第二話 運が悪い早朝
ヴェガルの朝は結構早い。
「…んぁ……んんぅ……」
まだ日は昇っていない。体感気温は11℃くらいだろうか。横には上裸で寝てるカツラギがいた。
(コイツ…寒くねぇのかな)
少し離れた場所で軽くストレッチをして外に出る。
(竜になると起こしそうだしな…たまには悪くねぇし、このまんま行くか)
そして巣を出る。目的は朝飯。
(アイツが起きる前に調達出来れば良いんだけど…この辺はあらかた取っちまったんだよなぁ……また実るまでだいぶ時間かかるし…チッ、めんどくせぇ体しやがって。とっとと生えろや!とっとと!)
ヴェガルの主食は果実である。理由は人なんて食いたく無いからだ。なぜ人を食いたくないかはヴェガルの過去にある
◇◇◇
8年前のある日、今日はいつもと違った。外が煩い。最上級レベルの魔法が何かにぶつかる音が断続的に聞こえる。1つは何かを切り裂き、1つは何かを癒し、1つは何かから護っていた
目を覚ますとパパの姿が見当たらなかった
え…パパ…?どこ…?
嫌な予感が頭を駆け巡る。外はどうなってる。見ちゃダメだ。パパは外にいるはずだ。絶対に見ちゃダメだ
本能が見ちゃダメだと強く語りかける。でもアタシは見たかった。パパの手助けをしたかった。でも出たら殺さられるから。アタシの脚は竦んで動かなかった
どれくらい時間が経っただろうか。パパが巣に戻ってきた。と同時に、天井を尻尾で叩いて入口を塞いでしまった
『パパ!』
パパは虫の息だった。横っ腹には風穴が空いており、至る所が斬られて出血している
『…いい…か…ヴェガ?……ここから今すぐ逃げるんだ…非常口は作っている…だから…早く…逃げるんだ…』
『え…何言ってるの…?パパは?』
『パパはねぇ…エルグラントの人達と遊んでくるから…一緒には……行けないな…』
『なんで!パパも一緒に行こうよ!!……アタシ、独りヤダよ!…』
『良いかい…?ヴェガ…お前は…良い子だ。良い子だから…人を食べちゃいけないよ?…命を奪えば…いずれ仕返しが来るから…生き物に優しくしなさい…パパ…の…お願………い………だ─────』
その言葉を最期に、パパは息を引き取った。それと同時に入口を塞いでいた岩が破壊され、見たこともない奴らが入ってきた。逃げなきゃ殺される。直感が囁いていた。けれど、パパを置いていきたくなかった。例えそれが骸でも、パパはパパだから。幸い、アタシの体はまだ小さかったから、パパの陰に隠れられた。気配を消し、パパを殺した〝ソレ〟が帰るまで待った。
「遂に、殺ったんだな。死竜を」
「そうね…長かったわ…この死竜だけで何万人もの人が殺されたもの」
「ま、死竜もぶっ殺せた事だし、帰って酒のもぅぜぇ!酒ぇ!」
「またお前は酒か…ま、良いか!飲もうぜ!」
3人は談笑しながら巣を後にした。怖かった。憎かった。死竜ってなんなんだ。腹立たしかった。ついさっきまで生きていたのを殺した奴らの会話とは到底思えなかった。もしかして、パパが肉を持ってきた時、今のアタシみたいな事が何処かで起きていたのかな。
そう思うと、さっきまでメラメラ燃えていた復讐の炎は段々と小さくなっていった。命を奪うとは、誰かの幸せを奪うのという事だから─────
◇◇◇
「っ……」
(嫌なもん思い出しちまったな…………)
(…死竜か。随分とふざけたあだ名だ。アタシにも、親父にもちゃんとした名前があるってのに……)
そんな事を考えていたらいつの間にか森の中だった。
(んだここ。アタシは南の方に歩いてたから……んー…分かんね。まいっか)
カツラギが食えそうな果実が見つかるまでひたすら森を歩く。ヴェガルはそこらの果実の毒性も全部分解できるので全部食べるが、カツラギは人間だ。分解できないを前提に毒無しのものを選ぶ必要がある
中々見つからないなと思いながら歩いていると──
視界の奥に少年が居た。まだ年齢が2桁も行ってなさそうな小さな少年が
(ん?こんな時間にガキンチョが1人…牙狼に襲われたら無事じゃねぇぞ…?親は何してんだか…)
ヴェガルは少年の方に歩み寄り、声をかける
「おい、ガキンチョ」
その声にビックリしたのか肩を震わせ、少年はこっちの方を向く
「こんな時間に何してんだ。牙狼に襲われたら死ぬぞ?とっとと帰れ」
そう声をかけても少年から返事はなかった。ただひたすらに少年は怯えていた
「あぁ?アタシの顔になんか着いてっか?あに不思議そうにしてんだ───」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ───────ッ!!!!」
少年は全力でヴェガルから逃げてしまった。手に持っている籠に気を配る余裕なんて無かったのだろう。ボトボトと中に入ってた果実が落ちていく
(あーあー……んで逃げちまうかなぁ……それに、せっかく集めてたものも落としちまって………)
(…届けてやるか)
ヴェガルは落としたものを全部拾い、少年の後を追った。何となくだが草の踏み跡で場所は分かる。出来る限り全速力で少年が逃げた方向へ走っていった
(えーっと……この辺かな…)
人工的な明かりも見えてきた。恐らくあの辺が家か何かなのだろう。こんな朝早くに家に押しかけるのも悪い気がするが、細かいことを考えてても仕方がない
(にしても急に逃げ出してどうしたんだ…?やっぱアタシの口調が悪ぃのかな……でもこれ染み付いちまってるしなぁ……なんか治せるとこあるか帰ったら聞いてみるか…)
(んーにしてもガキンチョ速かったな…もうこんなとこまで来てたのか…何かしらの加護か…それとも専有能力のなんかか…ま、考えてるだけ無駄か…)
森もそろそろ終わりを迎える。恐らく少年が居るであろう集落も目の前だ
木が徐々に小さくなり、視界が開かれる。最後の藪を押し分けると待っていたものは────
「そ、それ以上近付くな──────ッ!!!!!!」
最悪の歓迎だった。
「…は?」
ヴェガルの姿を見て困惑する人もいれば警戒心を高める人も居る。叫んだ中年の後ろにはあの少年の姿があった。
「ちょ、ちょっと待てよ…!んでアタシ…剣を向けられてんだ?…」
大勢がエルグラントの国章が刻まれている剣や盾をヴェガルに向けて構えている
相手の人数の総勢は100にいくかいかないか位だった。
「そんな事決まっているだろおぉぅ!!貴様が〝死竜〟だからだ!!」
「は?ちょちょ…誤解だろ…?アタシの何処が死竜なんだ…?」
竜人は死竜と呼ばれるあの見た目とは大きく変わった見た目をしている。普通に人と接するくらいならバレはしないはずだ。それなのになぜ死竜である事がバレているのか。ヴェガルは理解が追いつかなかった
「そ、そんなの…目を見れば分かる…お、お前は死竜なんだ!」
あの少年が口を開く。ヴェガルは竜の時の黄金の眼と竜人の時の眼は全く変わっておらず、黄金の眼は死竜だというのはどうやら今のを聞く感じ一般常識の様だ
「は、はぁ…?…で、でも!アタシがここに来たのはそのガキンチョが落としたオロボの実を届けに来ただけで…」
「黙れぇぃ!!そんな戯言、俺らは信じないぞ!!全員、かかれ──」
「待ってください。エリオットおじさん」
エリオットと思わしき人物の言葉を遮るように青年が前に出る。それに合わせて魔術師とタンクも前に出てくる
「死竜を仕留めきれなかったのは僕たちの責任です。ここは僕達が処理しましょう」
「あの死竜よりも若く見えます。経験も実力も劣っているはず…あの時よりも強くなった私達なら余裕で勝てます」
「ッハハハ!なんだまだ居たのか!こりゃあまた美味いもん食えるなぁ!」
聞き覚えのある声。そう。目の前の奴らは8年前、ヴェガルの父を殺した張本人達だった
刹那、ヴェガルの頭に父の顔がフラッシュバックする
今、目の前のコイツらを殺すことは容易だ。だが、殺してしまえば父の願いを無視したことになる。そんなんじゃあ死んだ時に父に見せる顔が無い
(親父……アタシは……どうしたら…)
「行くぞッ!ハイン!ネーフェ!」
「おう!」「はい!」
オロボの実とは。
黄色の皮で包まれた甘い果実です
オロボの実ってなんだ?って思った方が1人くらいは居そうなので説明しときます。エルグラントやら死竜やらは後々…




