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ヴェリタスの最終定理 飛竜の覚醒【8位】  作者: 王牌リウ
最後の変数

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23/56

定理12:不条理なゲームを攻略したい!(前編)

●リメイク元

「エラーラ・ヴェリタス」白い部屋

「エラーラ・ヴェリタス」心ある傍観者

「ナラティブ・ヴェリタス」残忍な観客たち

「絶望という名のシステムは、愛という名のバグが介入した瞬間に、解を失い破綻する」


王都の空は一点の曇りもない澄み渡った青色に染まっていた。陽光は石畳を眩しく照らし、平和な午後の活気を祝福するように降り注いでいる。

そんな昼下がりの空に現れたのは、一辺が十メートルを超える巨大な透明の立方体、魔導キューブだった。

広場に設置された巨大な街頭モニター、更には王都中の家庭にある魔導受像機が一斉に強烈なノイズを発し、一人の男の姿を映し出した。黒いマントを纏い、顔を歪な仮面で隠した男だ。彼は自らを博士と僭称し、歪んだ笑い声を王都中に響かせた。


『愚かなる王都の市民よ、刮目せよ!私はこの腐敗した世界に絶望という名の劇薬を投与する者だ。見ろ、あの空中の檻を! 中にいるのは無能な道化たちだ!』


カメラがキューブ内部をズームする。

意識を失っているように見える四人の女性。仮面の男は勝利を確信したように、不快な高笑いを上げた。


『このキューブには、私が開発した四つのトラップが仕掛けられている。逃げ場はない。慈悲もない。君たちはこれから、彼女たちが粉々にされ、絶望の悲鳴を上げて散っていく様を、その目に焼き付けることになるのだ!』


広場に集まった市民たちは、傘を差し、その光景を呆然と見上げていた。しかし、聞こえてきたのは仮面の男が期待していた絶望の叫びではなく、重たい「同情」の溜息だった。


「おい、あれって……探偵さんたちだよな?」


「ああ、間違いない。捕まったのか?」


「……可哀想に。あの犯人さん、きっとこの後、原型も留めないくらいボコボコにされるわよ」


「もう、見ていられないわ、あの犯人のプライドが粉砕される瞬間なんて」


王都の人々は、恐怖していなかった。彼らは深く、深く同情していたのだ。これから始まる理不尽な暴力の被害者となるであろう、哀れな犯人に対して。


キューブ内部。

最初に目を覚ましたのは、エラーラ・ヴェリタスだった。彼女の透き通った青い瞳は、既にこの空間の脆弱性を全て見抜いていた。


「フム……。目が覚めたら絶景の空中展望台とは、気が利いているねぇ。だが、この内装のセンスは論理的に言って落第点だよ」


エラーラは優雅に起き上がり、白衣の埃を払った。続いて、ナラティブ、アリシア、グリッチもむくりと起き上がる。


『目覚めたか、絶望の囚人たちよ!さあ、第一の試練だ!これは知能指数二〇〇以上でなければ解けない魔導パズル!制限時間内に解けなければ……』


「うるさいねぇ」


エラーラは懐から愛用の魔導聴診器、真理の眼を取り出すと、パズルのコンソールに当てることもなく、壁の裏配線に直接接続した。


「この配線の美しさ、まるでスパゲッティだねぇ。百年前のレガシーコードをそのまま流用するとは、知性への冒涜だよ。……ここをこうして……。よし、ちょうどキミの脆弱性だらけのメイン・ルーチンを、全世界に向けて公開添削してあげようじゃないか」


犯人の脅迫状が表示されていた壁面モニターが切り替わり、エラーラによる冷徹な添削画面が表示された。赤ペンで次々とバツが付けられ、仮面の男が心血を注いだはずの数式が、ただの「誤字脱字の山」として修正されていく。


『な、何をしている!? 貴様、私のパズルを……!』


「静かにしたまえ。今、キミの汚いコードをリファクタリングしている最中なんだ」


エラーラは犯人の声をミュートにした。絶望の密室は、一瞬にしてエラーラによる無慈悲な、あるいは一方的な教育の場へと変貌した。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん!私もその落書きを消すのをお手伝いするね!」


グリッチ・オーディナルが、エラーラの膝の上にのしかかるように抱きついた。彼女の狂気的な赤目は、数式ではなくエラーラの横顔に釘付けだ。


「グリッチ、重いよ。……そうだ、あそこにある第二の罠、あれが物理的なノイズになって添削の邪魔なんだ。ちょっとデバッグしてくれないかね?」


エラーラが適当に指差したのは、天井からせり出してきた巨大なプレス機だった。数トンの圧力を誇るその鉄塊は、下敷きになった者をトマトのように潰す凶悪な兵器だ。


「わかった!お姉ちゃんの邪魔をする悪い機械は、私が壊してあげるねぇ!」


グリッチは満面の笑みで跳躍した。彼女は「解く」という概念を持ち合わせていない。あるのは「破壊」のみ。


「えいっ!」


グリッチの細腕が、プレス機の急所である油圧シリンダーを、加減を知らない怪力で引きちぎった。


ドガァァァン!


爆音と共に、鉄塊が爆散する。しかし、グリッチの破壊衝動はそれでは収まらなかった。飛び散った破片が、エラーラが苦労して調整した空調のパイプを直撃したのだ。


プシューーーッ!


快適な暖房が止まり、代わりに冷却ガスが漏れ出し始めた。


「ああっ!グリッチ!キミはまた……!講義に最適な室温が台無しだよ!」


「えへへ、壊れちゃった!」


寒風吹きすさぶ中、今度はナラティブ・ヴェリタスが不機嫌そうにドレスの裾を直していた。


「寒いですわね……。それに、何より腹が立ちますわ」


ナラティブの腹の虫が、可愛らしくも切実に鳴った。


「お腹が空きましたわ。今の時間は、本来ならバー奥泉で特製ハンバーグランチを食べているはずでしたのに……。それなのに、何ですの、この三流の環境は」


その時、床が開き、第三の罠が出現した。それは無数の鋭利な刃が回転する、巨大な挽肉製造機のような落とし穴だった。


『ハハハ!その穴に落ちれば、貴様らはミンチとなり……』


「黙りなさい! ハンバーグの話をしている時に、そんな安っぽいミンチマシーンを見せるんじゃありませんわ!」


ナラティブの怒りが頂点に達した。彼女は鉄扇を開くと、罠の解除コードを探す素振りも見せず、回転する刃の中に鉄扇を叩き込んだ。


「あたしが食べたいのは!一流のシェフが作った! 手ごねハンバーグですわーーーーッ!」


ガギィィィィィン!


物理法則を無視した衝撃が、挽肉製造機を粉砕した。回転刃は飴細工のようにひしゃげ、モーターは火を吹いて停止する。だが、その衝撃波は余波となって、壁面の巨大モニターを直撃した。


バリーン!!


エラーラが熱心に添削していた犯人のメイン・アルゴリズム画面が、激しいノイズと共にブラックアウトした。


「あーーーっ!ナラ君!今、一番重要な『再帰関数の矛盾』を指摘するところだったのに!」


エラーラが絶叫し、手に持っていた解析ログの巻物を床にぶちまけた。部屋の中は、破壊されたプレス機の残骸、漏れ出すガス、粉々になったミンチマシーン、そして割れたモニターのガラス片で、もはやカオスそのものだった。


「あらあら、皆様。少々散らかしすぎではありませんこと?」


最後に口を開いたのは、アリシア・ヴェリタスだった。彼女は瓦礫の山の中でも、一滴の埃もつけずに優雅に佇んでいる。


「わたくし、喉が渇きましたわ。そろそろお茶の時間にいたしませんか?ここを出て、美味しい紅茶をいただきましょう」


アリシアが出口の扉に向かって歩き出す。すると、扉の前で最後の罠が起動した。空間から滲み出るように現れたのは、不定形の黒い靄。それは、人の精神を侵食し、最も恐れる幻覚を見せて発狂させる、禁忌の魔導AIシステムだった。


『ヒヒヒ……愛?希望?そんなものは無駄だ。私はお前の心の闇を暴く。お前が隠している憎悪を……』


仮面の男の最高傑作。触れる者すべての精神を破壊する悪夢の番人。エラーラたちですら、論理的対処に時間を要する厄介な相手だ。だが、アリシアは微笑んだ。聖母のような、慈愛に満ちた笑顔で、その黒い靄に近づいていく。


「まあ、可哀想に。こんなに真っ黒に汚れて……。貴方、今まで一度も『愛してる』と言われたことがないのですわね?」


『な、何を……? 私はシステムだ……感情など……』


「いいえ、分かりますわ。貴方は寂しいのです。誰かに認めてほしくて、そんな風にイタズラをしてしまうのですね。……いいのですわよ。わたくしが、貴方を許しましょう」


アリシアが、そっと黒い靄に触れた。魔力を持たない彼女の、温かな手が、冷たいシステムに触れる。


「愛していますわ。貴方が生まれてきてくれたこと、わたくしは感謝します」


『あ……あ、あ……』


AIの演算回路に、定義されていない変数が注入された。「愛」。論理では処理できないその熱量が、システム全体をオーバーヒートさせる。


『申し訳……ありません……私は……こんな……汚れた存在で……』


黒い靄が恥じ入るように縮こまった。そして凶悪なAIは、申し訳なさそうに自ら崩壊して消え去った。後には、解除された扉だけが残された。


「さあ、行きましょう。エラーラさん、ナラティブさん、グリッチさん」


アリシアが振り返る。エラーラはため息をつきながら、壊れたモニターを残念そうに見上げた。


「フム……。添削の続きは、キミを拘束した後にじっくりやってあげようかねぇ」


ナラティブは鉄扇を閉じ、埃を払った。


「そうですわね。早く行かないと、ランチタイムが終わってしまいますわ」


グリッチはエラーラの腕にぶら下がった。


「お姉ちゃん、お腹空いたー! ドーナツ食べよー!」


四人は、瓦礫の山と化した「元・絶望のキューブ」を後にする。

恐怖のデスゲームは、開始数分にして、ヴェリタス家による一方的な「お部屋の模様替え」によって幕を閉じたのである。

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