あり得ない。いや、あり得ないという言葉は科学者として最大の敗北だが……今の魔導術式は……私が今まさに構築中であり、まだ半分も完成していない次世代魔術ではないか!」


エラーラは弾かれたようにスレートの残骸を拾い上げ、空間に残された魔力の痕跡をスキャンした。

魔導術式には、必ず製作者の魂の痕跡(サイン)が記載される。

エラーラの瞳孔が見開かれた。


「製作者……ええっ!?……エラーラ・ヴェリタスだと!? 私が作ったというのか、その完成版を!」


竜人の女性は、少しだけ誇らしげに胸を張り、眼鏡の位置を指先で直した。


「さすがはエラーラ。一瞬で術式のサインに気がつくとは。ですが、ここは私の管轄外の平行世界。長居は無用ですね。それでは、私はこれで」


竜人が踵を返し、壁の穴から夜空へと飛び去ろうとした、その時だった。


「待ちなさい!」


エラーラが叫んで手を伸ばすよりも早く、階下からアリアとケンジが駆け上がってきた。壁が吹き飛ぶ爆音を聞きつけて、武器を手に飛び込んできたのだ。

しかし、二人は竜人の姿を見た瞬間、その場に釘付けになったように立ち尽くした。


彼らは人間の夫婦であり、目の前にいるのは全く見ず知らずの竜人の女性だ。接点などどこにもない。

だが、魂を封印され、子供を持つという未来を永遠に奪われて絶望していた二人は、いや……二人の魂は、竜人を見た瞬間に、説明のつかない激しい共鳴を起こしたのだ。

理屈ではない。

血の繋がりでもない。

ただ。

魂の最奥で、強烈な「引力」が彼らを結びつけていた。


「あなた……もしかして……」


アリアの目から、大粒の涙が溢れ落ちた。

ケンジもまた、手にした武器を取り落とし、震える両手で顔を覆った。

竜人の女性もまた、歩みを止め、驚いたように青い瞳を見開いて二人を見つめ返した。

彼女の極太の尻尾が、戸惑うように床を叩く。

彼らが言葉を交わす前に、エラーラが沈黙を破った。彼女は両手を広げ、ハスキーな声で高らかに宣言した。


「フハハハ!分かったぞ!すべての計算が合致した!」


エラーラは目を輝かせ、竜人の女性をビシッと指差した。


「君の纏う魔力波長、私と同じサインを持つ未来の術式、そしてアリアとケンジの魂の反応!導き出される真理はただ一つ!君は未来、あるいは平行世界の、アリアとケンジの養子であり、おそらく……私の妻だね!?……ありがとう。私を心配してくれて」


その爆弾発言に、部屋の空気が一瞬にして凍りついた。

竜人の女性の顔が、耳の先まで一気に真っ赤に染め上がる。彼女は慌てて両手を振り回し、極太の尻尾をバタバタと暴れさせた。


「わ、私はただの王都魔導規制局の官僚であり、一介の……!そ、それに、あくまで危険人物の監視という名目であって、決して、その、心配したから来たとか、そういうわけでは……!」


早口で支離滅裂な言い訳をまくし立てる竜人の姿は、先ほどの冷徹な執行官とは打って変わって、ひどく愛らしかった。


「アスナ……?」


アリアは、目の前の竜人の名前など知らない。

だが、震える声でその名を呼んだ。

そして、堪えきれずに駆け寄り、見ず知らずの平行世界の娘を、その腕の中に強く、強く抱きしめた。

ケンジもまた、アリアの背中を包み込むようにして、アスナを抱きしめた。


「ああ……私たちの、娘。こんなに大きくなって……立派になって……!」


「お母さん……お父さん……」


平行世界のアスナ・クライフォルトにとって、彼らは間違いなく自分に惜しみない愛を注いで育ててくれた両親だった。

アスナの青い瞳からも涙が溢れ、彼女は大きな尻尾で二人を包み込むようにして、力強く抱きしめ返した。

魂の去勢という絶望を味わわされた人間の夫婦は、次元を超えてやってきた竜人の娘によって、その魂を完全に救済されたのだ。

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