第一話 世界一希少な種族
さて、どうしようか。諦めの感情が8割だった。なんせ俺はサバイバル能力は0に等しい。筋トレはしてたから筋肉はそこそこついてるが、だからなんだって話だ。拳は刃の前では無力も同然。この世界でこんな田舎に刀狩令らしきものは無いだろうし。そこら辺のモンスターに小突かれてGAMEOVERがオチだろう
ただ…俺も多少は意地を見せてやりたいところだ。色々試してみた感じ、恐らく身体強化や特殊能力というものはない。本当に何も貰えていないのだろう。ま、何もしないよかましだ。冒険だ冒険!
森の方に行っても死ぬ未来しか見えないので反対側に足を運び始める。土の冷たい感触が足に直で来る。なんか…キモイな。土を生足で踏む機会なんてそうそうないし…なんか変な虫とか踏んでたらやだな…
闇雲に歩いていると辺りは途端に暗くなってきて一気に大雨が降り始める。
ってなんだ雨か…?にしても強えな…適当な雨宿り場所ねーかなぁ………おっ!良い感じ(?)の洞窟あんじゃーん!あそこで雨宿りするか。
急いで洞窟まで歩いて中に入る。ただ、洞窟の中は決して自然とは言えないものだった。まるで誰かが住んでそうな…そんな感じがした。緩やかな坂道の先には超巨大な空洞。なんだかドラゴンでも居そうな感じだ。
もしかして誰か居たりとか…?呼びかけたら返事きたりして…
そう考えた俺はすぐに息を吸う
「すみませえぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」
返ってきたのは俺の反響した声だけだった。ちぇっ、誰もいねーのか。まぁ居たら多分死ぬけど★
ま、誰もいないなら少し邪魔させてもらおうかな…
この空間は人間ひとりが住むにはデカすぎるんだよな…なんか違和感を感じんだよなぁ…
クソ長い坂道を下り終え、その場に倒れ込む
あー…なんなんだよ…なんでこんな事になっちまったんだよ…自然と涙が出ていた。
俺はあのクソ暑い生活がとっとと終わって欲しいとは思っていた。だけどあれはあれで日本の風物詩みたいな物だし。親は好きにさせてくれるから不自由は感じてなかった。異世界転移とか考えたことはある。ただあくまで自分が無双するとかいうしょうもない妄想に過ぎない
実際に転移してみたらどうだ。持ち物はサイダーだけ。チート能力なんてもんはない。こんなん新手の自殺だ!神は俺を見捨てたんだ!見守られていた訳でもないけど…
もう雨に打たれてなんかに喰われるのを待つのも1つの手かもしれない。けど痛いのはヤダな…
そういや、隅っこになんかあるな。フルーツ…かな?誰のか分からんけど食うか!
立ち上がった時だった。遠くから翼を翔かせる音が聞こえてきた。しかも俺の方に向かってきている
うわっなんだ!?
翼を羽ばたかせる度に鼓膜が破れるほどの轟音が響きわたる。
うるせえぇぇぇぇぇ!!!!!!!鼓膜破れるはバカタレェィ!
音が止んだと思えば着地したのかグラッと洞窟内全体が揺れる
「どぅわぁ!?!?」
急に揺れて俺は体勢を崩し、硬い岩場に思いっきり倒れる
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
今までで1番でかい声が出た。ほんとに痛い。しばらく痛みで動けなかった
俺のクソうるさい声に気付いたのか顔だけがひょっこりと出てくる。それは絵に描いたような深紅のドラゴンだった
あ。詰んだ
明らかに終わりだろう。俺は相手視点肉だ。飯だ。恐らく、いや確定で食われるだろう
ドラゴンに食われる最期か…まぁ悪くは無い…のか?
ドラゴンはズカズカと巣に入ってきて俺の目の前まで来る。体長は50mは超えているだろう。俺よりも爪の方がデカイドラゴンだ。
巨大な瞳がこちらをギロリと見つめる。威圧感だけでもう潰れそうな位だった。巨大な瞳が俺を凝視し続ける。いつ喰われるのかで俺の頭はいっぱいだった
「あ、あの───────」
俺が口を開いた瞬間のことだった
「……ゴオォ…ゥゥ…」
ドラゴンの喉奥が微かに鳴った。いや、微かと言っても俺からしたらだいぶうるさいのだが…
腹の底から響くような低音が洞内の壁を伝って返ってくると同時、異変は起きた──
バキバキと骨が折れるような音がドラゴンから鳴り始める。翼が胴体に引き寄せられ、だんだんと小さくなっていき、骨が折れるような音が絶え間なく洞内に響く。50mはあると思われた体は忽ち人と同じくらいの背丈へ変貌していた
紅く深みのある髪はロングツインテールになっており、動きやすさを重視しているのか、隠すべきとこ以外は曝け出しているコーデは引き締まった体とボディラインも相まって否応なく目を奪われてしまう
「ふぅ〜…」
彼女は軽く息を吐き、肩を回す。少し体を鳴らし、俺の方を向く。威圧感に塗れたドラゴンの時とは逆で可愛らしさがよく残った顔になっていた
「おい、生きてっか?」
「…ぇ?」
唐突な質問に声が出なかった。いや、誰だってこうなるだろう。急に目の前のドラゴン(元)に質問をされたら誰だって言葉が詰まるはず。これは俺だけじゃない。そうに決まってるんだ
俺が答えなかったのか、ドラゴン(元)がこちらに近付いてくる
「生気はあるんだけどなぁ…っしょっと…」
そう言い、ドラゴン(元)は俺の顎に指を当てる。当てたと思ったらふっと顎が下から持ち上げられた。黄金の眼がまるで俺の全てを見ているようでとにかく怖い。眼力だけで潰れてしまいそうだった。
少しの間の無言を先に終わらせたのは向こう側だった
「んだ、ちゃんと生きてんのか。心配させんじゃねーよ…」
「心配…?」
その時、俺の頭の中に〝心配〟という言葉が過ぎった
え…こういうやつって心配とかするんだな…てっきり全員皆殺しヒャッハーなのかと……
圧倒的な力を持つ者は傲岸不遜な性格ばっかだとてっきり思ってしまっていた。ただ、目の前の奴だけは違いそうだった。と、とりあえず感謝の言葉は伝えておこう
生殺与奪の権はいま向こうが握っている。多分小指で俺如き簡単に消し飛ばせるだろう
「あっえっと……あ、ありがとうございます?」
なに疑問形になってんだよぉ俺ぇぇ!!!!これじゃまるで向こうに感謝を求めてるクズみたいになってるじゃねぇか!やべ…終わったかも…
「んー?あー、感謝とかいらねーよ。アタシ堅苦しいの苦手なんだよ」
「は、はぁ…」
「んで、お前誰?」
「え、俺の名前…?」
「他に誰か居るか?」
この世界って日本氏名とか通じるのかな……こういう所って通じないイメージしかないんだが…ま、まぁ名前1つしかねぇし答えるしかねぇか…
「えーっと…葛城 悠です…」
「カツラギ?随分と珍しい名前してんだな」
「あぁえっと、葛城は名前じゃなくて苗字…」
「え?ユウが苗字じゃねぇの?」
「ちょ、っと特殊?というかなんというかそういう感じデス」
そう言うと彼女は顔を顰める。何かおかしかったのか?…いやまぁおかしいんだろうけど
「ま、いっか…アタシ「ヴェガル」よろしく」
「あ、あぁ…よろしく?お願───」
感謝を伝えようとした瞬間、尻尾で頬を引っぱたかれた
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
奇声をあげて地べたをのたうち回る俺、それを見てどうも不思議に思うヴェガル
なぁに「なんでこいつ痛そうにしてんだ?」見てぇな顔してんだよオメーのせいだよバカタレぇ!!!!
あ、ヤバい。本当に痛い……意識が…
◇◇◇
「ん…あぁ…?」
いつまで寝てたんだ…?雨はもう止んでるのか…っつーかヴェガルは?
洞内の何処にもヴェガルの姿が無かった。ふとフルーツの山を見ると全部無くなっていた
えっ…ドラゴンってフルーツ主食なの…?肉食とかじゃねぇんだ…
そういや俺ってなんで寝てたんだっけな……あ、頭ぶっ叩かれたからか…にしてもあいつ急に何しやがるんだ…
「ん、起きてんのか」
唐突に入口の方からヴェガルの声が聞こえてくる。
「っておいヴェガル!急に頭引っぱたいて何しやがる!いてーだろがこのヴァカタレ!!」
「あん?アタシあ硬ぇ口調嫌いなんだよ。お前の腹立つ口調が癪だったんだよ」
「だからと言って引っぱたく必要ねぇだろうが!俺の事殺す気か!」
「あぁ?誰があれで意識失うと思うんだよ!おめぇが弱すぎんだよ!」
「え…?ちょっと待て、あれ普通に皆耐えるのか?」
「え?当たり前だろ。あんな手加減して痛がるヤツお前が初めてだわ」
が、ガチかよ……あんな痛かったのに…
「つーかお前さ、弱すぎんだけど。能力は?」
「ないです」
「加護は?」
「ないです」
「精霊」
「なんすかそれ」
「武器」
「拳」
「…よく死ななかったな」
ほんとだよ。まぁ、魔物?みたいなやつは誰も居なかったし…死にはしなかったけど
「まぁ、魔物とか居なかったしな。多分俺よりも貧弱な人間でも────」
「はぁ!?」
俺の言葉を遮るようにヴェガルが声を上げる
「おい…お前今自分のことニンゲンって言ったか?」
「え、そうだけど…それが…?」
「知らねぇのか!?ニンゲンって世界でまだ4人しか観測されてねぇんだぞ?」
「はぁ!?!?」
う、嘘だろ…?この世界人間全然いねぇじゃねぇか!?
「え、えーと…まぁいい。ニンゲンなら街には行かねぇ方がいいぞ。色々と面倒らしいし」
「まぁ…そりゃそうだろうな…」
まさか俺が超レアな種族とはな…クソ弱いけど
「あー…」
ヴェガルは困ったように頭を搔く。そりゃ、俺みたいな奴がいたら色々面倒だろうな…弱いから扱いも困るだろうし
にしても俺は人間としては結構強い方なはずなんだけどな…こっちの世界じゃ最弱級か……
……ヴェガルの為にも巣を出よう
「んーっと……それじゃ、雨も止んだし、俺はここ出るわ。勝手に邪魔しててすまなかった」
「え──」
「それじゃ。」
いつまでも居候は良くないし。まだズボンとか乾いてないけど別に大丈夫だろ
「ま、待て!」
「え…?」
「お前みてぇな貧弱が外出てもすぐ死ぬだけだから…アタシの巣でしばらく暮らせよ…な?」
予想だにしない提案だった。引き留められるなんて思わなかった
「え…なんでさ。お前は俺が居なくても別に大丈夫だろ?」
「そーいう事じゃねぇんだよ…まぁ…良いから!しばらくはアタシの巣に居ろ!分かったな!」
「は、はぁ…」
正直、頭が追いつかなかった。巣から出ようとしたら止められた。相手は恐らくこの世界では最強レベルのドラゴン。住処を手に入れられて、敵無し状態。普通なら喜ぶんだろう。そりゃ野垂れ死より1億倍ましだ。だけど心の底で妙に引っかかった。
なんでだ…?なんで俺なんか…
ヴェガルは俺に何も求めてないように見える。非常食って訳でも無さそうだし、奴隷にするわけでもなさそう。単純に「弱いから放っておけない」って言ってるようにしか聞こえなかった。それが怖かった
この世界は考えなくても弱肉強食だなんてわかる世界。俺みたいな雑魚はそこらで死ぬ運命。それなのに目の前のコイツは俺の弱さを理由にして俺を守ろうとしている。たとえ希少だろうがそれがなんだ。珍しいだけで弱けりゃ邪魔なだけだ。俺は加護も能力もなんも無い。ただの厄介者だ。そんな厄介者に今居場所が与えられそうになっている
本当にいいのか…?俺は死なずに済むのか…?
そう思った瞬間、体の緊張がふっと解けた
「…分かった」
「ほ、本当か…!」
ヴェガルは小声で何か呟いていた。それを追求しようとは思わなかった。今はただ、生きる希望を与えてくれたヴェガルに感謝しか無かった
…そうだよな。せっかく親から貰った命。意味わからん場所に飛ばされた程度で諦めるなんて勿体ねぇな…
…余生を異世界で生きるのも悪くないか!
よし、そうと決まればとことん生きてやる!何の能力もない人間の底力見せてやんよ!
こうして俺の異世界生活は幕を開けたのだった──




